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雨風吹き荒ぶ
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「狼煙の火がっ!?」
時間が無かったせいで小さな狼煙しか上げる事が出来なかった。雨の仕業もあり、狼煙の火が弱まってしまう。これでは里の応援も期待できない。狼煙の様子を確認するため、仁之助が木から飛び降りようとした時、鎖の音が聞こえた。
「こっちもかよ!!」
大木に固定した鎖が緩み始める。仁之助の額に汗が浮かぶ。彼は固定した鎖鎌をさらにきつく締め上げた。
「くそっ……」
(二手三手と先を考えて動け)
ふと、そのような声が聞こえた。まるで、どこまでも中途半端な自分に言い聞かせられるような声だった。
「くそっ……!!くそがっ!!」
抵抗虚しく。鎖が外れ、仁之助の身体が持ち上がった。鎖鎌だけが頼り、彼は白龍と鎖で繋がったままに飛行を開始した。
「仁之助っ!!」
「俺は大丈夫!!いいからやれ!!」
一方の焔は白龍の背を駆け出した。泥濘む足元を注意しつつ、頭部を目指す。
「邪魔っ!!」
途中、体毛のような腕に行手を阻まれるも、刀を振りかざし突破する。千切れる細腕からは青い血液が噴水のように溢れる。
「ああ、もう!!」
風に乗った血液が散り飛ぶ中で腕を切り刻む。やがて、目の前に壁が現れた。
「何これ……瘤?」
不気味な水色に輝く瘤、背中と両肩に三つある。近付くと、どくんどくんと脈打っているのが聞こえる程巨大であった。
「とにかく、これを潰さないことには……」
頭部を目指せない。焔は勢い良く瘤へ小太刀を突き出した。ぼうっ、と突風が吹く。
「焔ぁっ!?」
小さな身体が吹き飛ばされ、白龍が加速した。焔は必死で切り刻んだ腕の残りにしがみついて耐えた。
「……あれで浮いてるの!?」
白龍の瘤は空気を溜めているらしい。小太刀の傷からは変わらず風が吹き出ている。
「う、うおおおっ!!」
焔の下方から声が聞こえた。気付けば、森が近付いている気がする。瘤を破ったせいで、高度が下がっているのだ。
「仁之助っ!!降りてっ……!!」
「うおっ!!ば、バカッ!!ぶつか、ぶつかるって!!」
仁之助は高速で迫る大木を上手くいなし続けていた。
「仁之助っ!!降りてっ……!!」
彼の上方から焔の声が聞こえた。
「……俺だけ、逃げれっかよ」
最近、彼の心の中は荒んでいた。また、こうやって何も出来ずに、御荷物みたいに終わるのだろうか。きっと、皆はそう思わない。皆、忍の里の皆は優しい。
「だけど、俺が俺を許せないんだよっ!!」
里一番の忍は、きっと、こう、機転が効いて、強くて、いつでも諦めなくて……。言葉には出来ないが、父親みたいに強いはず。
「ぐおっ!?」
「仁之助っ!?」
不意に小枝に衝突する。痛みと共に、目に違和感。雨の雫が入ったのであろう。
「痛ってぇ……また川が酷い事になってんじゃねぇの……」
仁之助は、目を擦った。その時、彼は見つけた。勝機を。
「どうしよう……」
仁之助が大変な目にあっているのは瘤を破った自分の責任である。背に登ったは良いが、ここからどうするか。白龍は未だ進行を続け、山の植物や動物から命を奪っている。眼下の森は既に枯れていた。
「焔ぁーっ!!聞こえるかぁーっ!!」
「え、き、聞こえるよーっ!?」
「頼みがあるーっ!!川の方へ、誘導出来ないか!!」
仁之助は鎖鎌でぶら下がったまま叫ぶ。焔は視線を白龍の肩へ向けた。そして、森の先には川が見える。遠目でも恐ろしい程に荒れ狂う激流。
「……出来ない、事はない!!」
「良し!!やれっ!!」
「どうするつもり!?」
「川に突っ込ませるっ!!」
焔は絶句した。あの男は何を言っているのか。仁之助は大真面目な顔をしている。
「そんな事したら、仁之助が……」
「大丈夫だ!!」
「……無茶な」
「それしかないだろっ!!」
普通ならば、焔は彼の提案を突っ撥ねるところであったが、仁之助の熱量に当てられたか。
「わかった。でも、絶対二人で帰るから!!」
「応!!」
焔は再び駆け出した。未だ、潰れた背中の瘤からは突風が吹き出ている。吹き荒ぶ雨風の中、眼前が光った。
「治り始めてるっ!!」
破れた瘤の傷が少しずつ再生を始めている。時間は無い。高度を稼がれてしまえば、川に入れる事は叶わない。
「うあああああっ!!」
焔は姿勢を低くして空気抵抗を少なくする。全速力で肩の瘤を目指す。
「間に合えーっ!!」
白龍の背中の瘤の再生が完了する。白龍が舞い上がる瞬間。焔が肩の瘤を駆け上がり、薄い被膜を傷付けた。狙ったのは、川の対角線に位置する瘤。
「うわっ!!」
焔の身体が宙に浮かぶ。白龍は押し流されるように、川の方向へと向かっていった。
時間が無かったせいで小さな狼煙しか上げる事が出来なかった。雨の仕業もあり、狼煙の火が弱まってしまう。これでは里の応援も期待できない。狼煙の様子を確認するため、仁之助が木から飛び降りようとした時、鎖の音が聞こえた。
「こっちもかよ!!」
大木に固定した鎖が緩み始める。仁之助の額に汗が浮かぶ。彼は固定した鎖鎌をさらにきつく締め上げた。
「くそっ……」
(二手三手と先を考えて動け)
ふと、そのような声が聞こえた。まるで、どこまでも中途半端な自分に言い聞かせられるような声だった。
「くそっ……!!くそがっ!!」
抵抗虚しく。鎖が外れ、仁之助の身体が持ち上がった。鎖鎌だけが頼り、彼は白龍と鎖で繋がったままに飛行を開始した。
「仁之助っ!!」
「俺は大丈夫!!いいからやれ!!」
一方の焔は白龍の背を駆け出した。泥濘む足元を注意しつつ、頭部を目指す。
「邪魔っ!!」
途中、体毛のような腕に行手を阻まれるも、刀を振りかざし突破する。千切れる細腕からは青い血液が噴水のように溢れる。
「ああ、もう!!」
風に乗った血液が散り飛ぶ中で腕を切り刻む。やがて、目の前に壁が現れた。
「何これ……瘤?」
不気味な水色に輝く瘤、背中と両肩に三つある。近付くと、どくんどくんと脈打っているのが聞こえる程巨大であった。
「とにかく、これを潰さないことには……」
頭部を目指せない。焔は勢い良く瘤へ小太刀を突き出した。ぼうっ、と突風が吹く。
「焔ぁっ!?」
小さな身体が吹き飛ばされ、白龍が加速した。焔は必死で切り刻んだ腕の残りにしがみついて耐えた。
「……あれで浮いてるの!?」
白龍の瘤は空気を溜めているらしい。小太刀の傷からは変わらず風が吹き出ている。
「う、うおおおっ!!」
焔の下方から声が聞こえた。気付けば、森が近付いている気がする。瘤を破ったせいで、高度が下がっているのだ。
「仁之助っ!!降りてっ……!!」
「うおっ!!ば、バカッ!!ぶつか、ぶつかるって!!」
仁之助は高速で迫る大木を上手くいなし続けていた。
「仁之助っ!!降りてっ……!!」
彼の上方から焔の声が聞こえた。
「……俺だけ、逃げれっかよ」
最近、彼の心の中は荒んでいた。また、こうやって何も出来ずに、御荷物みたいに終わるのだろうか。きっと、皆はそう思わない。皆、忍の里の皆は優しい。
「だけど、俺が俺を許せないんだよっ!!」
里一番の忍は、きっと、こう、機転が効いて、強くて、いつでも諦めなくて……。言葉には出来ないが、父親みたいに強いはず。
「ぐおっ!?」
「仁之助っ!?」
不意に小枝に衝突する。痛みと共に、目に違和感。雨の雫が入ったのであろう。
「痛ってぇ……また川が酷い事になってんじゃねぇの……」
仁之助は、目を擦った。その時、彼は見つけた。勝機を。
「どうしよう……」
仁之助が大変な目にあっているのは瘤を破った自分の責任である。背に登ったは良いが、ここからどうするか。白龍は未だ進行を続け、山の植物や動物から命を奪っている。眼下の森は既に枯れていた。
「焔ぁーっ!!聞こえるかぁーっ!!」
「え、き、聞こえるよーっ!?」
「頼みがあるーっ!!川の方へ、誘導出来ないか!!」
仁之助は鎖鎌でぶら下がったまま叫ぶ。焔は視線を白龍の肩へ向けた。そして、森の先には川が見える。遠目でも恐ろしい程に荒れ狂う激流。
「……出来ない、事はない!!」
「良し!!やれっ!!」
「どうするつもり!?」
「川に突っ込ませるっ!!」
焔は絶句した。あの男は何を言っているのか。仁之助は大真面目な顔をしている。
「そんな事したら、仁之助が……」
「大丈夫だ!!」
「……無茶な」
「それしかないだろっ!!」
普通ならば、焔は彼の提案を突っ撥ねるところであったが、仁之助の熱量に当てられたか。
「わかった。でも、絶対二人で帰るから!!」
「応!!」
焔は再び駆け出した。未だ、潰れた背中の瘤からは突風が吹き出ている。吹き荒ぶ雨風の中、眼前が光った。
「治り始めてるっ!!」
破れた瘤の傷が少しずつ再生を始めている。時間は無い。高度を稼がれてしまえば、川に入れる事は叶わない。
「うあああああっ!!」
焔は姿勢を低くして空気抵抗を少なくする。全速力で肩の瘤を目指す。
「間に合えーっ!!」
白龍の背中の瘤の再生が完了する。白龍が舞い上がる瞬間。焔が肩の瘤を駆け上がり、薄い被膜を傷付けた。狙ったのは、川の対角線に位置する瘤。
「うわっ!!」
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