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王様に会う

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 僕は王様と会うなんて冗談だと思っていたけれど、レアナの誕生日の翌日、神官長が家にやってきて僕を王宮に連れて行きたいと父に頼んだ。
 休みだった父は予めそのことを聞かされていたらしく、驚くことなく頷く。
 僕は驚きながらも、父のエルネストに乗って王宮へと向かうことになった。
 神官長は別に馬車で王宮で向かうらしい。
「王宮で会いましょうね」
 そう言って神官長は馬車に乗り込んで出発してしまう。


「エルネストはやっぱり格好良いよね」
 土色の地味な竜だと言われているが、翼に真っ赤な線が三本入っているエルネストは最高に格好良い。
「ああ、エルネストは最高だ。ジョエル、今日はディエゴもレアナもいないから、結構な速度を出すからな。身体強化の訓練だ」
「父さん、わかった。僕は頑張るよ」
 今年の竜騎士訓練生選考会に挑戦すると言ったので、父は僕を鍛えてくれるつもりらしい。もちろん、少し鍛えたぐらいで合格するほど甘くないのはわかっている。それでも、こうして僕に付き合ってくれる父のことが大好きだった。


 時には速度を上げ、時には急旋回し、急降下と急上昇を繰り返すという曲芸飛行を披露しつつ、父の操竜するエルネストは神官長の馬車と同じぐらいの時間に王宮へと到着した。
「俺はここで待っているから、しっかりと陛下に直訴してこい。ちゃんとお願いしないと、レアナは神殿でおばあさんになってしまうぞ」
「一緒に行ってくれるんじゃないの?」
 空から見た王宮の大きさと、王様に会うことに気後れしてしまい、父が一緒に来てくれればいいなと思ってしまう。竜騎士はその魂までも自由だといわれていて、陛下の前でも頭を下げなくてもいいらしいから、隣にいてくれるだけで心強い。
「俺は一緒に行かないからな。これぐらい一人でできなければ、竜騎士になるなんて土台無理だな」
「わかった。僕一人で行ってくる」
 竜騎士になるための試練というなら、王様だって怖くない。



 謁見の間で待っていた王様は母と同じほどの身長しかないが、体重は二人分ぐらいありそうな体形をしていて、立派な髭を生やしていた。豪華なガウンを着た王様は丸い形をした王冠をかぶっている。
「竜騎士ジャイルの息子、ジョエルと申します」
 僕は神官長に教えられた通りの挨拶をした。 
「ジャイル殿の息子がこれほど大きくなっているとは。時の経つのは本当に早いものだ」
 少し高い位置にある豪華な椅子に座っている王様は、昔を思い出すように目を細めながら僕の方を見ている。
「父をご存じなのですか?」
 王様は国で一番偉い人で、僕たちのことなんて知らないと思っていた。

「当たり前だ。竜騎士と竜の名を知らぬ者はこの国にはいない。新しく竜騎士になった者は王に報告するのが習わしだ。竜騎士が結婚する時は王が見届け人を務めるのだぞ。もちろんジャイル殿が竜騎士になった時は儂が直接報告を受けたし、結婚式には儂が祝いの言葉を述べたのだ」
 僕は竜騎士の凄さを改めて感じていた。僕の住んでいる地域は竜騎士の居住区なので、国内の全ての竜騎士が住んでいる。ご近所が全て竜騎士の家で、竜騎士はそれほど珍しくもない普通の人だと思っていた。
 僕は父の偉大さを知り、竜騎士になりたい思いが増していく。


「陛下、ルシアさんの娘のレアナさんに会ってきました。やはりルシアさんを凌ぐほどの聖なる力を持っています。このままでは三十二歳になっても力の衰えないルシアさんのようになると思われます」
 神官長は顔を伏せているので表情はわからない。でも、声が震えている。
「ルシアを解放する条件として、前神官長は通常の聖乙女より聖なる力が衰えた時と言っていたな。それではレアナは何時までも聖乙女を辞めることができないと?」
「仰せの通りでございます。そこで、聖乙女には最長十年という制限を設けてはいかがでしょうか? もちろん、聖乙女は魔物や他国の者に狙われてしまうため、無条件での解放は難しいでしょう。この国で一番安全なのは竜騎士団の基地で、その次は神殿です。竜騎士が後見人を務めるのであれば、十年間聖乙女を務めた者は神殿から出してもいいと私は思います」

「竜騎士は常に十数人しかしない。竜騎士の娘のレアナはともかく、いくら力ある聖乙女だとしても、後見人となる竜騎士が早々見つかる訳でもあるまい。十年経っても聖なる力の衰えない聖乙女は、無理やり竜騎士と結婚させるつもりか? それこそ、魂まで自由と謳われる竜騎士の存在を否定する所業だぞ」
「いいえ、竜騎士に強制するつもりはありません。竜騎士の後見がなかった聖乙女は、聖女として神殿に残ってもらえばいいのです。聖乙女よりもっと自由を与えて、若き神官とも出会う機会も作りましょう。ただ、十年務めた聖乙女と独身竜騎士との見合いは開いていただきたいと存じます」

「そんな必要はないよ! 僕は竜騎士になってレアナを迎えに行くから。絶対にそうするから」
 僕は思わず叫んでいた。レアナを他の竜騎士にとられてしまうなんて絶対に嫌だ。
「ジョエルさんはリアナさんととても仲良しなのですよ。レアナさんを連れて行かないでとお願いされたのですが、それは叶えてあげられそうもありません。せめて、十年で彼女を解放させてあげてください」
 顔を上げていた神官長が再び頭を下げた。僕もそれを見習って同じように頭を下げる。
「僕からもお願いします。レアナを十年で神殿から解放してください。僕も竜騎士になるという約束は絶対に守ります」
 僕は最短の十年で竜騎士になってレアナを迎えに行く。そのためだけに十年生きるのは悪くないと思っていた。レアナだって神殿で十年間も我慢するんだ。

「普通の聖乙女は世俗にまみれると力が落ちてしまいます。嫉妬や物欲は聖乙女の力を削いでしまうのです。そのため、聖乙女には私物を持たせず、男性神官とも会わせないような生活を強いています。しかし、ルシアさんほどの聖乙女なら普通の生活をしても聖なる力を失わないようです。ただ、聖乙女と同年代の時に力が強いからと言って自由を与えてしまうと、他の聖乙女たちの嫉妬心を煽ってしまいます」
「神官長の主張はわかった。十年後ならば同年代の聖乙女は既に神殿を出ている。若い聖乙女は大先輩が多少の自由を得たとしても、自分たちの方が早く神殿より解放されると知っているから、妬んだりしないだろう。聖女となって祝福を引き受けてもらえれば、他の聖乙女の負担も減らせるし、悪い提案ではないな。考慮しておこう」
 聖女の祝福とは、銀に聖なる力を込めること。竜騎士の武器は聖女であるルシアおばさんが祝福していて、一発で三匹の魔物を仕留めることができるほど、凄い武器になっているらしい。そう父が自慢していた。
 ルシアおばさんが竜騎士団の聖女になる前は、神殿の聖乙女に武器を祝福してもらっていたけれど、それは聖乙女にとても負担をかけていて、しかも効果も低かったと父から教えてもらっていた。

「陛下、よろしくお願いいたします」
「僕からもお願いします」
「ジョエル、ぜひ竜騎士になってレアナを神殿から連れ出してやってくれ」
 王様は椅子から立ち上がって、僕の頭を優しく撫でた。僕は何度も頷いていた。
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