14 / 26
フィーリアを追い出した後のドゥルズ伯爵家①
第5.5話 レイチェル・ドゥルズはほくそ笑む(2)
しおりを挟む上級貴族に対して多くのパイプを持ち、上手く渡り合っている。あの愛想のなさでそうなのだから、きっとうまく世渡りをしているのだろう。
実に、私が知っている『貴族』らしい。
見た目にもそれなりに気を使っているようで、身につけるものはすべて通常の伯爵家以上、下手をすると侯爵家と同等の品質のものだったりもする。
私は、ぬるま湯につかっているような男は嫌いだ。
せっかく『貴族』なのだから、上を目指す野心が欲しい。
その上、社交界に出られなかったせいで得られなかった上級貴族としての恩恵――周りからの様々な優遇が、得られる場所にどうしてもいたい。
私だって『貴族』なのだから、体調が戻った今、婚姻の義務を果たさねばならない。どうせ嫁ぐなら侯爵家以上がいいのだけれど、この年齢では難しいだろう。
娶られたところで、相手は間違いなく「娶ってやった」という心情でいるだろうと思えば、私の中では論外だった。
その点、彼ザイスドート・ドゥルズの隣はちょうどいい。
「お父様。私、彼の所に嫁ぎたいわ」
私のこの一言で、婚姻はトントン拍子で進んでいった。
婚礼の後、今日から彼と共に暮らすのだという当日、屋敷の前でとある女が待っていた。
「ようこそ、レイチェルさん」
弱気に微笑む、平凡な女。貴族だろうとは思うけれど、あまりに地味な服装に私は思わず「何だこの女は」と思った。
それが、フィーリア・ドゥルズを初めて認識した時の印象だ。
思えば社交パーティーで、ザイスドート様の隣に度々地味な女が寄り添っていたような気がする。
社交中めったに話さずずっと彼の隣にいるものだから、地味すぎてその存在を認識できていなかったけれど、どうやらこの女が彼の正妻であるらしい。
――どうせ喋らないアクセサリーなら、私の方がよほど役に立つわ。
心の中で、私と彼女の立ち位置が決まった瞬間だった。
ザイスドート様は相変わらず愛想が無いけれど、生活としてはおおむね快適だった。
問題は一つ。私よりも上の存在がいる事と、それが私よりも明らかに無能であるという事実があることである。
フィーリアは、まったく社交をしない女だった。
苦手なのだと言っているが、頼りなさげで困ったような笑みがまた癇に障った。
私の方が上手くできるのに。生家の爵位だって二つも上。なのにどうして彼女が正妻で私が第二夫人なのか。
気にくわないのはそれだけではない。フィーリアには、既に息子が一人居る。将来このドゥルズ伯爵家の跡取りになる息子だ。
その上、ザイスドート様がたまに笑うのだ。彼女といる時に、少しだけ。
17
お気に入りに追加
618
あなたにおすすめの小説
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。
辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~
銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。
少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。
ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。
陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。
その結果――?
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?
まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。
うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。
私、マーガレットは、今年16歳。
この度、結婚の申し込みが舞い込みました。
私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。
支度、はしなくてよろしいのでしょうか。
☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる