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ヤンデレ医師編
1.薬草採取(ライザ)
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初めて会ったベルトルドは、スチルから想像していたよりずっと素敵な人だった。さすが三次元の威力はすごい。茶色い髪に茶色い瞳を持つごく普通の容姿との設定だけど、ゲームのお約束なのかとても整った顔をしている。茶色い髪だから普通って、無理やりにも程がある。
「本日の護衛を務めさせていただきますベルトルド・アントンソンと申します。薬草採取も手伝いますので、何なりとお申し付けください」
ベルトルドの声も予想通り素晴らしかった。そんな彼に見惚れていると、ベルトルドと目が合ってしまい、恥ずかしさで思わず目を逸らしてしまう。もっと眺めていたかった。ちょっと残念。
「アンナリーナ・アントンソンです。王立植物研究所の職員見習いです。初めての薬草採取ですので、わからないことばかりです。ご指導のほどよろしくお願いいたします」
さすがゲームヒロイン、可愛い。可愛すぎる。ベルトルドが溺愛しているのが良くわかる可愛さだ。ふわふわの金髪に大きな目。その目は期待に満ちているようにきらきらしていた。
こんな可愛らしい子にヤンデレ紫頭は可哀想。できればロベール・ラロックだけは攻略しないでもらいたい。だからって、私も引き取りたくはないけれど。
「私はライザ・クレイヴンです。宮廷医師団に所属している医師です。本日は薬草の勉強のため参加いたしました。よろしくお願いします」
私も皆に挨拶をした。
「私は王立植物研究所の副所長を務めていますシルヴァーノ・ガイオです。それでは出発いたしまししょう」
ガイオ副所長はいわゆるサポートキャラ。恋の相談から植物、魔法まで何でも教えてくれる優しい人。
私もプレイ中は何かある度に頼っていたので、今日初めて会うという気がしない。
この世界の元になったゲームは脇役男性が魅力的との例に漏れず、年上で優しいガイオ副所長はプレイヤーの人気を集めていた。もちろん、一番人気はベルトルドだったけれど、三番目くらいに人気があった。ちなみに二番目は、騎士団副団長の相手である男装の女性騎士である。これでいいのか乙女ゲーム。
ガイオ副所長に促されて馬車に乗り込んだのは四人。アンナリーナ、ガイオ副所長、そして医師のマリー・ベケットと私。
マリーは私より年上だけれど、とても仲が良い同僚。彼女がいてくれたから辛い医師生活にも耐えられた。本当に感謝しかない。ちなみにゲームには登場しない人物である。
馬車を守る二騎のうち一人はベルトルド。もう一人はチャーリー・バーネットと名乗った。やはりゲームには出てこない。
馬車が森に向かって走りだす。本日は天気が良く、絶好の採集日和だった。それもゲームの設定どおり。
ゲームと同じに進むのならば、この森でヒロインは選択する。
かなりの時間をかけて薬草を採集した後、
選択肢一、十分採集したからもう王都へ帰る。
選択肢二、もう少し採集を続ける。
一番を選べば、私とベルトルドの仲は進展することはない。そのまま王都へ戻って今まで通りの日常が過ぎていくだけだ。そして、ロベールとの結婚が決まってしまう。
ヒロインが二番を選択すれば、崖から落ちそうになった私をベルトルドが助けようとして抱えながら一緒に落ちる。
そこから二人の仲が進展する。
あの紫頭のヤンデレ男と結婚するのは本当に嫌だ。それくらいなら一生独身で医師を続けた方がましだ。もちろん、幸せな結婚はしたけれど。その相手がベルトルドだったらどうしよう! 嬉しすぎて毎日が辛い。
とにかく、ロベールとの結婚を避けるために、ヒロインが一番を選んだとしても、とりあえず少しだけ採集を続けてわざと崖から落ちようと思う。
それにしても、この世界は私に厳しすぎる。神様、恨んでいいですか。
そんなことを考えていると、知らない間に森の入り口に着いていた。馬車のドアが開き、まずはガイオ副所長がアンナリーナをエスコートして馬車を降りる。冴えないなりをしているけれどさすが伯爵。副所長のエスコートは結構様になっている。
騎士のバーネットがエリーをエスコトートする。最後に残った私には、ベルトルドが手を差し出した。
どうしよう。どきどきする。心臓が破裂してしまいそう。でも待たせるのも悪い。
「ありがとうございます」
侯爵令嬢の矜持をかき集めて、優雅に馬車を降りることができた。そう信じたい。
私も含めた三人の女性は、作業しやすいように乗馬服を改良したズボンとブーツを身に着けていた。それでも森の土は柔らかく、木の根が浮き地面はでこぼこしていてとても歩きにくい。
バーネットがマリーの手をとり、ガイオ副所長はアンナリーナに薬草のことを教えながら並んで歩いている。そして、残った私の手をベルトルドがとった。馬車を降りるときは一瞬だったけれど、今度はずっと手を繋ぐことになる。
これは騎士としてのただのエスコート、ベルトルドに他意はない。そう自分に言い聞かせても。心が沸き立つのを押さえられない。
それにしても、横から見てもベルトルドは格好良い。つい見惚れてしまいそうだけど、ちゃんと前を見て歩かないと転んでしまう。そんな無様な姿をさらすわけにはいかない。
ベルトルドに手を引かれ、足が地についていないようにふわふわした気分で歩いていると、少し開けた場所に出た。
「陽が当たる場所に生育する薬草は、ここら辺によく生えています」
ガイオ副所長は、近くにあった草を引き抜いてみせた。
「この薬草は根も使います。慎重に引き抜いてください」
ガイオ副所長の教えに従い、根から薬草を抜いていく。ベルトルドもそれに倣った。
肩にかけた採取籠の中身が見る見る増えていく。
先のことを考えると不安ばかりだけど、薬草採取は結構楽しい。
しばらく薬草を採取した後、森の中の湧水で手を洗い、パンに肉や野菜を挟んだ簡単な昼食を皆でとった。まるで遠足みたいで本当に楽しい。
この世界の貴族令嬢は絶対にこんなことはしない。昼はお茶会、夜は舞踏会。そう思うとこの生活は悪くないのかもしれない。それにベルトルドも一緒だし。
「それでは、場所を移動します。次は日光を嫌う日陰に生える薬草ですので、鬱蒼とした藪の下などを探してください。毒を持つ虫や爬虫類に十分気をつけてくださいね」
ガイオ副所長の注意に緊張が走る。解毒の魔法を使えるのは私だけ。体の中の毒だけを分解するというかなり難易度の高い魔法だから、そう気楽には使えない。自分が噛まれて症状が重くなった場合は、魔法が使えなくなってしまう危険性がある。
棒で藪を叩き、虫や爬虫類がいないことを確かめながら慎重に薬草を採取した。
昼食から二時間ほど後、皆が頑張った結果、思った以上の薬草を採取できた。
「予定していた以上の薬草が採れました。アンナリーナ、初めての薬草採取なので疲れたのではないですか? もう王都へ戻りますか? それとも、まだ採取を続けますか?」
ゲーム通りにガイオ副所長がアンナリーナに問うた。
「まだ採取籠に余裕があるので、もう少し採取してもいいですか?」
アンナリーナが元気に答えた。これで二番に分岐する。
「皆さんももう少し続けてもよろしいでしょうか」
もちろん異論はない。マリーも頷いている。
こうして、私たちは採取を続けることになった。
少し歩いたところで、珍しい薬草の群生地を見つけた。
この薬草は魔法使用時に使う良く効く痛み止めの原料となるらしい。私たちの使う聖魔法では痛みを止めることはできない。しかも、無理やり傷を塞ぐ魔法での治療はかなりの苦痛を伴う。この薬草から作り出せる痛み止めは、その痛みを和らげることができるのだ。
私はこの貴重な薬草の採取に夢中になった。この薬草は私たちが魔法を使う際に必ず必要な痛み止めの原料だから、少しでも多く採取しておきたい。
辺りを見回していると、他にもこの薬草が群生しているところを見つけた。あれも採らなくてはと、そこに走り寄る。
「ライザ様、危ない!」
アンナリーナの叫び声が聞こえた。踏み込んだ右足の下に何もない。前屈みになるように落ちそうになる。
走り寄ってきたベルトルドが私の腰を掴んで引き上げようとするが、一瞬の差で間に合わなかった。彼は私を抱きかかえるようにして一緒に滑り落ちる。
そして、ゲーム通りに私は気を失った。
「本日の護衛を務めさせていただきますベルトルド・アントンソンと申します。薬草採取も手伝いますので、何なりとお申し付けください」
ベルトルドの声も予想通り素晴らしかった。そんな彼に見惚れていると、ベルトルドと目が合ってしまい、恥ずかしさで思わず目を逸らしてしまう。もっと眺めていたかった。ちょっと残念。
「アンナリーナ・アントンソンです。王立植物研究所の職員見習いです。初めての薬草採取ですので、わからないことばかりです。ご指導のほどよろしくお願いいたします」
さすがゲームヒロイン、可愛い。可愛すぎる。ベルトルドが溺愛しているのが良くわかる可愛さだ。ふわふわの金髪に大きな目。その目は期待に満ちているようにきらきらしていた。
こんな可愛らしい子にヤンデレ紫頭は可哀想。できればロベール・ラロックだけは攻略しないでもらいたい。だからって、私も引き取りたくはないけれど。
「私はライザ・クレイヴンです。宮廷医師団に所属している医師です。本日は薬草の勉強のため参加いたしました。よろしくお願いします」
私も皆に挨拶をした。
「私は王立植物研究所の副所長を務めていますシルヴァーノ・ガイオです。それでは出発いたしまししょう」
ガイオ副所長はいわゆるサポートキャラ。恋の相談から植物、魔法まで何でも教えてくれる優しい人。
私もプレイ中は何かある度に頼っていたので、今日初めて会うという気がしない。
この世界の元になったゲームは脇役男性が魅力的との例に漏れず、年上で優しいガイオ副所長はプレイヤーの人気を集めていた。もちろん、一番人気はベルトルドだったけれど、三番目くらいに人気があった。ちなみに二番目は、騎士団副団長の相手である男装の女性騎士である。これでいいのか乙女ゲーム。
ガイオ副所長に促されて馬車に乗り込んだのは四人。アンナリーナ、ガイオ副所長、そして医師のマリー・ベケットと私。
マリーは私より年上だけれど、とても仲が良い同僚。彼女がいてくれたから辛い医師生活にも耐えられた。本当に感謝しかない。ちなみにゲームには登場しない人物である。
馬車を守る二騎のうち一人はベルトルド。もう一人はチャーリー・バーネットと名乗った。やはりゲームには出てこない。
馬車が森に向かって走りだす。本日は天気が良く、絶好の採集日和だった。それもゲームの設定どおり。
ゲームと同じに進むのならば、この森でヒロインは選択する。
かなりの時間をかけて薬草を採集した後、
選択肢一、十分採集したからもう王都へ帰る。
選択肢二、もう少し採集を続ける。
一番を選べば、私とベルトルドの仲は進展することはない。そのまま王都へ戻って今まで通りの日常が過ぎていくだけだ。そして、ロベールとの結婚が決まってしまう。
ヒロインが二番を選択すれば、崖から落ちそうになった私をベルトルドが助けようとして抱えながら一緒に落ちる。
そこから二人の仲が進展する。
あの紫頭のヤンデレ男と結婚するのは本当に嫌だ。それくらいなら一生独身で医師を続けた方がましだ。もちろん、幸せな結婚はしたけれど。その相手がベルトルドだったらどうしよう! 嬉しすぎて毎日が辛い。
とにかく、ロベールとの結婚を避けるために、ヒロインが一番を選んだとしても、とりあえず少しだけ採集を続けてわざと崖から落ちようと思う。
それにしても、この世界は私に厳しすぎる。神様、恨んでいいですか。
そんなことを考えていると、知らない間に森の入り口に着いていた。馬車のドアが開き、まずはガイオ副所長がアンナリーナをエスコートして馬車を降りる。冴えないなりをしているけれどさすが伯爵。副所長のエスコートは結構様になっている。
騎士のバーネットがエリーをエスコトートする。最後に残った私には、ベルトルドが手を差し出した。
どうしよう。どきどきする。心臓が破裂してしまいそう。でも待たせるのも悪い。
「ありがとうございます」
侯爵令嬢の矜持をかき集めて、優雅に馬車を降りることができた。そう信じたい。
私も含めた三人の女性は、作業しやすいように乗馬服を改良したズボンとブーツを身に着けていた。それでも森の土は柔らかく、木の根が浮き地面はでこぼこしていてとても歩きにくい。
バーネットがマリーの手をとり、ガイオ副所長はアンナリーナに薬草のことを教えながら並んで歩いている。そして、残った私の手をベルトルドがとった。馬車を降りるときは一瞬だったけれど、今度はずっと手を繋ぐことになる。
これは騎士としてのただのエスコート、ベルトルドに他意はない。そう自分に言い聞かせても。心が沸き立つのを押さえられない。
それにしても、横から見てもベルトルドは格好良い。つい見惚れてしまいそうだけど、ちゃんと前を見て歩かないと転んでしまう。そんな無様な姿をさらすわけにはいかない。
ベルトルドに手を引かれ、足が地についていないようにふわふわした気分で歩いていると、少し開けた場所に出た。
「陽が当たる場所に生育する薬草は、ここら辺によく生えています」
ガイオ副所長は、近くにあった草を引き抜いてみせた。
「この薬草は根も使います。慎重に引き抜いてください」
ガイオ副所長の教えに従い、根から薬草を抜いていく。ベルトルドもそれに倣った。
肩にかけた採取籠の中身が見る見る増えていく。
先のことを考えると不安ばかりだけど、薬草採取は結構楽しい。
しばらく薬草を採取した後、森の中の湧水で手を洗い、パンに肉や野菜を挟んだ簡単な昼食を皆でとった。まるで遠足みたいで本当に楽しい。
この世界の貴族令嬢は絶対にこんなことはしない。昼はお茶会、夜は舞踏会。そう思うとこの生活は悪くないのかもしれない。それにベルトルドも一緒だし。
「それでは、場所を移動します。次は日光を嫌う日陰に生える薬草ですので、鬱蒼とした藪の下などを探してください。毒を持つ虫や爬虫類に十分気をつけてくださいね」
ガイオ副所長の注意に緊張が走る。解毒の魔法を使えるのは私だけ。体の中の毒だけを分解するというかなり難易度の高い魔法だから、そう気楽には使えない。自分が噛まれて症状が重くなった場合は、魔法が使えなくなってしまう危険性がある。
棒で藪を叩き、虫や爬虫類がいないことを確かめながら慎重に薬草を採取した。
昼食から二時間ほど後、皆が頑張った結果、思った以上の薬草を採取できた。
「予定していた以上の薬草が採れました。アンナリーナ、初めての薬草採取なので疲れたのではないですか? もう王都へ戻りますか? それとも、まだ採取を続けますか?」
ゲーム通りにガイオ副所長がアンナリーナに問うた。
「まだ採取籠に余裕があるので、もう少し採取してもいいですか?」
アンナリーナが元気に答えた。これで二番に分岐する。
「皆さんももう少し続けてもよろしいでしょうか」
もちろん異論はない。マリーも頷いている。
こうして、私たちは採取を続けることになった。
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この薬草は魔法使用時に使う良く効く痛み止めの原料となるらしい。私たちの使う聖魔法では痛みを止めることはできない。しかも、無理やり傷を塞ぐ魔法での治療はかなりの苦痛を伴う。この薬草から作り出せる痛み止めは、その痛みを和らげることができるのだ。
私はこの貴重な薬草の採取に夢中になった。この薬草は私たちが魔法を使う際に必ず必要な痛み止めの原料だから、少しでも多く採取しておきたい。
辺りを見回していると、他にもこの薬草が群生しているところを見つけた。あれも採らなくてはと、そこに走り寄る。
「ライザ様、危ない!」
アンナリーナの叫び声が聞こえた。踏み込んだ右足の下に何もない。前屈みになるように落ちそうになる。
走り寄ってきたベルトルドが私の腰を掴んで引き上げようとするが、一瞬の差で間に合わなかった。彼は私を抱きかかえるようにして一緒に滑り落ちる。
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