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一部 プリステラ王国編
13 ジェメイ視点
しおりを挟むジェメイが姉のロンメイからの手紙を受け取ったとき、スーシェン帝国南西部にある明家の治める都市スーミンの港を出て、間もなくウーステラ共和国のシェステ港に到着しようという時だった。
「お嬢とメイファ様が離縁だと! 貴族籍から除籍! なんてこった」
言葉だけなぞれば衝撃を受け憤慨しているように思うが、その口調と表情からは喜悦が溢れている。
「フォウシュン! シェステに停泊せずこのままウノラス河を遡ってデルーナまで直行するぞ」
舵をとるフォウシュンにそう告げ、ジェメイは手紙を書くために船室へと駆け込んだ。
* * * * *
ジェメイは何通かの手紙を飛ばすと、椅子に深く座りなおし一息ついた。
ふとデルーナで自分の娘ということになっているファルの、自身の姪であるシャオメイの主であるファルナとの出会いを思い出す。
そしてその母であるお方、先々代の華家当主であるゼオファ様に連れられ、スーミンにやってきた幼き頃のメイファ様を思い浮かべた。
メイファ様は儚げで、おっとりとしていて亡き母君によく似ていらっしゃったが、ファルナ様はゼオファ様に似たのか、きりりとした眼差しに理知的な瞳をしておられた。色といい容姿といいウエイス侯爵に似たところは……まあないことはないか。
だが見た目だけではなく、頭の回転の速さ、歳にそぐわぬ振る舞いや言動に驚課されたものだ。
プリステラでは貴族は幼いうちから学校に行くらしいが、ファルナ様はウエイス侯爵の指示で学校へは行っておらず、文字や計算は姉のロンメイが教えていたという。
商人の娘でありながら子供の頃から読み書き計算が苦手だった姉に教えられて、あのように利発に育つはずが無い。ファルナ様には四神の加護があるに違いないと思ったものだ。
五年前、現明家当主の兄であり、スーシェン帝国海軍を指揮する将軍であるガオミン様が、血相を変えて我が家に飛び込んで来られた時は皆飛び上がっておののいたものだ。
「メイファ殿が、メイファ殿が……」
と、要件を得ないガオミン様の代わりに、事情を説明してくださったのは、明家家宰のチンチェン様だった。
実家から絶縁されたメイファ様が、先代華家当主にギアスをかけられ、魔力過多で倒れ命の危険に晒されているという。
華家に代わり明家がわずかながらでもお助けしたいが、貴族が国を行き来するためには両国の王の許可がいるため、代わりに我が茗家のものにプリステラ王国に行ってほしいと頼まれた。
まず、俺が代表でプリステラ王国へ行くことになった。
商家の後継である俺は、新しい販路を求めウーステラからプリステラへやってきたという設定だ。
ちょうどウーステラのシェステにはウエイス侯爵領の領都デルーナに続くウノラス河が流れていた。
魔道船を使えばシェステからウノラス河を遡ぼってデルーナまで一日でいける。陸路を馬車で行くより何倍も速い。
そして俺はデルーナでメイファ様の専属メイドという役職についている姉のロンメンを訪ねる風を装ってプリステラ王国にやってきたのだった。
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