【完結】狐と残火

藤林 緑

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鎖鎌と二人

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「流石、としか言えないな」
 焔は仁之助の頼みを果たした。白龍は徐々に川へ近づく。正直、賭けだった。成功するかはわからない。しかし。
「俺は絶対に離さねぇ!!妖怪め、我慢比べだ!!」
 ついに、白龍の高度が下がり仁之助が着水する。身体が濁流に巻き込まれ、鎖鎌が伸び切る。腕が、肩から千切れそうな程の痛み。鎖が肉に食い込む、激痛。しかし、仁之助は鎖を離さなかった。それを起点として、白龍は尾から増水した川の流れに引き込まれる。
「がばっ、は、はっ!!やったぜっ!!俺ごと飲み込まれろ!!」
 白龍は藻掻くが激流に逆らう程の力は無い。ただ、流されるばかりだった。白龍の身体をよじ登った仁之助は白龍の瘤に鎖鎌を投擲する。鎌が刺さったのを確認すると、それを支えとして頭側へ向かう。
「へへ、トドメ、いかせて貰うぜ!!」
 再び仁之助は瘤へ鎖を巻き付けた。仁之助は力一杯鎖を引っ張る。
「ぶつかれっ!!」
 まるで手綱を引くように、白龍の身体の向きを変えた。白龍の向かう先には大岩。白龍の咥えた宝石と大岩が衝突する。
「ーッ!!」
 形容し難い叫びが聞こえた。宝石は砕け、白龍の身体は痙攣の後、動かなくなる。
「やっ……うわっ……」
 思わず腕を振り上げた仁之助。しかし安心も束の間、白龍の瘤からずるりと鎖が解けた。彼は水中へと沈む。
(……やっちまった)
 彼は激流の中、木々や小石の中で上下左右、わからないまま流される。
(そういえば、この先って……)
 戦闘班に入る前、滝行した所だったような。仁之助の肝が冷え、鼓動が早くなる。
「ごばっ、がっ、た、助けっ……」
 仁之助が浮き上がった時、身体に痛みが走った。上半身に何かがぶつかってきたのだ。
「お、おまっ、焔っ……」
 その正体は焔であった。彼女は果敢にも荒れる川の中へ飛び込んで来たのだ。
「言ったでしょ!!二人で帰るって!!」
「この先、滝、だろ!!」
「先ならもう考えてるっ!!」
 焔と仁之助は抱き合いながら、流されていく。ふと、顔を上げた先には既に本滝であった。
「うおおーっ!!」
「貸してっ!!」
 落下の直前、焔は仁之助から鎖鎌を掠め取った。彼女は分銅を目一杯放り投げ、近場の木へと引っ掛けた。がくん、と衝撃が加わるが、二人は鎖を二度と離さなかった。
「おえっ、げほっ、げほっ」
「はぁ、はぁ……やった」
 二人はずぶ濡れになりながら、川岸で座り込んだ。ゆっくりと呼吸を整える。
「へ、へへ、あれから、練習したんだ」
「あ、ん?」
 焔の言葉に仁之助は首を傾げた。息を切らして焔は続ける。
「鎖、鎖鎌っ。少しは上手くなったでしょ……」
 仁之助は目を丸くした。彼は力無く笑った。
「た、大したもんだよ」
「はは、やった。ほめ、褒められた」
 顔を上げた焔は笑っていた。仁之助は、その表情を見て口を一文字に結んだ。しばらくして彼は。
「なぁ」
「ん?」
「俺は、どうだった?」
 仁之助は焔の答えを待つ姿勢に入った。
「凄かったよ」
「え?」
 返答は予想を超えて早かった。彼は身構える前に飛んで来た言葉を受け止めきれなかった。
「少しでも遅れてたら、きっと妖怪の傷は治ってた。二度と勝ち目は無かった」
「……後先考えずに動いただけ。その先、二手三手を考えて動けていない」
 仁之助は川へと目をやった。川の流れはやがて滝へと落ちていく。
「きっと、そういうのが出来たら一番良いんだと思う」
「ん」
「でもさ」
 焔が身を乗り出して、仁之助に近付いた。仁之助は顔を上げた。
「後先考えないの、仁之助らしくって良いと思う」
「あ……」
 仁之助が感じたのは熱であった。ニ種類の熱。一つは答え。仁之助は祖父の言葉を思い出した。
(お前はお前で強くなれ)
 彼は彼なりの答えを見つけた。もう一つの熱は気付き。彼の目に映った顔は、戦友であり、好敵手であり、そして。仁之助の頬が熱くなる。
「どしたの?」
「な、なんでもねぇ!!」
 知らぬ内に雨は止み、雲間から月が顔を覗かせていた。
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