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第一章:セシリア、10歳。ついに社交界デビューの日を迎える。
第12話 国の権威の象徴は
しおりを挟む少し進むと、長い石畳の先にまた大きな門があった。
またそこで少し停車し、門が開くと再び馬車が進み出す。
夕闇に包まれる時間帯だ、当たりはもう随分と薄暗い。
なのに、この二つ目の門をくぐった瞬間、視界がひどく明るくなった。
先程までは足元が見える程度の間隔で付けられていた街灯だったのに、その数が明らかに増えた。
道の先にある大きな建物の窓という窓からは室内の明かりが漏れ、外装には夜でも良く見える様にする為だろうか、幾つかのスポットライトも当てられている。
ライトアップなんて少し大仰な気もするが、その建物は「確かにそれだけの価値はある」と思える程の美しさでもあった。
白い壁に青い屋根。
所々に付いている装飾等のアクセントは金で統一されている。
清潔、且つ神々しいというイメージを受ける建物だ。
「これが我がプレスリリア王国の王城だよ」
そんな優しい兄の声に、セシリアはまず「これが」と口の中で呟いた。
確かに王城だと言われれば納得だ。
だって、色々と装飾過美である。
そんな風にセシリアが思った時だった。
今度はマリーシアが、まるでセシリアの心を読んだかのような絶妙さでこう教えてくれた。
「内外に向けて王国の権威を示す為の建物だから、うちよりも余程豪勢に作って然るべきなのよ」
その説明に、セシリアは素直に「それもそうか」と納得する。
もしも国に従うべき貴族の家が此処よりも豪奢だったら、確かに「家の豪奢さが一貴族に負けてしまう程この国は貧乏なのか」などと思われてしまうだろう。
(権威を示さねばならないというのも、ちょっと大変そうだね)
なんて、ちょっと同情まじりに考えている内に、馬車の速度が段々と落ちてくる。
それを体で感じて再び外を確認すると、馬車が丁度ゆっくりと、車寄せに滑り込んでいくところだった。
完全に馬車が止まり、少ししてからゆっくりと馬車の扉が開く。
「じゃぁ行こうか、セシリー」
キリルは柔らかな微笑みでそう言うと、開かれた扉の先へと馬車のステップを降りて行った。
***
「あぁ、馬車の中でのセシリーは確かに可愛かったよね。セシリーが心躍ってるあの感じは、小さい頃以来久しぶりに見た気がするよ」
当時のセシリアの様子を思い出して、キリルが楽しそうに笑った。
すると、マリーシアも楽しそうにそれを肯定する。
「あそこは私達が普段過ごしている屋敷とは全然違うから、セシリーがつい興味をそそられる気持ちも分からなくはないわ」
そんな二人のなぜな嬉しそうな声を言を聞いて、セシリアはちょっとだけ思考する。
好奇心旺盛なセシリアは、基本的に新しい物や風景に対しては何でも、取り敢えず心躍らせる傾向にある。
しかし確かに貴族教育が終わった6歳頃以降は、あまり心躍る場面に直面する事が無かった様な気もする。
例えば惰眠を貪ったり、ティータイムを優雅に過ごしたり、庭などを散歩したり。
6歳以降は主にその様な生活が中心となっていた。
それは、彼女にとって酷く落ち着く有意義なものだった。
しかし同時に慣れた生活の中には自身の好奇心を満たしてくれるような新鮮さからは遠ざかっていた。
たまには調べ物をしては新しい事にチャレンジしたりもしたが、その事実は食卓でのセシリアとの会話で知っていても、彼ら自身が実際にそこに居合わせてることは無い。
だから好奇心に胸を躍らせる彼女の表情を見る機会も早々に訪れない。
だから二人は『久しぶり』だなんて思うのだろう。
「そうですね、確かに珍しいものではありましたけど」
二人の言う通り、確かにあの時は好奇心もそれなりに抱いていた。
しかし、申し訳ない。
それ以外のことの方が気になっていたのだ。
「もしも我が家があんな無駄に煌びやかな屋敷だったら、無駄に広い城門の中の庭園や外装に当てられていたスポットライトなんかは、まずお母様が即撤去の上別の事に有効活用しそうだなと思いました」
そんな事を考え、『ならばどう有効活用するのが良いだろう』と思案していた。
どちらかと言うと、新しい景色よりもそちらの方に好奇心を働かせていたのだ。
まるで観念する様にそう告げたセシリアに、キリルは一瞬キョトンとなった。
しかしすぐに、これまた楽しそうに笑う。
「あぁ確かに『効率』好きなお母様ならやりそうだ」
そんな二人のやりとりに、マリーシアの同意もすぐさま追従するのだった。
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