凛ちゃんは、ゆうれい!

桜葉理一

文字の大きさ
上 下
3 / 4

3.凛ちゃんは妄想?

しおりを挟む

 顔をあげた幽霊の凛ちゃんと、目が合う。

『……私は! ゆいの、妄想じゃないから! ちゃんと、ここにいるから。幽霊みたいになってるけど、今のところちゃんといる。信じて!』

 幽霊の凛ちゃんは、泣きそうになっているように見えた。
 ……どうして凛ちゃんが、泣きそうなの?
 おばけのくせに。幽霊のくせに。妄想のくせに。
 泣きたいのはわたしの方だよ。

「……でも、でもさぁ、今こうやって、わたしに話しかけてくれてる凛ちゃんが、わたしの妄想じゃない、ホンモノだってことは、誰にも証明できないよ……?」
『できるよ! あーえっと……。あ、そうだ! ゆいの部屋にあるアルパカのぬいぐるみ――モモコだっけ? ゆい、あのぬいぐるみの首に、赤いスカーフを巻いてるでしょ?』

 急にそんなことをたずねられて、おどろいて。すぐにうなずいた。
 モモコは、凛ちゃんがゲームセンターのクレーンゲームで取ってくれた、お気に入りの大きなアルパカのぬいぐるみだ。
 うれしくて、すぐにお気に入りの赤いスカーフを巻いて、部屋にかざったんだ。
 
「……うん。それがどうかしたの……?」
『この前、ゆいの部屋に遊びに行ったとき、こっそりモモコの首にネックレスをかけておいたの。スカーフの中に隠れるようにして』
「え?」
『……ちょっと早いけど、ゆいへの誕生日プレゼントのつもりだった。ゆいの知らない情報を私が知っていれば、私がゆいの妄想じゃない、本物の凛だってことが証明できるでしょ?』

 そう言われて、おどろいた。
 ハナコのスカーフの裏は、見てない。
 もし本当に、スカーフの裏にネックレスがあったら、この幽霊の凛ちゃんは、ホンモノってことになるけど……。

『ねぇ、ゆい。私は、ゆいの妄想なんかじゃないから。だから、私を信じて』

 凛ちゃんは珍しく目を開いて、声を荒らげて。真っ直ぐにわたしを見ていた。
 あのクールな凛ちゃんの、こんな姿を見たのははじめてで。
 いつもとかけはなれたこの姿が、さらにこの幽霊の凛ちゃんがニセモノなんじゃないかって、普通なら思うのかもしれない。
 けどね。どうしてだろう。何となく確信したんだ。
 この幽霊の凛ちゃんは、わたしの妄想じゃない。
 本物の凛ちゃんだって。

「……うん分かった。わたし、凛ちゃんを信じるね」

 わたしは涙を袖でぐいっと拭って、そう言った。
 そしたらやっと凛ちゃんは、ほっとしたような表情を浮かべた。


***

 そのあとは、ぷかぷか浮いている凛ちゃんと、他愛もない話をしながら、家に帰った。
 わたしたちってさ、すっごくヘンなんだよ。
 本当なら元に戻る方法とかを、真っ先に話し合うでしょ?
 だけど、一週間ぶりに会った凛ちゃんとおしゃべりするのが楽しくて。前と同じような、わたしが好きなアルパカのはなしとか、お気に入りのアクセサリーショップのはなしとか。そんな他愛もない話ばっかりしちゃったんだ。
 
「ゆいっ!? どこに行っていたの!? 何度も電話したのに……びっくりしたでしょ……?」

 家に着くと、お母さんが慌てた様子で玄関に来た。
 あ、そっか。わたし、何も言わずに飛び出して来ちゃったんだ。

「お母さん、ごめんね……凛ちゃんのところに行ってたんだ」
「……病院に? そう、だったの。……ゆい、あなたもう、大丈夫なの? いいえ、それよりも、凛ちゃんはどうだった……?」

 泣きそうな表情でたずねられて、思わず宙に浮かんでいる凛ちゃんを見る。
 凛ちゃんは、口の端をあげて、小さく微笑んだ。

「……うん。思ったよりね、元気そうだったかも」
「め、目が覚めたの……っ!?」
「……ううん。まだだけど。でも、そんな気がしたんだ」

 そう答えると、お母さんはまた泣きそうな顔をした。
 それからすぐに、わたしに向かってぎこちなく笑う。

「ねぇ、ゆい。今日はあなたの好きなオムライスを作ったの。少しでも、一緒に食べない?」
「……うん。食べようかな」

 そう答えると、お母さんは驚いたように目を見開いて。片手で目元をぬぐって「すぐに準備するわね」と台所に去っていった。
 ……ああ、そっか。
 わたしは自分のことで、いっぱいいっぱいになってしまって、たくさん心配をかけていたんだ。
 この一週間、毎日が辛くて、悲しくて、自分のことしか考えられてなかったんだなって、あらためて反省した。

 ごはんの前に、自分の部屋に戻る。
 全体的にピンク色が多い、わたしの部屋。カーテンもベッドのシーツも、ピンク色だ。
 クローゼットについている全身鏡の前に立つ。
 真っ赤に目を張らした、夏服の白いセーラー服姿のわたしが映っていた。
 肩までの長さの茶色い髪がかなり乱れていて、慌ててくしで解かす。手首に巻いたままのヒマワリのアクセサリーがついたヘアゴムで、いつもみたいに、右側の少しの量だけ結んだ。

 そういえば、と思い出して、部屋に飾っているアルパカのぬいぐるみを見る。
 本棚の上に、白くて大きなアルパカのぬいぐるみ――モモコがいた。
 おそるおそる近づいて、真っ赤なスカーフをめくった。
 そこには、先端に白いアルパカの石が付いた、ネックレスがあった。
 モモコの首からそれを外して、まじまじとネックレスを眺める。
 凛ちゃんを見上げると、少し照れくさそうに微笑んでいた。

「……すっごくかわいい。凛ちゃん、ありがとう。でもこんなの、どこで見つけてくるの……えへへ、おかしい……」

 わたしは、我慢できなくて、久しぶりに笑ってしまった。
 事故にあった凛ちゃんは、まだ目が覚めなくて。
 挙句の果てに幽霊になって、わたしの目の前に現れてさ。
 こーんな酷い状況だっていうのに、けたけたと笑いがとまらなくなっちゃったんだ。ついでに涙も。
 笑ったのは本当に久しぶりだった。一週間ぶり。
 凛ちゃんは、スケスケの手で、わたしの頭をヨシヨシするしぐさをした。
 それを見てね、やっぱり、好きだなーって思った。

 凛ちゃんは幽霊になっても、やっぱりわたしの大好きな凛ちゃんだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと
恋愛
 百合ゲー【Fleur de lis】  舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。  まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。  少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。  ただの一人を除いて。  ――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)  彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。  あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。  最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。  そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。  うん、学院追放だけはマジで無理。  これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。  ※他サイトでも掲載中です。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

処理中です...