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第9話 女嫌いにも理由があるらしい(1)

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「あ、このキャベツ甘みがあって美味しいわ」

 朝食を食べなかったので「昼食ばかりは食べてください」とミアに言われたので、ちょっと本読みを中断してかじったサンドイッチが美味しくて、思わずそんな声が出た。

 千切りにされたシャキシャキキャベツは、水はしっかり切られているけど瑞々しい。
 一緒にサンドされたお肉はなんだろう。
 とてもジューシーでこちらも美味しい。

 もう一口大口で噛り付き口元を押さえながらモグモグとしていると、おそらく厨房で一通りの説明は聞いてきたのだろう。
 ミアが「それは」と口を開く。

「鹿肉の照り焼きとの事です。近くの林で獲れるそうですよ」
「初めて食べるかもしれないわ」
「増えすぎると作物を荒らすので、間引きがてら食べるのだとか」
「そういえば、この前読んだ本に鹿の角を掘って飾りを作ったりするという話が書いてあったわね。この領地では、すべての命を余すことなくいただくのが普通なのだと思うわ。とてもいい事だと思う」

 職にも自ずとその土地の特色や古くからの風習がある。
 そういうものが歴史を作るわけだから、こうして食べているだけでもすべては繋がって歴史に集約されていく事を肌で感じる事ができる。

「楽しそうですね、マリーリーフ様」
「そうね。私の知らない事がたくさんあるわ、ここには」

 私がそう答えると、彼女は少し呆れたようにため息をつく。

「普通は環境の変化を嫌うものなのですけどね」
「私だって変化に戸惑う事はあるわよ。それこそ結婚する事でもし歴史研究を制限されていたら、流石に落ち込んでいたと思うわ」
「そういうところが図太いという事ですよ」

 はぁとため息交じりに言われ、私は思わず小首をかしげる。
 そんな私を見た彼女は、何かを諦めたようだった。

「ところでお願いされていた屋敷内の様子の見回りですが」
「あ、どうだった?」
「特に仕事・人間関係共にトラブルはなさそうです。あるとすれば旦那様と使用人の間に若干の距離がある事くらいですが……旦那様に『屋敷の事に手を出すな』と言われているのに、何故このような事を気にするのです?」

 ミアが訝しげに聞いてくる。

 わざわざ首を突っ込んでケルビン様からの反感を買う事への危惧なのか、それとも純粋に疑問なのかは分からないけど、どちらにしろ答えは一つしかない。

「だって嫌じゃない。私が歴史に思いを馳せている横で、ギスギスしてたりトラブルが起きていたりしたら。きもちよく色々と妄想できない」
「貴女の価値観のすべては、歴史研究によって作られているのですね」
「えへへーっ」
「褒めてはいませんよ」

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