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第一章:リコリス、王さまをモッテモテにするって決めました!
第2話 わたしが王さまのところに来た理由(ワケ)(2)
しおりを挟むわたしは王妃さまに、何も言い返さなかった。それがきっと王妃さまを喜ばせない方法だって思ったから。
でも、お母さまの注意もちゃんと覚えていた。
『もし自分一人ではどうにもならない現実に直面した時、きちんと逃げずにそれを見つめて。きちんと周りを見回して、自分がどうすればいいのか、どうすれば生き残る事ができるのか。心を静めて考えるの。難しい事だと思うけど、でもそれが、幼い貴方が生きていく上で、きっと強い武器になるわ』
だから、王妃さまの言葉だってちゃんと忘れずに覚えていた。
これからわたしが向かうのは、きっととっても危ないところ。もしかしたらわたしなんてすぐに食べられちゃうかもしれないところだって。
でも焦らない。怖がらない。そんな暇があったら考える。
お母さまとの「お母さまより大きくなるまで生きる」という約束と、「お母さまのようになる」という夢を叶えるために、まずは魔王国の王さまに気に入ってもらわなければならない。
お母さまが言っていた。
この世で一番安全な場所は、権力者の側なのだと。権力者に庇護されそれが知らしめられている状況こそが、非力な人間の最善の防衛策なのだと。
わたしはまだ小さくて、力もないし助けてくれる人もいない。だから『頼れる人』が必要なのだと、そう教えられていた。
だから、会って早々お母さま直伝のイチコロなごあいさつをしたのに。
「はぁぁぁぁぁぁぁあああ……」
深いため息に迎えられてしまって、わたしはちょっと困惑する。
成功なのか、失敗なのか。お父さまをイチコロにした時の話みたいに、喜んでいる感じはない。でも怒っている感じでも、怖くもない。
「私も最初に見た時は、非常に驚きました。王国側が『友好の証に娘をやる』と言って寄越した娘、てっきり不戦条約の担保としての人質兼こちらを篭絡する目的で送り込まれた人材だとばかり思い込んでいましたから」
王さまの落胆に、彼の隣に立っている頭からトラ耳を生やした男の人も、何やら深く頷いている。
「まったく、陛下が『丁重にもてなせ』と言うから、わざわざ私自ら領地の境界まで迎えに行ったというのに」
「警戒し損。無駄足でした」と言いながらやれやれと首を横に振った彼は、残念そうな王さまとは違い、ちょっと面倒臭そうなものを見るような目で私を見下ろしている。
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