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宰相令息編
4.ベルトルドへのお願い(ライザ)
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この世界には攻撃魔法が存在しない。遥か昔には普通に使えていたらしいけれど、攻撃魔法を使って人類が争うことに絶望した精霊が、聖魔法以外の魔法を封印してしまったという設定だった。
そんな中、音楽の才能に恵まれた女性を精霊に捧げて攻撃魔法を復活させようと試みる教団が現われる。
その教団に聖歌隊の天使と呼ばれているエミリが攫われてしまうのだ。その救出に向かうのは、騎士団最強のベルトルド。彼がエミリの救出に成功すれば、二人は惹かれ合い結ばれることになる。
ゲームはベルトルド以外には優しい世界なので、彼がエミリの救出に失敗しても、彼女が死ぬようなことはない。死ぬのはベルトルドだけだ。
ベルトルドが救出できなかった場合、エミリは殺されるギリギリのところで派手な攻撃魔法を発動し、遠くからも目視できたため、彼女を探していた騎士団が無事救出することになる。そして、教団は壊滅。その後に青髪の宰相令息と結婚してしまうのだ。それはゲームヒロインにとってバッドエンドだった。
ガイオ副所長を慕っているらしいこの世界のアンナリーナには、宰相令息がエミリと結婚しようがどうでもいいことかもしれない。でも、ベルトルドが死んでしまうのは嫌なはずだ。私だって絶対に避けたい。
王太子襲撃事件がゲーム通りに起こったのだから、エミリ誘拐事件だって発生する確率が高い。何らかの対策が必要だけど、もちろん私一人では無理だ。だから、騎士団長である伯父に予め相談することにした。
この世界が前世でプレイしたゲームに酷似しているというのは説明が難しいので、叔父には夢で見たことだと説明する。
この世界の人々には精霊が実在すると信じられているからか、叔父は思ったよりもすんなりと信じてくれた。
エミリの誘拐事件を阻止しても、教団は他の歌姫を誘拐して攻撃魔法の復活を目指すことも伝えておいた。そうなれば、攻撃魔法を恐れた隣国が戦争を仕掛けてくるかもしれない。それは、ベルトルドが音楽会に参加しなかったときのシナリオだったから。
そうこうしているうちに、豊穣祭の日がやってくる。
伯父からの連絡によると、事前に教団の活動の全貌を暴くことはできなかったが、攻撃魔法の復活を目論む組織が存在することは把握できたらしい。
エミリが監禁される場所は森の中の教会だというだけで、正確な位置はゲーム中でも不明だったけれど、彼女が攫われる場所はわかっている。豊穣祭の独唱奉納を終えたエミリを宰相令息が街へと誘い、噴水のある広場にやって来たところを狙われるのだ。その時にエミリ誘拐を阻止し、教団員を捕まえなければ大変なことになってしまう。私の言葉を信じてくれた伯父は、エミリを囮にしてでも教団員を捕まえるつもりのようだった。
エミリのことが心配だけれど、もう私ができることは何もない。騎士団が無事に解決してくれることを祈るのみだ。
それより、今はベルトルドが迎えに来ることの方が重要だった。
緊張しながらエントランスで彼を待っていると、家令が馬車の到着を告げに来た。ガイオ副所長とアンナリーナも一緒にガイオ伯爵家の馬車で来たらしい。
淡い黄緑のドレスを着たアンナリーナはとても可愛かった。だけど、そんなことより、ガイオ副所長の姿の方が衝撃的だった。
「あの……、ガイオ副所長ですよね?」
思わず訊いてしまった。
王太子主催のガーデンパーティでさえ、ぼさぼさの髪に白衣というあり得ない姿で参加していた副所長だったのに、今日は普通の貴族の格好をしている。
「こんな可愛らしい部下にエスコートを頼まれたのに、彼女に恥をかかすわけにもいかないから」
照れくさそうにガイオ副所長が頭をかき始めた。
「おやめになって! せっかくの髪型が乱れてしまうわ」
せめて音楽会が終わるまでその姿でいてほしい。みんなが驚くと思うから。
「こんな髪をしていると色々と面倒だな」
そう言いながらも、ガイオ副所長は髪を撫でつけ整えた。本当にアンナリーナに恥をかかせたくないのだろう。
「ラ、ライザ様、本日は、エスコートさせていただいて光栄です。あの、今日は、いえ、今日もとても綺麗です」
目を合わせてくれないながらも、ベルトルドが私を褒めてくれた。気合を入れて着飾った甲斐があったというものだ。我が家の優秀な侍女たちに感謝しなければ。
「それで、あの、その……」
ベルトルドが何か伝えたいらしい。アンナリーナが彼の脇腹を肘でつついている。
「豊穣祭へ、ご一緒に……」
そうだ、私にもできることがまだあった。豊穣祭当日はベルトルドが休暇をとっていると伯父が愚痴っていたのを思い出した。騎士団最強の彼がエミリを護衛したら誘拐を阻止できる確率が高くなる。
「アントンソンさんにお願いがあるのです」
「はい! ライザ様の願いなら、たとえ火の中へ入れと言われても大丈夫です」
ベルトルドは何だか張り切っているようだけれど、そんな過酷なことを願ったりはしない。でも、せっかくの休暇を台無しにさせるのだから、ひどい願いというのは変わらないかも。本当にごめんなさい。
「豊穣祭で独唱を捧げる予定のエミリさんなのですが、独唱が終わった後に宰相令息と一緒に街を散策すると思いますので、そんな彼女を密かに護衛していただけないでしょうか?」
「あの、事情はわかりませんが、そのようなことは兄には荷が重いのではないでしょうか?」
なぜかアンナリーナが止めようとしてきた。ベルトルドと一緒にお祭りを楽しみたかったのかもしれない。重ね重ね、ごめんんさい。でも、これはベルトルドのためでもあるから、許してほしい。
「詳しくは知りませんが、団長からは少し話を聞いています。ライザ様直々のご命令とあらば、この命に代えてもエミリ様をお守りいたします」
ベルトルドは少し残念そうにしながらも、お願いを聞いてくれた。
「アントンソンさん。くれぐれも命は大切にしてください。どうか無茶はしないで」
誘拐されてから救出に向かうより、誘拐阻止の方が危険は少ないと思うけれど、何だか嫌な予感がする。
そんな中、音楽の才能に恵まれた女性を精霊に捧げて攻撃魔法を復活させようと試みる教団が現われる。
その教団に聖歌隊の天使と呼ばれているエミリが攫われてしまうのだ。その救出に向かうのは、騎士団最強のベルトルド。彼がエミリの救出に成功すれば、二人は惹かれ合い結ばれることになる。
ゲームはベルトルド以外には優しい世界なので、彼がエミリの救出に失敗しても、彼女が死ぬようなことはない。死ぬのはベルトルドだけだ。
ベルトルドが救出できなかった場合、エミリは殺されるギリギリのところで派手な攻撃魔法を発動し、遠くからも目視できたため、彼女を探していた騎士団が無事救出することになる。そして、教団は壊滅。その後に青髪の宰相令息と結婚してしまうのだ。それはゲームヒロインにとってバッドエンドだった。
ガイオ副所長を慕っているらしいこの世界のアンナリーナには、宰相令息がエミリと結婚しようがどうでもいいことかもしれない。でも、ベルトルドが死んでしまうのは嫌なはずだ。私だって絶対に避けたい。
王太子襲撃事件がゲーム通りに起こったのだから、エミリ誘拐事件だって発生する確率が高い。何らかの対策が必要だけど、もちろん私一人では無理だ。だから、騎士団長である伯父に予め相談することにした。
この世界が前世でプレイしたゲームに酷似しているというのは説明が難しいので、叔父には夢で見たことだと説明する。
この世界の人々には精霊が実在すると信じられているからか、叔父は思ったよりもすんなりと信じてくれた。
エミリの誘拐事件を阻止しても、教団は他の歌姫を誘拐して攻撃魔法の復活を目指すことも伝えておいた。そうなれば、攻撃魔法を恐れた隣国が戦争を仕掛けてくるかもしれない。それは、ベルトルドが音楽会に参加しなかったときのシナリオだったから。
そうこうしているうちに、豊穣祭の日がやってくる。
伯父からの連絡によると、事前に教団の活動の全貌を暴くことはできなかったが、攻撃魔法の復活を目論む組織が存在することは把握できたらしい。
エミリが監禁される場所は森の中の教会だというだけで、正確な位置はゲーム中でも不明だったけれど、彼女が攫われる場所はわかっている。豊穣祭の独唱奉納を終えたエミリを宰相令息が街へと誘い、噴水のある広場にやって来たところを狙われるのだ。その時にエミリ誘拐を阻止し、教団員を捕まえなければ大変なことになってしまう。私の言葉を信じてくれた伯父は、エミリを囮にしてでも教団員を捕まえるつもりのようだった。
エミリのことが心配だけれど、もう私ができることは何もない。騎士団が無事に解決してくれることを祈るのみだ。
それより、今はベルトルドが迎えに来ることの方が重要だった。
緊張しながらエントランスで彼を待っていると、家令が馬車の到着を告げに来た。ガイオ副所長とアンナリーナも一緒にガイオ伯爵家の馬車で来たらしい。
淡い黄緑のドレスを着たアンナリーナはとても可愛かった。だけど、そんなことより、ガイオ副所長の姿の方が衝撃的だった。
「あの……、ガイオ副所長ですよね?」
思わず訊いてしまった。
王太子主催のガーデンパーティでさえ、ぼさぼさの髪に白衣というあり得ない姿で参加していた副所長だったのに、今日は普通の貴族の格好をしている。
「こんな可愛らしい部下にエスコートを頼まれたのに、彼女に恥をかかすわけにもいかないから」
照れくさそうにガイオ副所長が頭をかき始めた。
「おやめになって! せっかくの髪型が乱れてしまうわ」
せめて音楽会が終わるまでその姿でいてほしい。みんなが驚くと思うから。
「こんな髪をしていると色々と面倒だな」
そう言いながらも、ガイオ副所長は髪を撫でつけ整えた。本当にアンナリーナに恥をかかせたくないのだろう。
「ラ、ライザ様、本日は、エスコートさせていただいて光栄です。あの、今日は、いえ、今日もとても綺麗です」
目を合わせてくれないながらも、ベルトルドが私を褒めてくれた。気合を入れて着飾った甲斐があったというものだ。我が家の優秀な侍女たちに感謝しなければ。
「それで、あの、その……」
ベルトルドが何か伝えたいらしい。アンナリーナが彼の脇腹を肘でつついている。
「豊穣祭へ、ご一緒に……」
そうだ、私にもできることがまだあった。豊穣祭当日はベルトルドが休暇をとっていると伯父が愚痴っていたのを思い出した。騎士団最強の彼がエミリを護衛したら誘拐を阻止できる確率が高くなる。
「アントンソンさんにお願いがあるのです」
「はい! ライザ様の願いなら、たとえ火の中へ入れと言われても大丈夫です」
ベルトルドは何だか張り切っているようだけれど、そんな過酷なことを願ったりはしない。でも、せっかくの休暇を台無しにさせるのだから、ひどい願いというのは変わらないかも。本当にごめんなさい。
「豊穣祭で独唱を捧げる予定のエミリさんなのですが、独唱が終わった後に宰相令息と一緒に街を散策すると思いますので、そんな彼女を密かに護衛していただけないでしょうか?」
「あの、事情はわかりませんが、そのようなことは兄には荷が重いのではないでしょうか?」
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「詳しくは知りませんが、団長からは少し話を聞いています。ライザ様直々のご命令とあらば、この命に代えてもエミリ様をお守りいたします」
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「アントンソンさん。くれぐれも命は大切にしてください。どうか無茶はしないで」
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