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幸せの時

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 ユーマが受け取ったのは紺のサッシュ。自らの目に当ててみると、確かに視界が遮られた。
「私はアンを自分のものにしたい。アンの全てが欲しい。しかし、アンに嫌われたくはない。本当にいいのか? 醜い私の妻になって後悔しないか?」
 声に出して肯定するのは恥ずかしく思い、杏は黙って頷く。緊張して顔は強張っていたけれど、ユーマには正確に伝わった。

「目をつぶって」
 ユーマに頭を抱かれて耳元で囁かれた杏は、ゆっくりとまぶたを閉じる。ユーマはサッシュを杏の目にあてがいきつくならないように、それでも外れたりしないように頭の後ろで結ぶ。
 視界を奪われた杏は不安になりユーマの背中に手を回した。
 ユーマは杏を抱きしめて背中をなだめるようにやさしく撫でた。


「手を縛ってもいいか? 私は体も醜い。直接触わられるとアンに嫌われそうで怖い」
 肌を直接触れ合いたい欲望と、アンに嫌われるかもしれない恐怖でユーマの心は揺れていた。
 杏に嫌われることを恐れる臆病な自分を嫌悪しつつ、それでもユーマは杏に願い出た。
「ユーマ様が望むなら、そうして」
 ユーマの声が辛そうだったから、杏は全てを許そうと思う。


 最初に出会った時いきなり怒鳴られて、杏はユーマをとても怖い人だと思っていた。
 性奴隷として連れてこられたのにも拘らず、杏に全く興味を示さないユーマを見て、幼馴染の勇馬たちの言葉を思い出す。
『萎える』
 それは女性としてとても惨めな言葉だったけれど、この状況ではありがたいと思った。
 自分に魅力がないために性処理の道具にならなくてもすむ。そう思うと食べるしかなかった。
 食べている時は幸せだったし、料理をするのも楽しい。不安な思いを払拭するためにも、杏は食べ続けた。

 そのうち、ユーマの優しさに杏は気がついた。
 最初に怒ったのは、国民が危険にさらされるかもしれないのに、杏が自分の欲のために禁戒の森へ入ったと思ったから。
 親の罪によって呪いを受けるという、杏よりもっと理不尽な状況なのに、ただの同居人の杏にあれほど優しくして、この世界の生活に馴れない杏が面倒をかけても文句も言わない。
 杏が抱いたユーマへの尊敬が愛情に変わるのに、二ヶ月は十分な時間だった。

 そうなると、杏は痩せるのが怖くなった。
 もし痩せて、愛情もなくただの性処理の道具にされるのは耐え難い。それ以上に痩せてもユーマから関心を寄せられないことが怖いと杏は思う。
 杏は自分の心がわからないでいた。しかし、ユーマの自慰の事後を目撃してしまい、杏は自分に欲情してもらいたいと思っていることを自覚した。
 
 だから、ユーマに愛していると言ってもらえて、抱きたいと求められることはとても嬉しいと杏は思う。
 目隠しも手を縛ることも、ユーマの優しさだと杏は感じていた。嫌われたくないと言ってもらえることが嬉しい。道具としてではなく、杏の心を求められている証しだから。

 ユーマがどれほど醜くても受け入れることができると思っている杏だったが、そのことを伝えられずにいた。万が一姿を見たことでユーマを恐れでもしたら、ユーマを傷つけてしまう。それならばユーマの気が済むようにしてもらった方がいいと杏は考えていた。

 触れただけで醜いとわかる体とは、一体どのようなものかと杏は不安になったが、ユーマの美しい指を思い出し、あの指に触れられるのであればと心が落ち着いていく。

「アン、緊張している?」
 ユーマはアンのワンピースを脱がしながらそう訊いた。杏の体が固くなって腕を上げさせるのも苦労している。
「私、初めてだから」
 杏は小さく頷いた。破瓜の恐怖とユーマの姿が見えない不安に、覚悟はしていても杏は身を固くしてしまう。

「私も初めてだから、なるべく優しくしようと思うけれど、できなかったら許してほしい」
 ユーマは最初に謝っておくことにした。ユーマの知識は全て本から得たものであり、当然女性と触れ合った経験はない。
 ユーマも杏に辛い思いをさせるのではないかと不安だったが、もう止めることはできなかった。
 ユーマはワンピースとブラジャーを取り去ると、杏の両手を重ねて頭の所に持っていく。そして、腰から黒い布のベルトを取ると、杏の手首に巻いた。杏の肌を傷つけないようにやさしく縛る。

 おもむろにユーマは立ち上がった。ユーマの気配が遠くなり、目で姿を確認できない杏は急に不安になる。
 衣擦れの音が響く。ユーマは黒い布を取り去り、中に着込んでいる服も全て脱いた。股間を覆っている下着はユーマ自身により破れそうなほど押し上げられている。ためらいもなくユーマは着も下ろす。充分に滾っている陰茎が勢い良く飛び出した。

 ユーマはベッドに横たわった杏を見た。白い胸が剥き出しになり、ユーマを誘っている。手首の白さと拘束する黒いベルトとの対比が扇情的で、ユーマは息を飲み込んだ。喉仏が大きく上下する。

 外へ出ても殺されることはないとわかっても、ここにいたいと言ってくれた杏のことが愛しくてどうかなってしまいそうだとユーマは感じていた。
 信じられないほどの幸せの中に、杏が自分を置いて出ていってしまうのではないかとの不安が過るが、ユーマはこの時だけは全てを忘れて杏を愛そうと、杏の胸の手を置いた。


 ユーマの気配が近付いていたのは分かったが、見えない杏はいきなり胸を触られて悲鳴を上げそうになったが、ぐっと耐えていた。
 一瞬体を固くした杏だったが拒否をしないのを見て、ユーマはゆっくりと杏の胸を揉んだ。布を介した先ほどとは違い、素手で触れる杏の肌は吸い付くように柔らかく、ユーマの手の動きを拾うように形を変える。まるでユーマのために生まれてきたように、杏の胸はユーマの手に馴染んだ。

 両手で二つの胸を責めるユーマ。見えない杏は不安を感じているが、それだけではない熱を持ち始めていた。
 ユーマの息遣いが荒い。杏もつられるように息が上がってくる。

「アン、私はずっとこうしたかった。アンの肌に触れて、その暖かさと柔らかさを堪能したかった。アンの全てが欲しい」
 荒い息遣いも、艶を含んだ声も、ユーマが欲情していると伝えている。愛した人に求められるのはとても嬉しいと杏は思う。しかし、自分の緩んだ体を晒していることがいたたまれない。
「ユーマ様、私、太っていてごめんなさい」
 杏は性奴隷にされないためとはいえ、こんなに太ってしまったことを後悔していた。もっと綺麗な体で初めての時を迎えたかったと思う。
「もっと太い女性が好きな男もいるが、私はアンくらいがちょうどいい。アンは全てが美しい」
ユーマの答えに杏は驚く。そして、その言葉はユーマの優しさだと思い、今だけはユーマが言ってくれるように誰よりも綺麗な体でユーマに抱かれるのだと思い込もうとしていた。

「私に対して様はいらない。アンは私の妻になるのだから。ユーマと呼んで」
 ユーマの声は優しく甘い。
「ユーマ。愛している」
 心からの言葉を杏が伝えると、ユーマは嬉しすぎて涙が出そうになるのを堪えていた。杏の姿を目に焼き付けたいから、目を涙で曇らせる訳にはいかない。
「アン、私も愛している。言葉に出来ないほどに」
 ユーマはそっと杏の乳首を口に含んだ。大きな乳房と違い乳首はささやかな大きさだった。

「あ、ぁ」
 ユーマが乳首を唇で挟むと、杏が小さく嬌声を上げる。杏が感じているのがわかってユーマは嬉しい。
 ユーマが片手で乳房を揉みながら、舌で乳首を転がすと、強い刺激に杏は手を下げようとしたが手首を拘束されているのでそれは叶わなかった。目も覆われて次に何をされるのかもわからない。ユーマに身を委ねる他ない状況に、杏も興奮してくる。下腹部に違和感があり体温が上がってくるような気がしていた。

 ユーマの手が杏の頬にかかり、唇に触れるだけのキスをした。思った以上に柔らかいユーマの髪が杏の耳に触れる。目が見えないことで敏感になっている杏の肌は、髪質さえ感じ取ってしまっていた。
 一旦唇を離したユーマは、再びキスをして、今度は舌を杏の口内に差し込んできた。驚いた杏だが、おずおずと迎え入れる。
 歯も頬裏も全て蹂躙されるような激しいキスに、杏は息が上がる。酸素が足らなくなっていく杏の脳は、考えることを拒否して、ただユーマの求めるままに舌を絡ませていた。

 ユーマの長い指が杏の体に触れながらゆっくりと下に向かっていく。
 ドロワーズの中に手を入れたユーマは、薄い茂みをかき分けて秘裂を探り当てた。
「少し濡れている」
 自分の前戯で杏が感じているのだと思うと、ユーマはとても嬉しくなった。
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