桜ひとひら、鳴くウサギ

桜ひとひら、鳴くウサギ

　春風がさわりと吹き抜けた。
　淡い花弁がたった一枚、宙でゆらゆら舞い踊り最後は地面にへたり込む。

　ふと傍らを見て、気付いてしまった。
　ずっとそばにいてくれたのに、もうあの人は隣に居ないって。

　そっと手を伸ばしてみたが、陽だまりは手をすり抜ける。


　誰もいない公園でひとり、一歩踏み出す度に足元がひやりと冷たい。
　
　悲しい。
　寂しい。
　心が折れてしまいそう。

　そんな心を抱えながら、鳴く。

　
　ぴぃ、ぴぃいい。
　心の悲鳴のようなその声は、一瞬か細く漂ったがすぐに風に攫われる。　

　それでもウサギは鳴き続けた。
　いつまでも、空に向かって鳴き続けた。


―――――――

　あとがき。

　綺麗な風景だからこそ、誰かと一緒に見たかった。
　そんな彼女（？）の心の嘆きを想像しつつ書きました。

（何故ウサギなのかは……私の好みという事で）