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第10話 彼が私を呼んだ理由(わけ)(1)
しおりを挟むこれまでまったく関わりを持たなかった彼が、何故私を急に呼び出す気になどなったのだろう。
しかも最初に私が入る事を嫌った執務室に、である。
その時点で、既に私の警戒心はマックスだった。
私が最も恐れる事は、やはり歴史研究を禁止される事。
次に歴史研究に割ける時間を奪われる事だ。
もしかして気が変わったのだろうか。
何かをしろと、またはするなと言われるのだろうか。
そう思うと、向かう足取りも重くなる。
前を歩くジョンについていく形ではあったけど、自ずとトボトボと歩く形になってしまった。
それに途中で気がついたジョンは小さく笑いながら「悪いようにはならないと思いますよ?」と言ったが、何を悪いと思うかは人それぞれである。
少なからず珍しがられてきた経験上、自分が普通から少しズレた存在である事は自覚している。
だからこそ彼の太鼓判にも、どうしても半信半疑にならざるを得なかった。
辿り着いたのは、初めてここに来た日に案内された場所の一つ、執務室。
扉の前に立ちノックするジョンごとその扉を見て、改めてその彫刻の繊細さに心惹かれる。
この屋敷自体古いのだけど、玄関とパーティー会場となる広い一部屋と応接室、そしてこの執務室の扉、この四つの扉には特に凝った彫刻が為されている。
それぞれ異なるモチーフを使った飾り彫りがされているのだが、前者三つは他者へのもてなしの心と辺境伯家の品格のために、特別に職人に依頼して作られたのだろうという想像が簡単につく。
しかし執務室に至っては、通常他人から見られるような場所ではない。
最初見た時には何故執務室なのだろうと思ったのだが、実は先日書庫室にあった先々代の手記に答えらしきものを見つけた。
“唯一無二の友人・ギルバートからの人生最大の贈り物は、毎日顔を合わせる馬の扉だろう事は間違いない”
目の前の扉のモチーフは、雄々しい馬のしなやかな立ち姿である。
どうやら先々代のご友人が彫刻家か何かだったのだろう。
その人から送られたのが、この扉という事なのだろう。
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