10 / 27
第5話 一人での食事も『好きなもの語り』でとても楽しく(1)
しおりを挟む屋敷内を堪能した後、三十分ほど自室で休憩した後に夕食の時間となった。
食堂までの道のりは、ミアが完璧に覚えていてくれた。
途中で彼女の道案内にお世話になりつつ目的地に着けば、広くて長いテーブルには既に夕食の準備がされていた。
まだ誰も着席していない食卓に私が迷いなく座れたのは、選択肢が一つしかなかったからだ。
「あの、ケルビン様の夕食は……?」
着席すると、既に銀食器の配置が済んでいたテーブルに給仕係のメイドが前菜を持ってきた。
彼女にそう尋ねると、少し困ったような顔をされる。
「いえ、旦那様は晩御飯をここではお召し上がりになりませんから」
え、そうなの?
純粋な疑問に一人頭上にクエスチョンマークを作っていると、ちょうどやってきたジョンがそれを見止めて「どうされましたか?」と聞いてくれる。
再度先程の問いを口にすると、彼は「あぁ」とどこか納得した声を発した。
「旦那様はこの時間、領地の安全のために自らを鍛えておられるのです。昼間はいつも好かない机仕事をしているので、食事の前のストレス発散も兼ねているのだと私は思っておりますが」
そういえば、彼が毎年社交界を欠席する理由は都市防衛だった。
ただの体のいい断り文句だと言っていた人も中にはいたけど、毎日体を鍛えているのなら、そう間違いでもないのかもしれない。
「なるほど。それでは仕方がないですね」
私がそう言うと、ジョンが驚きに目を見開いた。
私が「何故そんな顔をするのだろう」と首をかしげると、ハッとした彼が「申し訳ありません」と謝罪してくる。
「てっきりよく思われないだろうと思っていましたので」
私が見る限り、無理をされているようには見えませんでしたから。
そう言われ「たしかにまったく怒ってはいないけど」と考える。
「先程ケルビン様も『お互いに過ごし方に口出しはしない事にしよう』と言っていましたし」
「さようですか。正直言って、安心しました。ケルビン様は悪い方ではないのです。むしろ責任感が強く、何事にも真摯でストイックに取り組みます。しかし少々女性が苦手なようでして。どうしてもあのような態度になってしまうので、誤解されやすいのですが」
眉尻を下げ困り顔で、彼はケルビン様について語る。
その言い方は、一従者のソレというよりは身内に対するもののような向きを感じた。
「もしかして、幼少期からケルビン様の事を?」
そう尋ねると、彼は朗らかに笑いながら「はい」と答えた。
「先々代からこの家に仕えておりますので、ケルビン様の事は生まれた頃から。幼少期はそれはそれはお可愛らしく、よく仕事中の私を『ジョン』『ジョン』と言ってついて回って……と、私ばかり話してしまい、申し訳ありません」
「いえ。ジョンがどれだけケルビン様の事を好いておられるのか、よく分かりました」
仕事では有能そうな彼の意外な一面に、私は笑いながら答える。
15
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。

無口な婚約者の本音が甘すぎる
群青みどり
恋愛
リリアンには幼少期から親に決められた婚約者がいた。
十八歳になった今でも月に一度は必ず会い、社交の場は二人で参加。互いに尊重し合い、関係は良好だった。
しかしリリアンは婚約者であるアクアに恋をしていて、恋愛的に進展したいと思っていた。
無口で有名なアクアが何を考えているのかわからずにいたある日、何気なく尋ねた質問を通して、予想外の甘い本音を知り──
※全5話のさらっと読める短編です。

【完結】婚約者なんて眼中にありません
らんか
恋愛
あー、気が抜ける。
婚約者とのお茶会なのにときめかない……
私は若いお子様には興味ないんだってば。
やだ、あの騎士団長様、素敵! 確か、お子さんはもう成人してるし、奥様が亡くなってからずっと、独り身だったような?
大人の哀愁が滲み出ているわぁ。
それに強くて守ってもらえそう。
男はやっぱり包容力よね!
私も守ってもらいたいわぁ!
これは、そんな事を考えているおじ様好きの婚約者と、その婚約者を何とか振り向かせたい王子が奮闘する物語……
短めのお話です。
サクッと、読み終えてしまえます。

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!
みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。
結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。
妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。
…初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる