女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

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第3話 雪のような土地と、雪のような彼(2)

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 窓から見える景色は、深い緑と白。
 いつからかチラホラと降り始めた雪が、周りの林を白く彩っている。
 人の姿はあまり見ない。
 通る道の多くが林なのだから当たり前かもしれないけど、すれ違う馬車は一つもない。

「やはり聞いていた通り、閉鎖的な領地という事なのかしら」

 普通なら、商人の馬車くらい居そうなものだ。
 実際に通りがかりの領地ではそういう事も多くあったのだから、他領と比べてそういう向きがある土地なのは間違いない。

「雪が降っては足元がおぼつかないのでは? 寒いですし」
「まぁそうだけど」

 シレッとしたミアの声を聞きながら、窓の外を見てこの領地の歴史に思いを馳せる。

 歴史はその土地の人が作る。
 人の行動が気候に左右されるのならば、やはり他とは違う環境のここは、他とは違う歴史が存在しているだろう。
 うーん、はかどる……。

「マリーリーフ様、見えましたよ」

 ミアの言葉で現実に引き戻され、進行方向に目を向ける。

 いつの間にか道は開けていて、どうやら馬車は町の外円を走っているようだった。
 家々の屋根は先程の林と同様にやはり白く飾り付けられており、厚着の人々の姿も見える。

 その向こうに、一際大きな建物があった。
 ドシッと街に鎮座するような佇まいの屋敷は、それなりに年季が入っていそうだ。

 馬車はあっという間に町の外円を回り切り、屋敷の前へと到達した。
 馬車についている我が領地の家紋を見たからか、門は開きスムーズに中へと入れた。

 止まった馬車から、ミアが先に降りるために扉を開ける。

 どうやら雲の切れ間に太陽が差し掛かったらしい。
 うっすらと積もった白い雪が、光を反射して眩しかった。


 タラップを踏んで馬車から降り、改めて屋敷の全体を見る。

 他領よりも屋根の傾斜が強いのも、玄関の扉に数段の階段を経る必要がある事も、おそらく積もった雪のせいで日々の生活に影響が出ないようにするためだろう。

 こういうのを見るのは好きだ。
 そこに歴史を、人々の営みを感じるから。

 そんな事を思った時だった。
 ガチャリと玄関の扉が開く。

 そこには一人の男性が、後ろに老成した執事を従えて立っていた。

 スラリと背の高い銀色の髪の美丈夫に、黒い服が似合っていた。
 身長差で必然的にこちらを見下ろす形になったネイビーの瞳は、まるで雪のように冷たい。

「お前か、ウォーミルドの女は」

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