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第1話 友好と借金の形としての結婚?!(2)
しおりを挟むそんな私の内心を知ってか知らずか、お父様は声を弾ませ嬉しそうに経緯説明を始める。
「実は以前、飢饉の折にノースビークから援助を受けていてな。それがまだ返せていない。社交に興味にないお前は知らんだろうが、ノースビークとは私が幼い頃からの付き合いでとても気心が知れている。でもだからと言っていつまでも返せぬ借金を抱えていれば、いつ友好関係にひびが入るか分からん。お前もそう思うだろう?」
「それはまぁ、たしかに」
タイムリーにも今読んでいるこの『破滅と再生』という本には、いつまでも貸しを返さない友人国主にしびれを切らした国王が戦争を起こすという、二国間の歴史変遷が綴られている。
国同士でさえそういう事が起こり得るのだ、領主同士であれば猶の事そういう事があってもおかしな話ではない。
国同士の争いに比べれば領地同士なんて小規模だけど、そこに人が住んでいる以上、巻き込まれる人々は存在する。
領地同士の友好関係が崩れないように努力するのは、貴族である私たちの役割の一つだ……と考えれば、たしかにうまく立ち回るための婚姻というのは、貴族間でもよく取られる選択肢ではある、のだけど。
「お相手は北の端、ノースビーク辺境伯家の当主・ケルビン様だ。あちらの方が少し歳は下になるが、若くして当主になった傑物だぞ?」
――ノースビーク辺境伯領。
王国の北の端にある領地で、長年隣国と小競り合いを繰り返している守りの要。
気候は寒冷で、よく雪が降り、開墾されていない林に囲まれるようにして都市があるため閉鎖的で、他の領地とは異なる独特な文化や歴史が――。
「マリー、どうせ思いを馳せるのならノースビークではなくケルビン様の事にしなさい」
「もしかして声に出ていましたか?」
「聞かなくても分かるわ、そんなもの」
そんなもの、だなんて酷い。
「ケルビン様は、領地経営はもちろん、ご自身が先頭に立ち隣国との小競り合いを捌く。それだけの剣の使い手であり、見目もいい上に本人は堅物。周りに女っ気はまったくないから、愛人の心配もない!」
「たしかに愛人がいると、どちらが先に身ごもるかで嫁ぎ先の家での扱いが変わるなんて話はザラに聞きますから、浮気性よりはいいでしょうが……ノースビーク辺境伯家の若領主様が二十を超えても未だに妻を迎えていないのは、女嫌い・社交嫌いだからではないですか」
何事も物は言いようだ。
お父様はこういうところに、変によく頭が回るのだから困ったものである。
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