上 下
28 / 70
第一章:初めての社交で暗躍する。

第14話 お兄様の妹ですもの(2)

しおりを挟む


 そんな2人の様子とケントによるこのコミュニティーへの参加承認により、注視していた視線達のほぼ全てが友好的な色に変わった。

「よろしくー」
「楽しんで行って」

 片手を上げるジェスチャーと共に、幾つかそんな言葉を投げられた。

 なるほど、確かにここはケントの言葉に違わず、実にライトな空間の様である。

 そんな彼らに、セシリアも先ほどとは違って略式の礼で「よろしくお願いします」と彼らに応じた。
 
 礼をしたのは、流石に初対面の年上に対していきなり手をふり返すのも気が引けたからだ。
 社交場とは違い満面の笑顔付きで応じたので、おそらくその誠意と「溶け込む気はある」という気持ちは伝わっただろう。


 そして、それらがひとしきり終わったところで。

「ところでケント様、一つお聞きしても良いでしょうか?」
「良いよ、何だい?」
「此処は一体どういう集まりなのでしょうか……?」
 
 それは、セシリアがこのコミュニティーを遠目で見ていた時からずっと気になっていた事だった。


 このコミュニティーは、実に『バランス』が良い。
 男女の比率も、派閥の比率も、爵位の比率も。
 その全てがほぼ均等になっているのだ。

 これは大人達の社交場を含めても極めて珍しいケースである。
 そしてセシリアがこのコミュニティーを『面白い』と形容した理由も此処にあった。

「このお茶会には、確かに比較的様々な派閥や年齢層が集まっています。しかし此処までバラエティーに富んだ社交場というのも珍しいですよね?」

 唯一偏りがあるのは年齢層のみ。
 社交場に効率の良さを求めるセシリアからすると、此処はほぼ満点に近い。


 セシリアの疑問に、ケントは「あぁそれは」と教えてくれる。

「ここが『学生会』経由の集まりだからだよ」
「『学生会』……ですか?」

 その言葉を受けてまずセシリアの脳裏に浮かんだのは「『学生会』って何だろう」という疑問だった。

 それは、少なくともセシリアの脳内辞書には存在しない言葉だったのだ。

 
 セシリアが小首を傾げると、その様子を見たケントが何故か楽しそうに喉を鳴らしながら笑った。
 それを「どうしたのだろう」と思いながら眺めていると。

「あぁ、いやごめん。反応が、知り合った当初のキリルと全く同じだったものから」

 そう言って、彼は口元に手の甲を当てながら笑いを堪えようとした。
 しかし残念ながら、それはただのポーズにしかならなかった。
 
「アイツ、色んな事知ってるくせに、学校の組織構造とかは全く知らなかったんだよな。で、アイツがそういう反応する事って滅多に無いから今でもよく覚えてる」

 そう告げた彼の声は、間違い無く笑いを含んでいる。
 全く隠せていない。

「その癖知らない事を知りたい欲求は人一倍あるんだから、毎度毎度説明するこっちは大変だ」

 と、そこまで言うと、彼は一度言葉を止めた。
 そして口元を隠していた手を退けて、ニヤリとセシリアに笑ってみせる。

「君も、同じ口かな? セシリア嬢」

 その声には、明らかな揶揄いの要素が含まれていた。
 しかしそこには不思議と嫌味を感じない。

 それは彼の持つ天性のものなのか、それとも友人の妹という気安い関係地だからこその気楽さか。
 まぁどちらにしても、気さくに対応できそうなのでセシリアとしては有難い。

「勿論気になります。だって私、お兄様の妹ですもの」

 少し拗ねたように、しかしそれでいて素直に、セシリアはそう告げた。
 そして視線で続きをせがんで見せると、ケントは頼られたのが嬉しかったのか、嬉しそうにしながら「よし良いだろう」と胸を張る。

「『学生会』っていうのはね、学校で行われる年間行事を仕切る人達の総称なんだ」

 そう言って、学校について少し教えてくれる。

 
 曰く、「学校では『生徒たちの自主性を重んじる』という大義名分の元、学生達に行事の指揮を取らせる」という事らしい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです

四馬㋟
ファンタジー
妹に婚約者を奪われた挙句、第二王女暗殺未遂の濡れ衣を着せられ、王国を追放されてしまった第一王女メアリ。しかし精霊に愛された彼女は、人を寄せ付けない<魔の森>で悠々自適なスローライフを送る。はずだったのだが、帝国の皇子の命を救ったことで、正体がバレてしまい……

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「『面倒』ですが、仕方が無いのでせめて効率的に片づける事にしましょう」  望まなかった第二王子と侯爵子息からの接触に、伯爵令嬢・セシリアは思慮深い光を瞳に宿して静かにそう呟いた。 ***  社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇する。 とある侯爵家子息からのちょっかい。 第二王子からの王権行使。 これは、勝手にやってくるそれらの『面倒』に、10歳の少女が類稀なる頭脳と度胸で対処していくお話。  ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第2部作品の【簡略編集版】です。 ※完全版を読みたいという方は目次下に設置したリンクへお進みください。 ※一応続きものですが、こちらの作品(第2部)からでもお読みいただけます。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)

青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。 父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。 断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。 ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。 慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。 お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが この小説は、同じ世界観で 1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について 2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら 3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。 全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。 続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。 本来は、章として区切るべきだったとは、思います。 コンテンツを分けずに章として連載することにしました。

処理中です...