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SS:超絶な美形と婚約してしまった(ティーア)
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「お父様、お兄様、絶対に無理です。眩しすぎて直視なんて出来ません」
十三歳の私は、今日お見合いをしてしまった。それにしても相手が凄すぎる。もうすぐ社交界にデビューするという十六歳のオリヴェル様は、あまりにも美しい人だった。彼のお父親であるヤルヴィレフト子爵は国王陛下の従弟なので、オリヴェル様は王太子殿下の又従兄に当たる。
ヤルヴィレフト子爵領は広くはないけれど、宝石の鉱脈が貫いていて、そこかしこから高価な宝石が掘り出せるというとても豊かな領地らしい。
代々子爵位の我が家とは大違いである。それに、私の容姿だって至って平凡で、格差がありすぎる。
「あんな美しい人と結婚してしまうと、私の平凡さが浮き立ってしまうではないですか? そんな悲しい思いはしたくありません」
「ティーア、我慢してくれ。同じ子爵とはいえ、どう考えても向こうの方が家格は上だ。こちらから断ることはできないのだ」
そんな酷い。可愛い娘を売るつもりなのかと詰め寄りたい。
「それにしても、なぜ、あれほどの美形が平凡な我が家のティーアに結婚を申し込んできたのでしょうか?」
悲しいことに兄の疑問は当然だった。お金持ちでうっとりするほどの美形。おまけに王族と縁続き。結婚したい令嬢には事欠かないと思う。
なぜ、わざわざ私なのかと思うと、身の不運を嘆きたくなる。
「領地が豊かすぎる故に、ヤルヴィレフト子爵殿は嫡男のオリヴェル殿を有力貴族の令嬢と結婚させたくないようだ。あまり力をつけすぎると、王族から煙たがられるからな。古い家だが、大した産業もない地味な我が子爵家の娘くらいがちょうどいいと思ったらしい」
何と迷惑な。確かに我が家は地味かもしれないけれど、地味だからこそ、あんな華やかな人と結婚するのは怖い。
「それに、オリヴェル殿はもうすぐ社交界デビューだろう。それまでに婚約者を決めておきたいらしい。先日まで領地にいたので、社交界のことをよく知らない。その上、大金持ちで美形。このまま放っておくと、女性が群がって大変なことになりそうだからな」
「私は虫よけですか?」
嫌な役目だ。
「そうかもしれない。我が家の娘くらいなら、いくらでも婚約解消できると思っているのかも」
「それは、あんまりではありませんか!」
兄が怒ってくれたが、婚約は覆りそうにもない。
「私だってそんなに卑屈になりたくない! しかし、全く釣り合っていない婚約であることは事実なのだ」
結局、ヤルヴィレフト子爵の強い要望により、婚約は調ってしまった。
何度見ても、オリヴェル様はため息が出るほどに美しい。こんな人を間近で観察することができるのなら、それはもう役得だと思って諦めるしかない。
こんな歪な婚約がいつまでも続くはずはない。いつか婚約を解消されるだろうと私は覚悟していた。
「ティーアさんはとても可愛いよね。こんな田舎者と婚約してくれて嬉しい。絶対に大切にするから。幸せになろうね」
それなのに、我が家の庭を一緒に散歩している時に、オリヴェル様はそんなことを言い出した。最初は冗談か嫌味だと思ったけれど、どうも本気のようだった。なぜか、オリヴェル様には自分が美形だとの自覚がないらしい。
「お父様、お兄様、絶対に無理です。オリヴェル様の妹のマリッカさんは美しすぎます。あれは天使です。同じ人とは思えません。あんな美少女を毎日見ているオリヴェル様に、私がどう見えているのかと思うと、辛すぎます」
初めてヤルヴィレフト子爵家に御呼ばれした日、久しぶりに父と兄に泣きついた。
「済まん。耐えてくれ。なぜか、オリヴェル殿はティーアを気に入ったらしい」
未だに婚約は解消されていない。
「平凡なティーアさんはお兄様と似合わないと思うけど、お兄様が気に入っているから認めてあげるわ」
マリッカさんは、兄のオリヴェル様とは違って自分たちの容姿を正確に理解しているようだった。
天使のように可愛いマリッカさんに睨まれて、ちょっとどきどきしてしまう。
「マリッカ。何を言っているのだ。ティーアさんは誰よりも可愛いだろう? 私がお願いして婚約をしてもらったのに、失礼なことを言ってはいけないよ」
本当に止めてほしい。こんな美少女の前で、可愛いなんて褒められるといたたまれないのも程がある。
「私の方が可愛いもの」
そう言うマリッカさんの言葉に全力で頷きたい。
「そうか? ティーアさんの方が可愛いよね」
だから、侍女に確認しないで! 侍女の皆さんが曖昧に笑って胡麻化そうとしているじゃない。気を遣わせてごめんなさい。はっきり言ってもらっても大丈夫なのに。
そして、オリヴェル様の社交界デビューの日がやってくる。私はまだ十三歳だけど、婚約者として一緒にデビューすることになってしまった。
夜会服に身を包んだオリヴェル様は、鼻血が出そうな程に美形だった。
「お父様、お兄様、絶対に無理です。あんな美しい人のエスコートで人前に出るなんて、馬鹿にされるに決まってます。そして、平凡女のくせに勘違いするなと虐められてしまうのですよ」
「オリヴェル殿に贈ってもらったドレスを着たディーアだって可愛いから……」
父の語尾が消えていく。
「立派なルビーの首飾りも贈ってくれたしね。もう、溺愛だよね」
兄はあまりにも他人事だった。
私の味方は誰もいない。
美しすぎるオリヴェル様を見てしまうと無言になるらしく、夜会会場は静まり返ってしまった。そんな中、痛いほどの視線を感じながら彼のエスコートで陛下の前まで行き、婚約の報告を済ませた。
「それはめでたいことだ。オリヴェルは『銀の貴公子』と呼ばれていた叔父上にそっくりだな」
陛下は笑っていたが、隣に座っている王太子殿下はオリヴェル様を睨んでいた。オリヴェル様を間近で見てしまうと、殿下の容姿なんて並みよりちょっと上くらいにしか思えないから、気に障ったのではないかと思う。
それにしても、『銀の貴公子』というのがこれほど似合う人がいるなんて、本当に驚きだった。
このあと、嬉しそうに微笑んでいるオリヴェル様に魂を抜かれそうになりながらも、ダンスを踊り切った私を自分で褒めてやりたい。
十三歳の私は、今日お見合いをしてしまった。それにしても相手が凄すぎる。もうすぐ社交界にデビューするという十六歳のオリヴェル様は、あまりにも美しい人だった。彼のお父親であるヤルヴィレフト子爵は国王陛下の従弟なので、オリヴェル様は王太子殿下の又従兄に当たる。
ヤルヴィレフト子爵領は広くはないけれど、宝石の鉱脈が貫いていて、そこかしこから高価な宝石が掘り出せるというとても豊かな領地らしい。
代々子爵位の我が家とは大違いである。それに、私の容姿だって至って平凡で、格差がありすぎる。
「あんな美しい人と結婚してしまうと、私の平凡さが浮き立ってしまうではないですか? そんな悲しい思いはしたくありません」
「ティーア、我慢してくれ。同じ子爵とはいえ、どう考えても向こうの方が家格は上だ。こちらから断ることはできないのだ」
そんな酷い。可愛い娘を売るつもりなのかと詰め寄りたい。
「それにしても、なぜ、あれほどの美形が平凡な我が家のティーアに結婚を申し込んできたのでしょうか?」
悲しいことに兄の疑問は当然だった。お金持ちでうっとりするほどの美形。おまけに王族と縁続き。結婚したい令嬢には事欠かないと思う。
なぜ、わざわざ私なのかと思うと、身の不運を嘆きたくなる。
「領地が豊かすぎる故に、ヤルヴィレフト子爵殿は嫡男のオリヴェル殿を有力貴族の令嬢と結婚させたくないようだ。あまり力をつけすぎると、王族から煙たがられるからな。古い家だが、大した産業もない地味な我が子爵家の娘くらいがちょうどいいと思ったらしい」
何と迷惑な。確かに我が家は地味かもしれないけれど、地味だからこそ、あんな華やかな人と結婚するのは怖い。
「それに、オリヴェル殿はもうすぐ社交界デビューだろう。それまでに婚約者を決めておきたいらしい。先日まで領地にいたので、社交界のことをよく知らない。その上、大金持ちで美形。このまま放っておくと、女性が群がって大変なことになりそうだからな」
「私は虫よけですか?」
嫌な役目だ。
「そうかもしれない。我が家の娘くらいなら、いくらでも婚約解消できると思っているのかも」
「それは、あんまりではありませんか!」
兄が怒ってくれたが、婚約は覆りそうにもない。
「私だってそんなに卑屈になりたくない! しかし、全く釣り合っていない婚約であることは事実なのだ」
結局、ヤルヴィレフト子爵の強い要望により、婚約は調ってしまった。
何度見ても、オリヴェル様はため息が出るほどに美しい。こんな人を間近で観察することができるのなら、それはもう役得だと思って諦めるしかない。
こんな歪な婚約がいつまでも続くはずはない。いつか婚約を解消されるだろうと私は覚悟していた。
「ティーアさんはとても可愛いよね。こんな田舎者と婚約してくれて嬉しい。絶対に大切にするから。幸せになろうね」
それなのに、我が家の庭を一緒に散歩している時に、オリヴェル様はそんなことを言い出した。最初は冗談か嫌味だと思ったけれど、どうも本気のようだった。なぜか、オリヴェル様には自分が美形だとの自覚がないらしい。
「お父様、お兄様、絶対に無理です。オリヴェル様の妹のマリッカさんは美しすぎます。あれは天使です。同じ人とは思えません。あんな美少女を毎日見ているオリヴェル様に、私がどう見えているのかと思うと、辛すぎます」
初めてヤルヴィレフト子爵家に御呼ばれした日、久しぶりに父と兄に泣きついた。
「済まん。耐えてくれ。なぜか、オリヴェル殿はティーアを気に入ったらしい」
未だに婚約は解消されていない。
「平凡なティーアさんはお兄様と似合わないと思うけど、お兄様が気に入っているから認めてあげるわ」
マリッカさんは、兄のオリヴェル様とは違って自分たちの容姿を正確に理解しているようだった。
天使のように可愛いマリッカさんに睨まれて、ちょっとどきどきしてしまう。
「マリッカ。何を言っているのだ。ティーアさんは誰よりも可愛いだろう? 私がお願いして婚約をしてもらったのに、失礼なことを言ってはいけないよ」
本当に止めてほしい。こんな美少女の前で、可愛いなんて褒められるといたたまれないのも程がある。
「私の方が可愛いもの」
そう言うマリッカさんの言葉に全力で頷きたい。
「そうか? ティーアさんの方が可愛いよね」
だから、侍女に確認しないで! 侍女の皆さんが曖昧に笑って胡麻化そうとしているじゃない。気を遣わせてごめんなさい。はっきり言ってもらっても大丈夫なのに。
そして、オリヴェル様の社交界デビューの日がやってくる。私はまだ十三歳だけど、婚約者として一緒にデビューすることになってしまった。
夜会服に身を包んだオリヴェル様は、鼻血が出そうな程に美形だった。
「お父様、お兄様、絶対に無理です。あんな美しい人のエスコートで人前に出るなんて、馬鹿にされるに決まってます。そして、平凡女のくせに勘違いするなと虐められてしまうのですよ」
「オリヴェル殿に贈ってもらったドレスを着たディーアだって可愛いから……」
父の語尾が消えていく。
「立派なルビーの首飾りも贈ってくれたしね。もう、溺愛だよね」
兄はあまりにも他人事だった。
私の味方は誰もいない。
美しすぎるオリヴェル様を見てしまうと無言になるらしく、夜会会場は静まり返ってしまった。そんな中、痛いほどの視線を感じながら彼のエスコートで陛下の前まで行き、婚約の報告を済ませた。
「それはめでたいことだ。オリヴェルは『銀の貴公子』と呼ばれていた叔父上にそっくりだな」
陛下は笑っていたが、隣に座っている王太子殿下はオリヴェル様を睨んでいた。オリヴェル様を間近で見てしまうと、殿下の容姿なんて並みよりちょっと上くらいにしか思えないから、気に障ったのではないかと思う。
それにしても、『銀の貴公子』というのがこれほど似合う人がいるなんて、本当に驚きだった。
このあと、嬉しそうに微笑んでいるオリヴェル様に魂を抜かれそうになりながらも、ダンスを踊り切った私を自分で褒めてやりたい。
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