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第6話 何故そんなに怒っているのか(3)
しおりを挟むまったく気がつかなかった、と思ったところで「まぁ基本的に視野が狭いのは、マリーリーフ様の平常運転ですが」という淡々とした声で、優しく理解を示してくれる。
「ところで私、昨日何かミアに言伝なんてした?」
「はい。もし朝旦那様にお会いしたら『おはようございます』と言っておいて、と」
言われてみれば、たしかにそんな事を言ったような気もしてくる。
そうだ。
昨日の夜、ここで本たちを読み始めようとした時点で「おそらく朝ごはんはすっ飛ばす事になるだろうな」と思ったから、ミアにケルビン様への伝言をお願いしておいたのだ。
なんせここにきて、まだ二日目。
挨拶は、人との関係構築の基本だ。
流石の私でも最初くらいは、そういう事にも気を遣う。
「でも、何故ケルビン様は当てつけだなんて。私、そんな事一ミリも思わなかったのに」
「間違いなくそちらが少数派ですよ、マリーリーフ様。普通の人は、来たその日の夕食に『自らの体を鍛えるための日課があるから』などという理由で席を空けられたら、少しは不快に思います」
「そういうもの?」
「そういうものです。まぁ私から言わせれば『そういう思考になるのなら、そもそも初日くらいは融通を利かせればいいものを』と思いますが」
スンとした顔でそう言ってのけた彼女に、私は思わず苦笑する。
流石に他の人がいる場所ではこんな事は言わないものの、彼女の毒舌は昔からまったく変わらない。
私も彼女にその毒舌で、今までに何度注意された事か。
「あんな風に決めつけて言いがかりをつけようとするなんて、流石は『女嫌い・社交嫌いの辺境伯』と言われるだけの事がある、という事でしょうか」
「それを言うなら私だって、社交界で『歴史狂い』って言われているわよ」
「その自覚がおありなのでしたら、マリーリーフ様にも是非ともご自重いただきたいところです。そもそもそんな貴方だから、縁談もなく――」
つらつらとそのような事を言われて、私はもう苦笑いするしかない。
彼女の今の話を否定する言葉を、私はなに一つ持ち合わせてはいない。
実際概ね事実なのだ、言い返せる筈なんてなかった。
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