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レアナが行ってしまう
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「レアナさんには私から伝えましょうか?」
暫くの沈黙の後、神官長と呼ばれた見知らぬおばさんが声を出した。
「いいや、レアナは俺の娘だ。俺から話す」
「カイオ、でも、レアナは…… まだ小さいのよ」
しゃくり上げているのはルシアおばさんだ。
「ルシア、済まない。俺だってレアナを手放したくない。レアナはまだ七歳にもなっていないんだ。神殿なんかに行かせたくない。だが、レアナだけを特別扱いしろとは俺には言えない」
カイオさんはとても辛そうだった。今までこんな声を聞いたことがなかったぐらいだ。
「カイオ。私ね、神殿での暮らしはそれほど嫌いじゃなかったの。私が育った村はとても貧しくて、娯楽など何もなかった。子どもだって何かの作業をしなければ生活できない。それに比べると、神殿では祈るだけで感謝されるのよ。この国の人の役に立っていると褒められるの。飢えの心配も渇きの心配もない。本当に大切にされていたと思うわ。でも、基地で暮らしているレアナにとって、神殿はとても辛いところかもしれない。私は基地にやってきて、楽しいことばかりだったから。こんなに幸せな場所があるのかと思ったぐらいだもの。レアナはそんな幸せな暮らしを産まれた時から経験しているのよ」
僕も神殿の暮らしはレアナにとってとても辛いだろうと思う。一旦神殿に入ると、親でも面会できないらしい。そう思うと竜騎士の訓練場よりきついところだ。カイオさんのこともルシアおばさんのことも大好きで、弟が産まれてとても喜んでいるレアナにとって、彼らと会えないことはとても辛いはずだ。
「本当にごめんなさい。ルシアさんをあれほど長期間に亘って拘束した上に、娘さんまで神殿に差し出せと言うのだから。でも、私は神官長として、レアナさんを神殿に渡してとお願いするしかないの」
僕はやっぱり納得できなかった。聖乙女が国の維持に必要だと知っている。でも、レアナでなくてもいいじゃないか。
「わかっています」
魂さえ自由だといわれる最強の竜騎士でもレアナを守れないのかと思うと、僕は悔しくて泣きそうになる。
「レアナさんの七歳の誕生日がもうすぐだと聞いています。どうか、誕生日はご家族でお祝いしてあげてください。私は十日後に再びここへ参ります。それから、レアナさんの体調が悪いのは、体内に聖なる力が溜まりすぎたためです。ルシアさん、祝福の方法を彼女に教えてあげてくださいね」
「ラリーサさん、私は結婚するべきではなかったのでしょうか? こんな年になっても聖なる力を持っている私が母親だから、レアナは七歳になる前に聖乙女になってしまったのよ」
ルシアおばさんはレアナを諦めきれないようだ。
「ルシアさんは結婚して不幸だった?」
「いいえ。カイオと結婚できて本当に幸せだったわ。結婚してもう八年間も経っていると思えないほど、充実した毎日であっという間に過ぎてしまった。でも、幸せな思い出はいっぱいあるの」
「俺もルシアと結婚できて本当に良かったと思っている。だから、結婚すべきではなかったなんて決して言うな」
カイオさんの声はとても低い。怒っているのだろうと思う。
「ルシアさん、貴女が幸せというのならば、レアナさんだってきっと幸せになることができると思うのよ」
とても静かに神官長は言った。カイオさんもルシアおばさんも反論することもなく黙ってしまう。
「それでは私はお暇するわね。レアナさんによろしく」
神官長が帰るようなので、僕は慌てて自分の家の方に走っていき、玄関脇の花壇で水をやっていた。
暫くすると神官長がお隣の玄関から出てきた。そして、正門の方へ向かって歩き始める。僕は少し距離を取り神官長の後を追った。
「レアナを連れて行かないでくれ」
竜騎士の官舎が建っている地区を通り過ぎて、正門へと続く大通りへ出たあたりで、僕は神官長へ声をかけた。とても黙っていることなんてできなかったんだ。
「貴方はどなた?」
慌てて振り向いた神官長が驚いた顔で僕に訊く。
「僕は、レアナの隣に住んでいるジョエルだ」
そう言うと、神官長は優しく微笑んだ。
「レアナさんとは幼馴染なのね。そして、彼女を心配してくれているのね」
「ただの幼馴染なんかじゃない! 僕は竜騎士になってレアナと結婚するんだ。そして、金の認識票をレアナに贈ると決めている。これが約束の証だ。レアナから貰ったんだ」
僕はレアナから貰った銀の札を神官長に見せつけた。レアナが贈ってくれた銀の札にかけて僕は竜騎士になると誓った。嘘は言っていない。
「まぁ、そうなの。ねぇ、一度国王陛下とお会いしてもらえないかしら。謁見の申請をしておくから」
「王様と?」
僕は神官長の言っている意味がわからなかった。
「そうよ。国王陛下に直訴してほしい。今まで十年以上神殿にいたのはルシアさんだけなの。だけど、レアナさんはもしかしたらルシアさんをも凌ぐ聖乙女かもしれない。だから、今のうちに神殿にいる期間を決めおかなければ、ルシアさんの二の舞になると思うのよ。でも、力ある聖乙女を神殿から解放すれば、魔物や他国からの脅威にさらされることにもなるから、慎重にならざるを得ない。だけどね、ルシアさんのように竜騎士と結婚することができれば、これほど安全なこともないし、竜騎士団の基地で聖女として働ければ、神殿の聖乙女たちは祝福の義務から逃れられるのよ。国にとっても悪い話ではないと思うの。だから、きっちりと聖乙女の任期期間を定め明文化しておきたいの」
「レアナはやっぱり神殿へ行くことになるのか? 僕は反対だからな」
神官長はレアナが神殿へ行くことに決まっているように僕に話していた。
「私はね、聖乙女の任期を最長十年にしてもらうように陛下と交渉しようと思っているの。その期間を過ぎると、神殿の聖女として、他の聖乙女とは違う生活を送れるようにする。そして、竜騎士が後見するのであれば、神殿から出て竜騎士団の基地で暮らせるようにする。そう陛下にお願いするつもりよ。十年というのは、竜騎士になることができる最短の期間でもあるわ」
そう言って神官長は微笑んだ。
確かに十年の訓練を積まなければ、竜騎士訓練生は竜に挑戦することはできない。だから、八歳で竜騎士訓練生になったとしても、竜騎士になることができるのは最短で十八歳だ。だけど、今まで十八歳で竜騎士になった者はいない。
僕が十八歳で竜騎士になることができれば、レアナは長くても十年で神殿を出ることができる。
子どもの僕にはそれしか道はないと思った。
暫くの沈黙の後、神官長と呼ばれた見知らぬおばさんが声を出した。
「いいや、レアナは俺の娘だ。俺から話す」
「カイオ、でも、レアナは…… まだ小さいのよ」
しゃくり上げているのはルシアおばさんだ。
「ルシア、済まない。俺だってレアナを手放したくない。レアナはまだ七歳にもなっていないんだ。神殿なんかに行かせたくない。だが、レアナだけを特別扱いしろとは俺には言えない」
カイオさんはとても辛そうだった。今までこんな声を聞いたことがなかったぐらいだ。
「カイオ。私ね、神殿での暮らしはそれほど嫌いじゃなかったの。私が育った村はとても貧しくて、娯楽など何もなかった。子どもだって何かの作業をしなければ生活できない。それに比べると、神殿では祈るだけで感謝されるのよ。この国の人の役に立っていると褒められるの。飢えの心配も渇きの心配もない。本当に大切にされていたと思うわ。でも、基地で暮らしているレアナにとって、神殿はとても辛いところかもしれない。私は基地にやってきて、楽しいことばかりだったから。こんなに幸せな場所があるのかと思ったぐらいだもの。レアナはそんな幸せな暮らしを産まれた時から経験しているのよ」
僕も神殿の暮らしはレアナにとってとても辛いだろうと思う。一旦神殿に入ると、親でも面会できないらしい。そう思うと竜騎士の訓練場よりきついところだ。カイオさんのこともルシアおばさんのことも大好きで、弟が産まれてとても喜んでいるレアナにとって、彼らと会えないことはとても辛いはずだ。
「本当にごめんなさい。ルシアさんをあれほど長期間に亘って拘束した上に、娘さんまで神殿に差し出せと言うのだから。でも、私は神官長として、レアナさんを神殿に渡してとお願いするしかないの」
僕はやっぱり納得できなかった。聖乙女が国の維持に必要だと知っている。でも、レアナでなくてもいいじゃないか。
「わかっています」
魂さえ自由だといわれる最強の竜騎士でもレアナを守れないのかと思うと、僕は悔しくて泣きそうになる。
「レアナさんの七歳の誕生日がもうすぐだと聞いています。どうか、誕生日はご家族でお祝いしてあげてください。私は十日後に再びここへ参ります。それから、レアナさんの体調が悪いのは、体内に聖なる力が溜まりすぎたためです。ルシアさん、祝福の方法を彼女に教えてあげてくださいね」
「ラリーサさん、私は結婚するべきではなかったのでしょうか? こんな年になっても聖なる力を持っている私が母親だから、レアナは七歳になる前に聖乙女になってしまったのよ」
ルシアおばさんはレアナを諦めきれないようだ。
「ルシアさんは結婚して不幸だった?」
「いいえ。カイオと結婚できて本当に幸せだったわ。結婚してもう八年間も経っていると思えないほど、充実した毎日であっという間に過ぎてしまった。でも、幸せな思い出はいっぱいあるの」
「俺もルシアと結婚できて本当に良かったと思っている。だから、結婚すべきではなかったなんて決して言うな」
カイオさんの声はとても低い。怒っているのだろうと思う。
「ルシアさん、貴女が幸せというのならば、レアナさんだってきっと幸せになることができると思うのよ」
とても静かに神官長は言った。カイオさんもルシアおばさんも反論することもなく黙ってしまう。
「それでは私はお暇するわね。レアナさんによろしく」
神官長が帰るようなので、僕は慌てて自分の家の方に走っていき、玄関脇の花壇で水をやっていた。
暫くすると神官長がお隣の玄関から出てきた。そして、正門の方へ向かって歩き始める。僕は少し距離を取り神官長の後を追った。
「レアナを連れて行かないでくれ」
竜騎士の官舎が建っている地区を通り過ぎて、正門へと続く大通りへ出たあたりで、僕は神官長へ声をかけた。とても黙っていることなんてできなかったんだ。
「貴方はどなた?」
慌てて振り向いた神官長が驚いた顔で僕に訊く。
「僕は、レアナの隣に住んでいるジョエルだ」
そう言うと、神官長は優しく微笑んだ。
「レアナさんとは幼馴染なのね。そして、彼女を心配してくれているのね」
「ただの幼馴染なんかじゃない! 僕は竜騎士になってレアナと結婚するんだ。そして、金の認識票をレアナに贈ると決めている。これが約束の証だ。レアナから貰ったんだ」
僕はレアナから貰った銀の札を神官長に見せつけた。レアナが贈ってくれた銀の札にかけて僕は竜騎士になると誓った。嘘は言っていない。
「まぁ、そうなの。ねぇ、一度国王陛下とお会いしてもらえないかしら。謁見の申請をしておくから」
「王様と?」
僕は神官長の言っている意味がわからなかった。
「そうよ。国王陛下に直訴してほしい。今まで十年以上神殿にいたのはルシアさんだけなの。だけど、レアナさんはもしかしたらルシアさんをも凌ぐ聖乙女かもしれない。だから、今のうちに神殿にいる期間を決めおかなければ、ルシアさんの二の舞になると思うのよ。でも、力ある聖乙女を神殿から解放すれば、魔物や他国からの脅威にさらされることにもなるから、慎重にならざるを得ない。だけどね、ルシアさんのように竜騎士と結婚することができれば、これほど安全なこともないし、竜騎士団の基地で聖女として働ければ、神殿の聖乙女たちは祝福の義務から逃れられるのよ。国にとっても悪い話ではないと思うの。だから、きっちりと聖乙女の任期期間を定め明文化しておきたいの」
「レアナはやっぱり神殿へ行くことになるのか? 僕は反対だからな」
神官長はレアナが神殿へ行くことに決まっているように僕に話していた。
「私はね、聖乙女の任期を最長十年にしてもらうように陛下と交渉しようと思っているの。その期間を過ぎると、神殿の聖女として、他の聖乙女とは違う生活を送れるようにする。そして、竜騎士が後見するのであれば、神殿から出て竜騎士団の基地で暮らせるようにする。そう陛下にお願いするつもりよ。十年というのは、竜騎士になることができる最短の期間でもあるわ」
そう言って神官長は微笑んだ。
確かに十年の訓練を積まなければ、竜騎士訓練生は竜に挑戦することはできない。だから、八歳で竜騎士訓練生になったとしても、竜騎士になることができるのは最短で十八歳だ。だけど、今まで十八歳で竜騎士になった者はいない。
僕が十八歳で竜騎士になることができれば、レアナは長くても十年で神殿を出ることができる。
子どもの僕にはそれしか道はないと思った。
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