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フィーリアを追い出した後のドゥルズ伯爵家①

第5.5話 レイチェル・ドゥルズはほくそ笑む(2)

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 上級貴族に対して多くのパイプを持ち、上手く渡り合っている。あの愛想のなさでそうなのだから、きっとうまく世渡りをしているのだろう。
 実に、私が知っている『貴族』らしい。
 見た目にもそれなりに気を使っているようで、身につけるものはすべて通常の伯爵家以上、下手をすると侯爵家と同等の品質のものだったりもする。


 私は、ぬるま湯につかっているような男は嫌いだ。
 せっかく『貴族』なのだから、上を目指す野心が欲しい。
 
 その上、社交界に出られなかったせいで得られなかった上級貴族としての恩恵――周りからの様々な優遇が、得られる場所にどうしてもいたい。

 私だって『貴族』なのだから、体調が戻った今、婚姻の義務を果たさねばならない。どうせ嫁ぐなら侯爵家以上がいいのだけれど、この年齢では難しいだろう。
 娶られたところで、相手は間違いなく「娶ってやった」という心情でいるだろうと思えば、私の中では論外だった。

 その点、彼ザイスドート・ドゥルズの隣はちょうどいい。

「お父様。私、彼の所に嫁ぎたいわ」

 私のこの一言で、婚姻はトントン拍子で進んでいった。



 婚礼の後、今日から彼と共に暮らすのだという当日、屋敷の前でとある女が待っていた。

「ようこそ、レイチェルさん」

 弱気に微笑む、平凡な女。貴族だろうとは思うけれど、あまりに地味な服装に私は思わず「何だこの女は」と思った。
 それが、フィーリア・ドゥルズを初めて認識した時の印象だ。

 思えば社交パーティーで、ザイスドート様の隣に度々地味な女が寄り添っていたような気がする。
 社交中めったに話さずずっと彼の隣にいるものだから、地味すぎてその存在を認識できていなかったけれど、どうやらこの女が彼の正妻であるらしい。

 ――どうせ喋らないアクセサリーなら、私の方がよほど役に立つわ。
 
 心の中で、私と彼女の立ち位置が決まった瞬間だった。


 ザイスドート様は相変わらず愛想が無いけれど、生活としてはおおむね快適だった。
 問題は一つ。私よりも上の存在がいる事と、それが私よりも明らかに無能であるという事実があることである。

 フィーリアは、まったく社交をしない女だった。
 苦手なのだと言っているが、頼りなさげで困ったような笑みがまた癇に障った。

 私の方が上手くできるのに。生家の爵位だって二つも上。なのにどうして彼女が正妻で私が第二夫人なのか。
 気にくわないのはそれだけではない。フィーリアには、既に息子が一人居る。将来このドゥルズ伯爵家の跡取りになる息子だ。
 その上、ザイスドート様がたまに笑うのだ。彼女といる時に、少しだけ。

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