上 下
36 / 70
第一章:初めての社交で暗躍する。

第19話 揶揄う彼に、満面の笑みを(1)

しおりを挟む


 クラウンが去った後、一仕事終えたセシリアに労いの声をかける者が居た。

「お疲れ様。それにしても凄いな、セシリア嬢は」

 驚いたような、感心したような。
 そんな声色を素直に示しながら話しかけてきたのは、つい先ほどまで楽しく会話をしていた相手・ケントである。

 クラウンの強襲の際、ケントは空気を読んで一言も口を挟まなかった。

 それは見方によってはセシリアに助け舟を出さなかったという風にも取れるが、セシリアにとってはその対応は実にありがたい事だった。
 
 セシリアが想定していた『最悪』の登場人物は、あくまでもクラウンとセシリアの2人だけだった。
 もしもそこに変な正義感で介入されれば、事運びに少なからず影響してしまっただろうし、そうなれば間違いなくもう一度作戦を立て直すという労力がかかっただろうから。


 セシリアは視線をケントの方に向けると、まずはもらった労いに礼を述べた。

「お褒めに預かり光栄です」

 そして「しかし」と、もう一つ言葉を付け足す。
 
「とは言っても、私は別に大した事などしていませんよ」

 これは謙遜ではなく、知らないフリだった。
 しかしそんなセシリアを、彼は見逃す気は無いようだ。 

「いやいや、あの言葉選びは完全に『狙ってた』でしょ」

 そう言った彼の目の奥が僅かに光ったのを、セシリアは見逃さなかった。

 その光は個人的な興味なのか、友人の妹への賞賛なのか、それとも利用価値を見出したからこそのものなのか。
 その全てが彼の中に渦巻いているように見えた。
 しかしあまりのごった煮状態に、どれを主軸にした底光なのかが分からない。


 そんな彼の心の動きに、セシリアは反射的な警戒心を抱いた。
 するとそれを打ち消すように、彼は言う。

「心配しないでよ、俺はどっちかというと『君たちの陣営』だ。君たちの味方になる事はあっても、敵に回る事は無いよ」

 セシリアはそう告げてきた彼を見据え、表情を読んで安堵した。

 そして。

(なるほど、確かに彼はこちらの敵に回る気はない様だ)

 そう思うと同時に、セシリアは彼への評価に上方修正を入れる。


 ケント・ ドルンド。
 音楽に造詣が深く、楽器の扱いに長けた『保守派』貴族家の第一子息。
 今年の『学生会』の一員で気さくな性格。
 周りからも一定の支持を得ている、兄・キリルの友人。

 しかしそこに今、新たな一文が加わった。
 
 一定以上の社交に関する観察眼と思慮がある。
 そして策略家。

 でなければ、先の一連のやり取りからセシリアの凄さを知る事もあんなに様々な感情が彼の中に渦巻く事もない筈だ。

 だから。

(こちらの敵になるつもりはないみたいだから、今のところは必要以上の警戒心を抱く必要は無い。でも、一定の警戒心は必要だ)

 彼は確かに兄の友人ではあるが、セシリアの友人ではない。

 そういう信頼は、まだ2人の間には存在しない。

(なら、「その実力がある」と気付いた以上、足元を掬われない程度には彼の言動に気をつけた方が良い)

 セシリアはそう、自らに結論づけた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...