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仲直り
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「カルロたちをやっつけたんだって。ちょっとすっきりした」
カルロにレアナから貰った銀の札を曲げられた日の翌朝、僕が食堂へ行くと、久し振りにリカルドに声をかけられた。
「寮長に怒られたけどね。反省文を書かなくちゃいけないんだ」
「でも、ジョエルは凄いよ。カルロたちは僕たち公立学問所出身者のことを見下していたけど、年上だし人数も多く反抗できなくて悔しい思いをしてたんだ。ジョエル、ごめん。僕と同じ学問所出身だと思っていたジュエルが竜騎士の息子だと知って、僕は馬鹿にされるのではないかと怖かった。だからジョエルを避けてしまったんだ。でも、そんなことは誇り高い竜騎士を目指す僕がしてはいけなかった。もしよかったら、また僕と仲良くしてほしい」
「もちろんだよ」
まだ反省文が完成していない。それに銀の札が曲がったままなのはとても辛い。でも、リカルドと仲直りするができた。今回のことは悪いことばかりではなかったと、僕は思い始めていた。
それから、リカルドと向かい合って朝食をとった。以前と同じように話が弾み、久々に楽しい食事だった。
リカルドが言うには、寮長の『竜に選ばれるためには誇りを失ってはいけない』との言葉が、昨夜のうちに訓練生の間に広まっていたらしい。
それまで訓練生同士の競争のようになっていた竜騎士への道のりは、竜に選ばれるために自己研磨する道程へと変わっていた。
「竜に選ばれることを目標にすればいいと考えると、凄く楽になったような気がする。だって、何もしていない僕を見下すなんて、竜が嫌うはずだから。そんな奴らは自分で竜騎士から遠ざかっているようなものだよね」
リカルドは吹っ切れたようにそう言った。僕も本当にそう思う。僕たちは竜に選ばれるためにここにいる。仲間を蹴落とすためではない。そんなことをすれば竜騎士への回り道になってしまうだろう。
「そうだよな。そんなやつは竜に選ばれるわけないものな」
僕たちは前だけを見て努力すればいい。学問所出身だろうと、親が竜騎士だろうと、そんなことは関係ないんだ。僕は最短で竜騎士になることだけが目標なのだから。
そんな話をしていると、カルロたちが食堂へやってくる。朝起きてから部屋では全く言葉を交わしていないので、少し気まずい。リカルドも彼らが苦手らしく目を伏せてしまった。僕も同じように下を向いて、カルロが通り過ぎるのを待っていた。
「僕は絶対に竜騎士になってみせる。だから、もう誇りを失わない」
僕とリカルドの横を通り過ぎる時、カルロはそう呟いた。驚いた僕は顔を上げたが、カルロは僕たちの方を見ていなかったので、目が合うことはなった。カルロは僕たちに向かって言ったのではないかもしれないが、彼は僕とリカルドに聞かせようとしたのだと僕は思った。
「ジョエル、少しいいか?」
午前中の厳しい訓練を終え、昼食を食べていると僕の隣に寮長が座った。前に置かれたトレイには僕たちと同じ料理が盛られている。しかし、量は僕たちの二倍以上あった。
「はい。寮長」
少し緊張するが断る理由もない。対面に座っているリカルドも黙っていた。
「竜騎士団に出向している神官に来てもらった。彼は今寮長室にいるから、食事を終えたらあの銀の札を持って来てくれ」
寮長は穏やかに僕に声をかけると、美味しそうに昼食を食べ始めた。
神官は聖なる力を目視できて移動させることもできる。竜騎士の武器や装備、竜騎士団基地を守る銀の矢などに込められた聖なる力を確認するために、神殿から竜騎士団に神官が出向してきていた。その神官がこの訓練所にやって来ているらしい。
「はい」
僕には神官に会う理由がわからなかったけれど、もちろん寮長に逆らうつもりはない。
僕は急いで昼食を終えて部屋に戻った。カルロたち同室者はまだ戻っていないので、部屋は無人だった。僕は抽斗の魔法鍵を開けて曲がった銀の札を取り出す。
『レアナ、ごめん。僕が馬鹿だったから、大切なこの札を皆の前で抽斗から出してしまった』
僕には心の中でレアナに謝るしかできなかった。
寮長室へ行くと、中年の男性神官が立ち上がって握手を求めてきた。神官の握手に応じると、その手は思った以上にごつごつしていた。
「それがルシア様のお嬢さんが祝福した札か。なるほど、かなりの密度で聖なる力が込められています。彼女はとても力ある聖乙女なのですね」
レアナを褒めてはいるが、神官はどこか辛そうだった。
「それでも、聖乙女は最長十年との決まりが新しく制定されたのだから、ルシア様のような残酷なことにはならないでしょう」
寮長はそう言うけど、十年は本当に長い。僕はまだ八年しか生きていないのに。
「そうですね。彼女にはもう騎士がいるようですしね」
神官は微笑みながら僕を見た。僕は『レアナの騎士』と言われたことが嬉しくて、でも少し恥ずかしかった。
「それではその札を貸してもらえますか。私の神官の力で被覆して、聖なる力を閉じ込めてしまいます」
銀に聖なる力を込めることができるのは聖乙女だけだが、神官は聖なる力が銀から無駄に出ていくのを防止することができるんだ。ただ銀を覆うだけではなく、黒魔素があればそれを白魔素に変えることができる量の聖なる力を放出させる凄い機能がある。竜騎士の武器や装備は全て神官の力で被覆されていた。
「何をするのですか?」
正直、レアナの札を渡すのは不安だったので、僕は神官と寮長に聞いてみた。
カルロにレアナから貰った銀の札を曲げられた日の翌朝、僕が食堂へ行くと、久し振りにリカルドに声をかけられた。
「寮長に怒られたけどね。反省文を書かなくちゃいけないんだ」
「でも、ジョエルは凄いよ。カルロたちは僕たち公立学問所出身者のことを見下していたけど、年上だし人数も多く反抗できなくて悔しい思いをしてたんだ。ジョエル、ごめん。僕と同じ学問所出身だと思っていたジュエルが竜騎士の息子だと知って、僕は馬鹿にされるのではないかと怖かった。だからジョエルを避けてしまったんだ。でも、そんなことは誇り高い竜騎士を目指す僕がしてはいけなかった。もしよかったら、また僕と仲良くしてほしい」
「もちろんだよ」
まだ反省文が完成していない。それに銀の札が曲がったままなのはとても辛い。でも、リカルドと仲直りするができた。今回のことは悪いことばかりではなかったと、僕は思い始めていた。
それから、リカルドと向かい合って朝食をとった。以前と同じように話が弾み、久々に楽しい食事だった。
リカルドが言うには、寮長の『竜に選ばれるためには誇りを失ってはいけない』との言葉が、昨夜のうちに訓練生の間に広まっていたらしい。
それまで訓練生同士の競争のようになっていた竜騎士への道のりは、竜に選ばれるために自己研磨する道程へと変わっていた。
「竜に選ばれることを目標にすればいいと考えると、凄く楽になったような気がする。だって、何もしていない僕を見下すなんて、竜が嫌うはずだから。そんな奴らは自分で竜騎士から遠ざかっているようなものだよね」
リカルドは吹っ切れたようにそう言った。僕も本当にそう思う。僕たちは竜に選ばれるためにここにいる。仲間を蹴落とすためではない。そんなことをすれば竜騎士への回り道になってしまうだろう。
「そうだよな。そんなやつは竜に選ばれるわけないものな」
僕たちは前だけを見て努力すればいい。学問所出身だろうと、親が竜騎士だろうと、そんなことは関係ないんだ。僕は最短で竜騎士になることだけが目標なのだから。
そんな話をしていると、カルロたちが食堂へやってくる。朝起きてから部屋では全く言葉を交わしていないので、少し気まずい。リカルドも彼らが苦手らしく目を伏せてしまった。僕も同じように下を向いて、カルロが通り過ぎるのを待っていた。
「僕は絶対に竜騎士になってみせる。だから、もう誇りを失わない」
僕とリカルドの横を通り過ぎる時、カルロはそう呟いた。驚いた僕は顔を上げたが、カルロは僕たちの方を見ていなかったので、目が合うことはなった。カルロは僕たちに向かって言ったのではないかもしれないが、彼は僕とリカルドに聞かせようとしたのだと僕は思った。
「ジョエル、少しいいか?」
午前中の厳しい訓練を終え、昼食を食べていると僕の隣に寮長が座った。前に置かれたトレイには僕たちと同じ料理が盛られている。しかし、量は僕たちの二倍以上あった。
「はい。寮長」
少し緊張するが断る理由もない。対面に座っているリカルドも黙っていた。
「竜騎士団に出向している神官に来てもらった。彼は今寮長室にいるから、食事を終えたらあの銀の札を持って来てくれ」
寮長は穏やかに僕に声をかけると、美味しそうに昼食を食べ始めた。
神官は聖なる力を目視できて移動させることもできる。竜騎士の武器や装備、竜騎士団基地を守る銀の矢などに込められた聖なる力を確認するために、神殿から竜騎士団に神官が出向してきていた。その神官がこの訓練所にやって来ているらしい。
「はい」
僕には神官に会う理由がわからなかったけれど、もちろん寮長に逆らうつもりはない。
僕は急いで昼食を終えて部屋に戻った。カルロたち同室者はまだ戻っていないので、部屋は無人だった。僕は抽斗の魔法鍵を開けて曲がった銀の札を取り出す。
『レアナ、ごめん。僕が馬鹿だったから、大切なこの札を皆の前で抽斗から出してしまった』
僕には心の中でレアナに謝るしかできなかった。
寮長室へ行くと、中年の男性神官が立ち上がって握手を求めてきた。神官の握手に応じると、その手は思った以上にごつごつしていた。
「それがルシア様のお嬢さんが祝福した札か。なるほど、かなりの密度で聖なる力が込められています。彼女はとても力ある聖乙女なのですね」
レアナを褒めてはいるが、神官はどこか辛そうだった。
「それでも、聖乙女は最長十年との決まりが新しく制定されたのだから、ルシア様のような残酷なことにはならないでしょう」
寮長はそう言うけど、十年は本当に長い。僕はまだ八年しか生きていないのに。
「そうですね。彼女にはもう騎士がいるようですしね」
神官は微笑みながら僕を見た。僕は『レアナの騎士』と言われたことが嬉しくて、でも少し恥ずかしかった。
「それではその札を貸してもらえますか。私の神官の力で被覆して、聖なる力を閉じ込めてしまいます」
銀に聖なる力を込めることができるのは聖乙女だけだが、神官は聖なる力が銀から無駄に出ていくのを防止することができるんだ。ただ銀を覆うだけではなく、黒魔素があればそれを白魔素に変えることができる量の聖なる力を放出させる凄い機能がある。竜騎士の武器や装備は全て神官の力で被覆されていた。
「何をするのですか?」
正直、レアナの札を渡すのは不安だったので、僕は神官と寮長に聞いてみた。
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