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第二章:初めて貴族の友人を作る。

第5話 セシリアのエゴ(2)

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 その声は、少しの怒気を孕んでいた。

 相手を威圧するほどの怒りではない。
 しかし怒りの感情がそこにはあると確かに分かる。
 そんな声を向けられて、レガシーはまた少し疑問を内包した驚き顔になった。

 そんな彼の表情が、セシリアの中の怒りを更に加速させた。

 どうして。
 そんな一体誰に向けたいのか分からない感情が、セシリアに言葉を紡がせる。

「無理矢理飲み込もうとしたところで、苦しいだけで本当の意味では納得なんて出来ません。それなのに何故貴方はそんな無駄な事をするのですか」

 セシリアは、どうしようもなく苦しかった。
 自分の本音を封じ込めようとしている、彼がを見るのが。


 それはまさしく、セシリアのエゴと呼べるものだっただろう。

 セシリア自身、その自覚はあった。
 しかしそれでもこの感情は、絶対に抑えたくなかった。
 それはたとえ社交の仮面を被っていても変わらない、セシリアの本質とも言える思いだったからだろう。


 彼は、もしかしたらセシリアがなっていたかもしれない未来だった。


 セシリアもまた、他とは違う。

 今はその自覚があり、それを受け入れる事も出来ている。
 そしてその違いを『一つの個性だ』と思えている。

 しかし周りのギャップを、こんなにもスムーズに受け入れる事ができたのは。

(間違いなく家族のお陰だ)

 それは例えば外界から子供を守る掟を作った伯爵家の先祖のお陰であり、周りに触れるよりも前に『覚悟』の時間をくれた両親のお陰であり、先を歩く頼れる兄姉の存在があったからだ。

(私は、1人じゃなかった)

 それがセシリアとレガシーの違いで、それしか違いは無いのである。
 

 そして、だからこそ歯痒い。
 
 彼はきっと、そういう人達に恵まれなかった。
 だからこんなにも苦しそうにしていて、しかも「それが正しい行いなのだ」と誤認しているのだ。
 

 「それは間違っているのだ」と誰かが彼に教えてあげなければ、彼はずっと「周りと違う自分が悪いのだ」と自分を責め続けるだろう。
 しかしそれでいて、いつまで経っても心の奥底には納得できない自分が居座り続けるのだ。
 
 そしてその境遇に共感しその痛みと彼の未来が、セシリアには想像出来てしまったから。

「ここ限りの話にすると、オルトガン伯爵家の名に誓いましょう。ですから自分を騙さないでください」

 セシリアは、そう言って彼の目を真っ直ぐ見据える。

「今だけでも良いですから正直に答えてください。貴方は本当に『当たり前だ』と、そう納得しているのですか……?」
 
 自らのエゴで、セシリアは彼の心に手を伸ばした。
  
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