銀狼公子の導き手

竜胆 琳

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一部 プリステラ王国編

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 メイファも嫁いできて一年目は問題なく過ごせた。そして二年目にはファルナを身籠もった。
 女性は妊娠と授乳を行うことで魔力を赤子に与えるのだ。生まれたばかりの赤子は己で魔力を作り出すことができず、母親から分け与えられる。
 ファルナに授乳している間は問題がなかった。
 メイファが体調を崩し始めたのはファルナが四歳の誕生日を迎えた頃。そして徐々にメイファの体調は悪化していった。
 体内に魔力が溜まったことが原因だ。
 しかし、翌年メイファは二人目の子供を身ごもった。これで体調も良くなると思っていた矢先、メイファの子は成長を止めてしまった。
 メイファの内に溜まりすぎた魔力は胎児にとって過剰すぎたのだ。
 結果、弟は生まれる前になくなった。

 子供の死に悲しみにくれるメイファをみかねて、ロンメイは華家に対しギアスの解除を願い出た。
 だが、運悪く義母兄が病で急死したため、メイファのギアスは解除できなくなってしまったのだ。
 ギアスはかけたものにしか解除できないからだ。
 
 それならば一時の里帰りをと望んだものの、返事は一向に届かず、出入りの商人からもたらされたものは異母兄の息子たちによる家督争いの知らせだった。
 そして家督争いの決着がつき、新たに当主の座に就いた甥は、メイファとの縁切りを申しつけた。
 
 スーシェン帝国に戻らぬ限り、メイファの体調は悪化していく。
 事情を汲んだ明家の当主が援助を申し出て、魔力を吸い出す魔術具を手に入れたものの、故国への郷愁も加わり、この一年は寝所からほとんど出なくなっていたのだ。

 ギアスの効果はメイファだけでなく、ファルナにも効果を及ぼした。
 ファルナはわずかであるが魔術が使えた。だが使うたびに目の奥に痛みが走る。
 小さな傷を治す癒しの術や、初歩の灯の魔術を使うくらいならツキンとした程度の痛みですむが、大きな魔術を使おうとすればはげしい痛みと、一時的に視力を失う事になる。

 それでも母親に比べればましといえよう。子供であったから。
 身体が大きく成長する十五歳前後から、魔力の器も成長する。
 直接ギアスをかけられた訳ではないため、ファルナの症状は解除する方法がある。
 だが、この国のにはファルナを治す魔術を使えるものはおらず、かといってプリステラ王国の貴族であるメイファやファルナがスーシェン帝国に入る為には、スーシェン帝国皇帝の許可証と、プリステラ王国国王の許可証が必要なのだ。
 平民であれば入出国の許可証はもっと簡単であったのに。

 冷めてしまった紅茶を飲み干し、カップをテーブルに置くとファルナはため息をひとつ漏らした。


 * * * * *


 結局父親から連絡はなく、翌朝になって帰省の準備を始めた。
 昼前には荷造りが終わりそうだと、ファルナは自分の部屋を、自らの手で片付け終わり、忘れていることはないかと、頭の中のチェックリストを確認していたとき、屋敷の前に豪奢な馬車が止まるのが見えた。

「ああ、ようやくきたようね」

 ファルナは階下の応接室に移動しようと部屋を出た。
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