【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 ～社交の輪を広げてたらやっぱりあの子息が乱入してきましたが、それでも私はマイペースを貫きます～

第一章：初めての社交で暗躍する。

第10話 事実を織り交ぜた真実（2）

　まず、クラウンとの噂の件について。

「事前に手紙で侯爵から謝罪申し出があったのは完全なる事実」

　これは「噂に準ずる事実、つまり『ドレスが汚され退場した』という事実は確かに存在した」事を肯定した上で、「侯爵家と我が伯爵家があの件を機に対立している」という噂に反論した事になる。

　先の侯爵達とのやりとりの中で『劇』こそ渋ったものの、ここで一連の件にケリをつけたいというのはセシリアの本意だ。
　だからまずは余計な贅肉をそぎ落とす策を講じたのだ。

　つまり。

「モンテガーノ侯爵家が『王城パーティーで権力を笠に着てセシリア様を追い出した』という事実を認めて謝罪し、オルトガン伯爵家は既にソレを許している」
「そう思ってくれていれば上々ね」

　クラウンの物言いに、セシリアが頷きながらまた一口グラスを呷る。


　この解釈のミソは『侯爵家が噂の根底のとなった事件を事実と認めた』という部分にある。

　これは、おそらく今日以降にあちらが行うだろう印象操作への対抗だ。

　セシリアの予想では、彼方はまずその事実自体を否定しにかかるだろう。
　それを封じる事で、先程休憩室で言われた「相手に付け入るスキを与えない」にも繋がるのだから今回のやり取りのキモに他ならなかった。




　次に、セシリアと第二王子との噂については。

「『見初められた』なんていう事実も、存在しない」

　セシリアは、確かに第二王子から声をかけられた。
　しかしそこで得たのは、あくまでも『仲良くなる権利』である。
　
　それは、相手からセシリアへの『親交を深めたい』という明確な意思表示だ。
　しかしその親交の方向性は明示されていない。
　つまり、現時点でこれは『見初められた』などという恋愛方面の話ではないのだ。

　まぁ、そうでないという保証も無いのだが。

「そもそもこの噂は『明示されていない曖昧さ』のせいで面白おかしく広がっちゃってるいるのよ」

　つまりこれは「どちらとも取れるから、より面白い方に傾いた噂」である。
　そして面白いからこそ、他人の興味をそそり加速度的に広がっていく。

　そしてその場合、当事者の言葉というのは大切だ。
　ここで不明瞭を「ただの噂だ」と明瞭化する事で「なんだつまらない」と噂は失速する。
　
「今回はそちらの噂にはノータッチのつもりだったのだけれど、その機会を得たのは僥倖だったわ」

　こういう話題は周りから降ってもらって初めて純粋な弁解ができるというものだ。

　自分で話題を出して否定するなど、愚の骨頂。
　必死に否定しているように見えてしまい、最悪「そんなに必死に否定して、本当は事実なんじゃ……？」と勘繰られる事にもなりかねない。

　それでは逆効果だ。