ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!

文字の大きさ
上 下
16 / 26
寝落ちてしまったフィーリアは、一宿の恩を彼らに返す。

第6話 陽光の下、一宿の恩(1)

しおりを挟む


 差し込む朝日に促されて、ゆっくりと瞼を上げた。
 一瞬ここはどこだっけと思い、あぁそうだと思い出す。昨日、結局あのまま寝てしまったのだ。

 薄汚れた窓の外には青空が広がっていた。どうやら雨は上がったらしい。
 辺りを見回せば、少し離れた床に昨日の彼らが転がっていた。

 おそらく眠っているのだろう。近くに布が投げられていたのでせめてかけてあげようかと思ったが、一歩足を向けた所で床がギシリと音を立て、ディーダが「うぅん」と眉間に皺を寄せて唸った。
 起こしてはいけないので、止めておく。

 昨日は暗くて分からなかったが、ガラリとした室内を改めて見回すと室内は少し埃っぽい。
 が、それも仕方がないのかもしれない。彼ら曰く、ここは誰の家でもない。昔住んでいた誰かが引っ越したか亡くなったかで、放置されていた家らしいから。


 昨日、ここに連れて来られる道すがら教えてもらったのは、管理する人が居なくなって寂れて潰れるだけの家に、貧民たちは勝手に住み着くのだという事だった。
 そんな事をして誰かに怒られたりしないのかと思ったが、どうやらその心配はないらしい。

「誰も何も言わねぇよ。他の街では違うらしいけど、ここじゃ領主は取り締まらない」
「興味がないだけでしょ、領主は」

 自嘲気味に笑いながら肩をすくめたディーダに、ノインがキッパリと告げる。
 そうなのか。知らなかった……だなんて、領主の妻だった人間が思う事すら、領民への無関心をよく示している。

 身につまされて謝りたくなるものの、素性を教えて彼等を妙な事に巻き込むのと行けないと思えばそれも出来ず、結局何も言えなかった。


 少なくとも今、二人はここに二人で住みついているらしい。しかし彼等は子どもだ。おそらく掃除をする習慣などは無いのだろう。
 もしかしたら彼等は気にならないのかもしれないが、人が住むのなら綺麗な方がいいに決まっている。

 この部屋を掃除すれば、少しはお礼になるだろうか。

 結局昨日は泊めてもらってしまったし、何か恩返しをしなければならない。
 確か昨日、近くに井戸があった筈。あとは、雑巾……は無いけれど、いつもみたいにスカートの裏地をちぎって使えば大丈夫。


 彼等を起こしてしまわないように細心の注意を払いつつ、そっと家の外に出た。
 井戸で水を汲み、それから着ているスカートを少したくし上げる。

 何も足を洗う訳ではない。もちろん雑巾を作るためだ。
 この服は、レイチェルさんから渡された時代遅れの古いスカートだ。彼女はこの服をダサいと揶揄して笑ったが、元々貴族の服である。生地も元々は良いものだし、裏地がきちんとついている。

 すでに中途半端な丈になっているところの少し上を、掌よりも少し大きい面積になる様にビリッと引き裂いて、二枚用意しておいた。
 うち一つを水に浸して絞る。もう一方は、仕上げの乾拭き用だ。


 まずは窓の外側を拭いて、続いて内側を拭きに行く。
 立てつけが悪いのか、窓がビクともしなかったから、また音をたてないように注意して室内へと入った。
 中から窓をキュッキュと拭けば、一体どれほど放置していたのか。拭いた所とそうでない所が、クッキリと目に見えて分かる。

 窓が綺麗になっていくのがよく分かるので、掃除していても気持ちがいい。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

女嫌いな伯爵令息と下着屋の甘やかな初恋

春浦ディスコ
恋愛
オートクチュールの女性下着専門店で働くサラ・ベルクナーは、日々仕事に精を出していた。 ある日、お得意先のサントロ伯爵家のご令嬢に下着を届けると、弟であるフィリップ・サントロに出会う。聞いていた通りの金髪碧眼の麗しい容姿。女嫌いという話通りに、そっけない態度を取られるが……。 最低な出会いから必死に挽回しようとするフィリップと若い時から働き詰めのサラが少しずつ距離を縮める純愛物語。 フィリップに誘われて、庶民のサラは上流階級の世界に足を踏み入れるーーーー。

処理中です...