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生粋の貴族夫人・フィーリアは、強い瞳の彼らに出逢う。

第2話 私の知らない彼等の常識(2)

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 しかし、意味が分からなかったのだろう。
 突然の問いにノインはキョトンとした顔になり、茶髪の彼は、一体何が気にくわなかったのか。眉をひそめて「はぁ? 意味分かんねぇ、何がだよ!」と吠えるように突っかかってくる。

「だってその、どう見ても恵まれているようには見えない。それなのに、貴方達は生きる希望を失っていないように見えたから」

 彼の剣幕に押されるように、自分の中でもまだきちんと言葉になっていないままに言葉を口にした。
 すると彼は更に大きく吠える。

「あぁ? 何だテメェ、俺らが貧民だからって、生きる価値もないってか?! 喧嘩売ってんのかコノヤロウ!」
「ちっ、ちがっ、そんなつもりは! 私はただ、純粋に疑問に思っただけで!」

 彼等を貶めるつもりはもちろん無い。純粋に何故と思っただけだ。
 なめんじゃねぇぞ、と目を怒らせた彼に身振り手振りも踏まえて慌てて弁解すると、「どうやら本当に悪気はなかったらしい」と無事に伝わったのだろうか。
 今度はまるで珍妙なものでも見付けたかのように、片眉を上げる。

「希望を失うって、何だソレ」
「だって、服も栄養状態も、今だって雨に振られてずぶ濡れで」
「はぁ? 別に普通だろ、このくらい」

 呆れたような声色の彼は、まるで「一体どこに絶望を感じる必要があるんだよ」とでも言いたげだった。
 そこに己への卑下は無い。隣に「なぁ?」と同意を求めると、ノインも「うん」と普通に頷く。

 普通なの? 彼等にとってはこの状況が?
 嘘をついているようには見えない。しかし生まれてこの方貴族としてしか生きてこなかった私にとって、汚れや穴の無い綺麗な服も、温かい場所も、美味しいごはんも、子供の頃には当たり前のように用意されていた。
 たしかにここ一年ほどは粗末な扱いを受けていたけれど、私は大人で彼等はまだ子どもだ。大人の私とは忍耐力も、成長に必要な栄養だって違う。

 が、私のそんな懸念を笑い飛ばすかのように、彼はあっけらかんと言った。

「お前がどれだけ恵まれたにいたのかは知らないけどな、俺達にとっちゃぁ家が無いのも食べるものが無いのもいつもの事だ。早々気にしていられるかっての」
「まぁたしかに雨の日は、出店もみんな休みだから食べ物をくすねられなくて困るけど」
「おいノイン、今食い物の話はやめろ。腹が減ってくるだろうが」

 彼等が言う通り、もし今日がいつもと変わらない日なのだとしたら、たしかに特別今日に絶望する事はないだろう。
 だけどそれは裏を返せば、まだ年端も行かない子供たちが日々劣悪な環境に身を置いているという事でもある。
 庇護者は一体何をしているのか。

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