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38.「ピ、ユー」と「噴す」
しおりを挟むテレサの活躍で竹筒は繋ぎ終わった。
8本ほど繋いで10メートルくらいの長さになった竹筒を水が流れている溝の中に浸す。
だが、何も起こらない。
ちゃんと傾斜になっている場所に設置して上流の部分から水は入っているのだが、先端の部分から水は出なかった。
「何が起きるんですか?」
ターナーが小さな声でサムに尋ねている。
「あれぇ?出ないね。」
なんでだだろう?
水圧が足りなかったのかな?
ボクは竹筒の先の所まで走って行って様子を眺める。
「あれ?コレ……穴はどこ?」
水の吐出口はサムの小屋で開けてあった筈だが、竹筒の先、筒の表面には何処にも穴が開いていなかった。
「ありゃ?こりゃ、すいやせん。繋ぎ順を間違いやした。穴はこっちに開いてまさぁ。」
「え?!順番なんかあったんですか?」
特に気にした様子もなく頭を掻いているサムとは対照的にターナーはガクガクブルブルしている。
『ガクガクブルブル』って、ああいう風な動きなんだね。
「すっ!すみませんッ!順番が有るとは思わずッ!」
「構わねえよ。こんくらい。そっちに穴を開けなおせば良いだけだ。」
サムはそう言って竹筒を自ら引っ張り上げる。
ボクに向かってブンブンと音が鳴りそうなくらいに頭を下げて謝るターナーと、全然気にしていない様子のサム。
「良いよ良いよ。サムがなんとかしてくれるよ。大丈夫。ダイジョーブだよ。」
ボクがそう言ってターナーの肩をポンポンしているうちにサムが竹筒に穴を開けてくれた。
焦りまくっているターナーに対してサムは全く気にしていない様子が剛毅というか。
ターナーも気にしないで良いのになあ。
「……?」
ふと視線を感じて見ると、テレサが手を後ろ手に組み『休め』の姿勢で『何やってるんだろう?』的な表情でボクを見ていた。
うーん、テレサもこういう時『我関せず』なことが多いよね。
テレサはマルカと違ってスゴイスゴイとテンション高めに褒めてくれたり、メリアみたいに前もって止めることはあまりしない。
テレサはなんか『やってみなさい』と言っているような感じだ。
まあ、単純にボクがなにをしているのかわかって無いってだけなのかもしれないのだけれど。
「出来やしたぜ?」
ボクがそんな事を考えていると、サムが道具を片付けながら声を掛けてきた。
「お?できたー?」
急いでサムのところへ駆けて行くと、さっきまで竹筒の側面にただ穴を開けただけだった吐出口に細い竹筒が刺してあった。
「穴だけじゃ、何処が『ピ、ユー』なのかわかんねかったんで、刺してみやした。」
「おお、良いね良いね。こっちの方が噴水っぽいよ。」
「あれ?これって、何処かで……。」
ターナーがボソッと呟いたが、
「ホレ、ターナー。ちょっとそっち持ってくれ。」
と、サムに急かされて行ってしまった。
サムとターナーは二人がかりで10メートルはありそうな竹筒を運ぶと、竹筒を溝の中に再び沈める。
するとすぐに竹筒の先、開けた穴に突っ込まれた細い竹筒から水が噴き上がってきた。
水は30センチほどの高さまで吹き上がる。
ジョボボボボ。
おや?思ったよりショボい……。
これは噴水というより手水鉢の流水のような……。
「も、もしかして!もしかして、コレって!フンスですか?!」
先程までビビっている様な態度だったターナーが突然大きな声を上げた。
急に態度が変わったので皆目を丸くする。
なんだ?フンス?
もしかして、
「噴す?」
ボクが首を傾げると、
「そうですそうです!池の中に設置して水が飛び出す仕掛けです!」
とターナーが同意する。
おお!それはまさに噴水!
なるほど、水が噴き出すから『噴す』か!
ターナーは噴水を知っているのか!
「知ってるの?!」
「あ、いや、そういうモノがある事は知っているのですが、本当に在るとは……。」
ボクのテンションが上がったのに対してターナーのテンションがちょっと下がった。
だがボクは構わずに続ける。
「それならもっと大きいの作ってよ。もっといっぱいシャーって出るヤツ。」
前世の記憶の中のお金持ちの庭には噴水とオシッコする子供の石像が飾ってあった。
オシッコする子供の石像は別に要らないけど、噴水が有るとなんだか『お金持ちの家』って感じがするじゃない?
「あ、いや、でも、作り方がわからなくて……。」
「今、俺と一緒に作ったじゃねえか?」
自信無さそうに言ったターナーにサムがツッコミを入れる。
「あれ?そういえば……。え?こんなんで……いや、こうやれば良いんですか?」
「うん、筒をもっと長くすればもっと高く水が飛ぶよ。」
「筒を長く?それだけで良いんですか?」
「うん。水が入る入口がもっと高いところ、ピューって水が出る穴がもっと低い場所にあればもっと高く飛ぶんだ。」
「長い筒と高さ、ですか……。」
ターナーはうーんと唸りながら少し考えたが、
「でも、やってみます!」
と、手を握り締め、何か決意したようにそう言った。
「ご主人様、そろそろ……。」
「うん?ああ、もう夕方か。それじゃあ、またね。」
空を見上げると、空は少し黄色くなってきており、もう夕方なのだろう。
あまり遅くまで外で遊んでいるとメリアが心配するので、後片付けはサムとターナーにお願いしてボク達は部屋へ戻った。
二人には今度なにかお礼しないといけないね。
今日作った噴水はショボい感じだったけど、いつかは水が何本も出る様な噴水を作るぞ!
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