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合間の話1
2.ベルトルドに嫌われてしまった(ライザ)
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宮廷医師団所属の医師たちは交代で王都中の治療院を巡り、重篤な病人や怪我人を治療することになっている。同じく宮廷医師団所属の看護師や薬師と一緒に馬車に乗って各地の治療院へ赴くのだった。
その時には王宮騎士団の騎士が護衛してくれることになっている。
本日は私の担当日。護衛騎士はなんとベルトルドだった。本当に嬉しい再会だ。彼の姿を見ることができただけで頑張ることができそうな気がする。
一ヶ月ほど前、私が不用意に崖から落ちてしまったために、ベルトルドに大怪我を負わせてしまった。聖魔法で怪我の治療はしたけれど、失われた体液や体力は魔法では補えない。それに、怪我の痛みに加えて治療時の激痛も味わわせてしまった。
そんな彼が無事騎士として復帰できているのかと心配していたので、騎士服を着た彼の元気そうな姿を確認できて本当に安心した。
宮廷医師団の門のところには、二台の馬車が停められていた。本日はそれらに分乗して西区の治療院へ行く予定だ。
馬を降りたベルトルドが玄関を出たところに立っていた私たちに近づいてくる。
「本日は皆様方の護衛を務めさせていただきます騎士のアントンソンです。よろしくお願いいたします」
「私は騎士バーネットです。どうかお見知りおきを。ライザ様とは先日もご一緒させていただきましたね」
ベルトルドの後ろからやって来たのは、薬草採集の時も一緒だった騎士だ。
「薬草採集の時は、お二人には大変お世話になりました。特にアントンソンさんには、私が崖から落ちたせいで酷い怪我をさせてしまって、本当に申し訳ございません。痛み止めを使わなで行った治療はとても辛かったでしょう? でも、後遺症もないようですので安心しました」
私はベルトルドに薬草採集の時のことを謝った。あのひどい怪我を負った状態で私を抱えて歩き、鎮痛剤も使わずに聖魔法を治療するなど、いったいどれほど辛かっただろうか。考えただけで涙が出そうになる。
「い、いいえ、お、私こそちゃんとライザさまをお守りすることができず、申し訳ありませんでした」
ベルトルドはそう言って頭を下げてくれたけれど、明らかに態度がおかしい。私と目を合わせるのが嫌だとでもいうように横を向いている。
「いや、後遺症なら残っているかも。なぁ、ベルトルド?」
そう言ってチャーリーはベルトルドの肩を何度も叩いている。
後遺症のある人をそんなに叩かないでほしい。それにしても、後遺症があるならばベルトルドはなぜさっさと宮廷医師団本部まで来てくれなかったのか。
「後遺症が残っているのですか? それは大変です。まずはアントンソンさんを治療しましょう。皆さんには少し待っていてもらいますから、急いで医師団本部内へ入ってください」
最後に気を失ってしまったけれど、その前に治療は終わっていたと思っていた。でも、何かミスをしてしまったらしい。
治療院にも治療を待っている人たちがいるので、とにかく早くベルトルドの治療を始めたくて、私は彼の手を引いて建物内部へと急ごうとした。
すると、彼は私の手を振り払う。
私に手を握られるのも嫌だったのだろうか? 私は振り払われた手を呆然と見つめていた。
「後遺症など、何もありませんから。チャーリー先輩が嘘を言っただけです。皆さんをお待たせしては申し訳ありませんので、早く出発しましょう」
やはり私とは目を合わせず、ベルトルドは横に立つチャーリーを睨んでいた。
「申し訳ありません。ちょっとした冗談でした」
チャーリーは申し訳なさそうに頭を下げる。
「私たち医師にそんな冗談を言われても困ります。とても驚きましたから」
冗談は相手を見てから言ってほしい。
「本当に済みませんでした。お詫びにエスコートさせていただきます」
チャーリーはそう言うと、私に手を差し出してきた。エスコートしてもらうならベルトルドが良かったけれど、贅沢は言っていられない。
私はチャーリーの手を取って、馬車までエスコートしてもらうことにした。
ふとベルトルドの方を振り返ると、彼は怖い顔をしてこちらを睨んでいる。
やはり、彼は私のことを嫌っているのだろうか? あれほど辛い目に遭わせたのだから当然かもしれないけれど、でも辛い。
馬車に揺られながら、私はベルトルドのことを考えていた。
乙女ゲームでは、ライザを助けただけでベルトルドは彼女に惹かれてしまうのだ。その過程の詳細はゲームでは語られることはない。
医師のロベール編はチュートリアル的な意味合いが強く、彼の攻略は一番楽にできるようになっている。だから、ゲームヒロインがたった一回正しい選択をしただけで、ベルトルドと私は相愛になるはずだったのに、現実はゲームとは大きく違ってきている。どう見ても私は嫌われているらしい。
ゲームと違うところは、宮廷医師団本部でも私がベルトルドの治療をしたこと。ゲームでは疲れた私の代わりにロベールが呼ばれて、彼がベルトルドを治療した。そして、ゲームヒロインであるアンナリーナはロベールと出会うのだった。それだけは阻止したかったから、私は無理をして重傷のベルトルドを治療し、魔力を使い果たして気を失ってしまったのだ。
私がゲームと違う行動をしたので、シナリオが変わってしまったのだろうか? それとも、前世の記憶など私の妄想に過ぎないのだろうか? それにしてはゲームのことはあまりにも鮮明に覚えている。
ゲームの中のベルトルドは、崖落ちイベントの後、アンナリーナにライザの素晴らしさを度々語っていた。頬を染めた笑顔の彼のスチルも素晴らしかった。
そして、ライザは真っ白のウェディングドレスをまとってベルトルドの隣に立つのだ。
私はそれがとても羨ましくて、ライザになりたいと強く願ってしまった。
その願念は叶ったけれど、ベルトルドはゲームのような笑顔を私には見せてはくれない。
本来のゲームならば、治療院で頑張るライザにベルトルドは更に惹かれていき、アンナリーナに惚気まくってちょっとウザがられていたのだけど。
そんな日は決してこないのだろう。
そんなことを考えていると、気力がなくなってしまいそう。
でも、私は望んでライザとして生を受けたのだから、治療の手を抜くなんてことは絶対にできない。
治療院で患者の皆さんが皆が待っている。全力で治療を頑張るしかない。
その時には王宮騎士団の騎士が護衛してくれることになっている。
本日は私の担当日。護衛騎士はなんとベルトルドだった。本当に嬉しい再会だ。彼の姿を見ることができただけで頑張ることができそうな気がする。
一ヶ月ほど前、私が不用意に崖から落ちてしまったために、ベルトルドに大怪我を負わせてしまった。聖魔法で怪我の治療はしたけれど、失われた体液や体力は魔法では補えない。それに、怪我の痛みに加えて治療時の激痛も味わわせてしまった。
そんな彼が無事騎士として復帰できているのかと心配していたので、騎士服を着た彼の元気そうな姿を確認できて本当に安心した。
宮廷医師団の門のところには、二台の馬車が停められていた。本日はそれらに分乗して西区の治療院へ行く予定だ。
馬を降りたベルトルドが玄関を出たところに立っていた私たちに近づいてくる。
「本日は皆様方の護衛を務めさせていただきます騎士のアントンソンです。よろしくお願いいたします」
「私は騎士バーネットです。どうかお見知りおきを。ライザ様とは先日もご一緒させていただきましたね」
ベルトルドの後ろからやって来たのは、薬草採集の時も一緒だった騎士だ。
「薬草採集の時は、お二人には大変お世話になりました。特にアントンソンさんには、私が崖から落ちたせいで酷い怪我をさせてしまって、本当に申し訳ございません。痛み止めを使わなで行った治療はとても辛かったでしょう? でも、後遺症もないようですので安心しました」
私はベルトルドに薬草採集の時のことを謝った。あのひどい怪我を負った状態で私を抱えて歩き、鎮痛剤も使わずに聖魔法を治療するなど、いったいどれほど辛かっただろうか。考えただけで涙が出そうになる。
「い、いいえ、お、私こそちゃんとライザさまをお守りすることができず、申し訳ありませんでした」
ベルトルドはそう言って頭を下げてくれたけれど、明らかに態度がおかしい。私と目を合わせるのが嫌だとでもいうように横を向いている。
「いや、後遺症なら残っているかも。なぁ、ベルトルド?」
そう言ってチャーリーはベルトルドの肩を何度も叩いている。
後遺症のある人をそんなに叩かないでほしい。それにしても、後遺症があるならばベルトルドはなぜさっさと宮廷医師団本部まで来てくれなかったのか。
「後遺症が残っているのですか? それは大変です。まずはアントンソンさんを治療しましょう。皆さんには少し待っていてもらいますから、急いで医師団本部内へ入ってください」
最後に気を失ってしまったけれど、その前に治療は終わっていたと思っていた。でも、何かミスをしてしまったらしい。
治療院にも治療を待っている人たちがいるので、とにかく早くベルトルドの治療を始めたくて、私は彼の手を引いて建物内部へと急ごうとした。
すると、彼は私の手を振り払う。
私に手を握られるのも嫌だったのだろうか? 私は振り払われた手を呆然と見つめていた。
「後遺症など、何もありませんから。チャーリー先輩が嘘を言っただけです。皆さんをお待たせしては申し訳ありませんので、早く出発しましょう」
やはり私とは目を合わせず、ベルトルドは横に立つチャーリーを睨んでいた。
「申し訳ありません。ちょっとした冗談でした」
チャーリーは申し訳なさそうに頭を下げる。
「私たち医師にそんな冗談を言われても困ります。とても驚きましたから」
冗談は相手を見てから言ってほしい。
「本当に済みませんでした。お詫びにエスコートさせていただきます」
チャーリーはそう言うと、私に手を差し出してきた。エスコートしてもらうならベルトルドが良かったけれど、贅沢は言っていられない。
私はチャーリーの手を取って、馬車までエスコートしてもらうことにした。
ふとベルトルドの方を振り返ると、彼は怖い顔をしてこちらを睨んでいる。
やはり、彼は私のことを嫌っているのだろうか? あれほど辛い目に遭わせたのだから当然かもしれないけれど、でも辛い。
馬車に揺られながら、私はベルトルドのことを考えていた。
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医師のロベール編はチュートリアル的な意味合いが強く、彼の攻略は一番楽にできるようになっている。だから、ゲームヒロインがたった一回正しい選択をしただけで、ベルトルドと私は相愛になるはずだったのに、現実はゲームとは大きく違ってきている。どう見ても私は嫌われているらしい。
ゲームと違うところは、宮廷医師団本部でも私がベルトルドの治療をしたこと。ゲームでは疲れた私の代わりにロベールが呼ばれて、彼がベルトルドを治療した。そして、ゲームヒロインであるアンナリーナはロベールと出会うのだった。それだけは阻止したかったから、私は無理をして重傷のベルトルドを治療し、魔力を使い果たして気を失ってしまったのだ。
私がゲームと違う行動をしたので、シナリオが変わってしまったのだろうか? それとも、前世の記憶など私の妄想に過ぎないのだろうか? それにしてはゲームのことはあまりにも鮮明に覚えている。
ゲームの中のベルトルドは、崖落ちイベントの後、アンナリーナにライザの素晴らしさを度々語っていた。頬を染めた笑顔の彼のスチルも素晴らしかった。
そして、ライザは真っ白のウェディングドレスをまとってベルトルドの隣に立つのだ。
私はそれがとても羨ましくて、ライザになりたいと強く願ってしまった。
その願念は叶ったけれど、ベルトルドはゲームのような笑顔を私には見せてはくれない。
本来のゲームならば、治療院で頑張るライザにベルトルドは更に惹かれていき、アンナリーナに惚気まくってちょっとウザがられていたのだけど。
そんな日は決してこないのだろう。
そんなことを考えていると、気力がなくなってしまいそう。
でも、私は望んでライザとして生を受けたのだから、治療の手を抜くなんてことは絶対にできない。
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