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29.庭を目指して。メイド達との攻防
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テレサが戻って来てから数日が経った。
ボクはテレサを連れて屋敷の探検を再開していた。
何しろこの館は広い。
大広間だけで前世の体育館程の広さがあるし、所々にドアがあり、いくつもの隠し通路まである。
それらを一つ一つ見て回って面白そうなものを探している。
何故そんなことをしているのか?
理由は簡単。
退屈だから。
それに運動不足解消。
しかし、最大の目的は屋敷から抜け出す方法を探している。
館がいくら広いからって、何ヵ月も庭にすら出ないのはダメだろう。
一応、メリアやテレサに
「外に行きたい。」
と頼んだことも有ったが『危ない』とか言って出してもらえなかった。
庭が崖っぷちになっているわけでも無いだろうに。
ならばどうするのか?
もちろん、実力行使である。
まあ、そのためには先ず、後をついてくるテレサを撒くかどうにかしないといけないんだけどね。
手段1、何とかして一人になる
「テレサ、ボクは水を飲みに行くから、ここでちょっと待っててよ。」
「ではご一緒に。」
「いや、良いよ良いよ。一人で行ってくるからさ。待っててくれれば良いよ。」
「いえ、しかし、ご主人様はお水の在処を御存知無いのでは?」
「え?厨房じゃないの?」
「ご主人様が飲まれるお水はメイドが管理しておりますので。」
「……そうなんだ……。」
手段1失敗。
続いて手段2、用事を言いつけて席を外させる。
「それじゃあ仕方ないね。お水を持ってきてくれるかな?ボクはここで待ってるからさ。」
「わかりました。少々お待ちください。」
「うんうん、ゆっくりで良いからね。」
そう言って庭へ通じるドアを見る。
そして一呼吸待って、そろそろ良いかな?
そろそろテレサは……。
「どうぞ。」
「うわっ!ビックリしたっ!」
そこには、さっき踵を返したはずのテレサが水差しと杯を持って立っていた。
「あれ?水を汲みに行ったんじゃ?」
「はい、レーネが汲んできてくれました。」
見ると、テレサの後ろにレーネがトレイを持って立っていた。
あ、レーネも居たんだね。
全然気付かなかった……。
「ありがとう。」
ボクは杯を手に受けとると、水を一杯飲んで杯を返す。
手段2、失敗。
手段3、合法的逃走
「ようし、水も飲んだし、追いかけっこをしよう。」
「オイカケッコ、ですか?」
ありゃ?追いかけっこ、知らないのかな?
「ボクが逃げて、テレサが追いかけて捕まえる。知らない?」
「すみません。」
知らないかぁ。
「良いよ良いよ。簡単だからさ。じゃあ、ボクは逃げるからね!」
そう言って返事を待たずに駆け出す。
フフフ、子供のすばしっこさ、見せてくれよう!
一気に庭へのドアへ、
「失礼致します。」
「へ?」
すぐ後ろで声がしたと思ったら、足が床から離れていた。
「どういたしましょうか?」
「……下ろして。」
ムゥ、これはダメだ、もっと時間を稼がないとっ。
とにかく先ずは時間だ。
時間稼ぎをせねば!
「待つ!数えて!追いかけるのは数えてからっ!」
「大きな声でゆっくり数えるんだよ!じゃあ、よーい、ドン。」
「エス。ユーグ。ダリ……。」
あれは数を数えているのだろうか?
数えるテレサの声を聞きながらも、正直焦っていた。
ここから庭へのドアまでは10メートルほどしかない。
真っ直ぐ行けば数秒しかかからず、流石に目的が簡単にバレてしまう。
その焦りから、庭の方に向かっていた歩みを大広間の奥へ向かって曲がってしまった。
「メル、リート、レン……。」
しかし幸いというか、10まで数えたはずのテレサはまだ数え続けていて動いていない。
どうしてだろう?
いやこれは、あまり早く捕まえてはいけないというテレサなりの思いやりなのかもしれない。
「レヌーク。」
もしかしたらボクに遠慮して……。
「失礼致します。」
「へ?」
すぐ後ろで声が聞こえたと思ったら、ボクの足は床から離れていた。
なんだ?スゴい既視感が……。
というか、十メートル以上離れていたはずなのに、一瞬で捕まってしまった。
こ、これは、いかん!
追いかけっこは逃げきれない!
三パターン試して分かったこと。
一人にはなれない。
まともに逃げたのでは逃げきれない。
これは、どうしたものか。
テレサに持ち上げられ、足をぶらぶらさせながらちょっと考える。
まともにやって逃げきれないなら、
「よし!こんどはかくれんぼだ!」
「カクレンボ?」
「知らないの?」
「すみません。」
追いかけっこだとか、かくれんぼなんて、どこの子供でもやるもんだと思っていたけど、そうでもないのかな?
ボクがかくれんぼについて説明すると、
「了解しました。隠れたご主人様を探すのですね。」
「うん、それじゃあ、いっぱい待って。」
そう言ってボクが走り出すと、テレサがボクの方を見ながら、
「いーち、にーい。」
と数え始めたので、
「見ちゃダメー!見てたら探す意味ないでしょー!」
と、ボクがツッコむ。
「おお、なるほど。」
テレサは珍しく、ちょっと驚いた顔をすると、目を閉じて手で自分の目を覆い隠した。
よーし!今のうちに、どこかへ隠れる……んじゃなく!
今のうちに庭へと……。
「ん?」
見ると庭へと通じるドアの横で、水と杯を片付け終わったのだろう、レーネが『何しているんだろう』って感じの顔をしてこっちを見ている。
「しまった!もう一人いたのか!」
気持ちはピンチの時のヒーローの気分である。
仕方ない!大広間の神像のところまで撤退だ!
と、回れ右して大広間の奥へと方向を変更する。
「ユーグェン、ダリェヌーク。数え終わりました。」
その時、遠くでテレサの数え終わりの声が聞こえ、
「失礼致します。」
という声がほぼ同時に真後ろから聞こえて、またしてもボクはテレサに持ち上げられて足をブラブラさせていたのだった。
なんだかスゴい既視感、いや、この状況はさっきと全く同じではないか……。
もうどうにでもしてくれという感じで足をブラブラしていると、
「ご主人様はもしかして、お庭を見ていますか?」
テレサが後ろから小さな声で語りかけてきた。
「……気づいてたの?」
「三度とも庭へのドアを意識しているご様子で走っていかれましたので、何かあるのかなと。」
オウ……、そういえば、確かに庭を意識するあまり同じような行動をとってしまった。
「……外に出たい。」
だって、いくら広いって言っても何ヵ月も屋内から出ないって健康に良くないじゃない。
腕とか足とか細いし、肌だってなんだか不健康に生っ白い。
「外に出たい。」
もう一度言うと、
「わかりました。私からもお願いしてみましょう。」
と、言ってくれた。
「テレサ?どうかしたのですか?」
ボクとテレサがボソボソと内緒話をしていると怪訝そうな表情でレーネが近寄ってきた。
そして、
「外に出たいっ!」
レーネはボクの突然の大声に目を丸くして驚いた顔に変わる。
「え?えっと……?」
「外に出たい!」
もう一度はっきりと言う。
テレサの追放騒動の時に感じたのだが、ボクが強く言えば多分叶えられる。
だけど、あくまでも強く言ったときだけだ。
だから敢えてここは強めに言っておこう。
「わ、わかりました。メリア様にご相談させて頂きますので。」
「外に出たい!」
もう一押ししておく。
「わ、わかりましたので!」
「ご主人様、今日はもう時間が遅うございます。私とレーネも応援させて頂きますので、これよりメリア様にお願いして、明日にでも庭にお出になられてはいかがでしょう?」
「テレサ、あなた何を言って……。」
何言ってんのって感じで慌てているレーネと、シレっと冷静な様子のテレサ。
普段はレーネがテレサの補佐って感じだけど、案外レーネの方がお目付け役とかお姉さんっぽい立場なのかもしれない。
そんなやり取りをしつつ、
「早く、はやくっ。」
って感じで二人を急かして、そのノリでメリアを説得。
翌日、庭へと外出?する約束を取り付けることに成功したのだった。
フッフッフ、手段はともかく、終わりよければ全て良しだ。
そう!言うなれば『計画通り』だ!
翌日。
今日は庭に出る日だ。
早く外に行きたくて朝起きてからソワソワしたり、メリア達に、
「早く外に行こう!」
って急かしたりしていたが、なかなかメリアの許可が出なくてお昼前くらいになってしまった。
「それでは参りましょう。」
先に外に行って戻ってきたレーネとなにか話して、ようやっとメリアの許可が出た。
メリアの言葉を聞くとボクはテレサを連れて早速庭へと向かう。
廊下を過ぎて階段を降りて大広間を抜けて。
あ、一応大広間の神像には挨拶の柏手を打っておく。
記念日だしね。
よおし!やることはやった!
それじゃあ行こうか!
ボクはそう意気込んで大広間の出口から外に出る。
扉の向こうは外かな?と思って大広間を出たのだが、扉の向こうはまたもやホールのようになっていてまたもや自動車が走れそうな広い廊下が伸びていた。
うお!まだ続くのか?
いや、これくらいで負けるか!
と、一人盛り上がりながら廊下を走り抜けると、次の扉を開く。
と、今度こそ館の外、玄関の外だった。
「……。」
開けられた扉。
そこから館の中とは違う空気が流れ込んでくる。
静寂だった館の中と違って、遠くから鳥のさえずりが聞こえてきていた。
たった一枚の扉を開けただけだ。
今向こう側との間には一条の敷居があるだけなのだ。
だけど、その向こう側はコッチとは違う。
そんな感じがする。
たった一歩踏み出せば外に出ることができる。
たった一歩。
この一歩は庭へと出るだけのただの一歩だ。
だけど物心ついてから数か月、館から出ることなく贅沢な貴族的引きこもり生活を送ってきたボクにとっては、まだ見ぬ新しい世界へと踏み出す大きな一歩なんだ。
そう思ってジーンとしていると、
「庭に出ないんですかぁ?」
と、レーネが軽い口調で不思議そうに聞いてきた。
いや、軽いなレーネ。
余韻を楽しんでるんだからさ、気を遣おうよ、レーネ。
メリアやマルカ達だって静かに……。
おや?メリアやマルカ達はまだ大広間から出てきたところだった。
ずいぶんとゆっくりだな。
だが、追い付かれて先を越されてはいけない。
「出る。」
ボクはそう言って玄関から外に出たのだった。
ボクはテレサを連れて屋敷の探検を再開していた。
何しろこの館は広い。
大広間だけで前世の体育館程の広さがあるし、所々にドアがあり、いくつもの隠し通路まである。
それらを一つ一つ見て回って面白そうなものを探している。
何故そんなことをしているのか?
理由は簡単。
退屈だから。
それに運動不足解消。
しかし、最大の目的は屋敷から抜け出す方法を探している。
館がいくら広いからって、何ヵ月も庭にすら出ないのはダメだろう。
一応、メリアやテレサに
「外に行きたい。」
と頼んだことも有ったが『危ない』とか言って出してもらえなかった。
庭が崖っぷちになっているわけでも無いだろうに。
ならばどうするのか?
もちろん、実力行使である。
まあ、そのためには先ず、後をついてくるテレサを撒くかどうにかしないといけないんだけどね。
手段1、何とかして一人になる
「テレサ、ボクは水を飲みに行くから、ここでちょっと待っててよ。」
「ではご一緒に。」
「いや、良いよ良いよ。一人で行ってくるからさ。待っててくれれば良いよ。」
「いえ、しかし、ご主人様はお水の在処を御存知無いのでは?」
「え?厨房じゃないの?」
「ご主人様が飲まれるお水はメイドが管理しておりますので。」
「……そうなんだ……。」
手段1失敗。
続いて手段2、用事を言いつけて席を外させる。
「それじゃあ仕方ないね。お水を持ってきてくれるかな?ボクはここで待ってるからさ。」
「わかりました。少々お待ちください。」
「うんうん、ゆっくりで良いからね。」
そう言って庭へ通じるドアを見る。
そして一呼吸待って、そろそろ良いかな?
そろそろテレサは……。
「どうぞ。」
「うわっ!ビックリしたっ!」
そこには、さっき踵を返したはずのテレサが水差しと杯を持って立っていた。
「あれ?水を汲みに行ったんじゃ?」
「はい、レーネが汲んできてくれました。」
見ると、テレサの後ろにレーネがトレイを持って立っていた。
あ、レーネも居たんだね。
全然気付かなかった……。
「ありがとう。」
ボクは杯を手に受けとると、水を一杯飲んで杯を返す。
手段2、失敗。
手段3、合法的逃走
「ようし、水も飲んだし、追いかけっこをしよう。」
「オイカケッコ、ですか?」
ありゃ?追いかけっこ、知らないのかな?
「ボクが逃げて、テレサが追いかけて捕まえる。知らない?」
「すみません。」
知らないかぁ。
「良いよ良いよ。簡単だからさ。じゃあ、ボクは逃げるからね!」
そう言って返事を待たずに駆け出す。
フフフ、子供のすばしっこさ、見せてくれよう!
一気に庭へのドアへ、
「失礼致します。」
「へ?」
すぐ後ろで声がしたと思ったら、足が床から離れていた。
「どういたしましょうか?」
「……下ろして。」
ムゥ、これはダメだ、もっと時間を稼がないとっ。
とにかく先ずは時間だ。
時間稼ぎをせねば!
「待つ!数えて!追いかけるのは数えてからっ!」
「大きな声でゆっくり数えるんだよ!じゃあ、よーい、ドン。」
「エス。ユーグ。ダリ……。」
あれは数を数えているのだろうか?
数えるテレサの声を聞きながらも、正直焦っていた。
ここから庭へのドアまでは10メートルほどしかない。
真っ直ぐ行けば数秒しかかからず、流石に目的が簡単にバレてしまう。
その焦りから、庭の方に向かっていた歩みを大広間の奥へ向かって曲がってしまった。
「メル、リート、レン……。」
しかし幸いというか、10まで数えたはずのテレサはまだ数え続けていて動いていない。
どうしてだろう?
いやこれは、あまり早く捕まえてはいけないというテレサなりの思いやりなのかもしれない。
「レヌーク。」
もしかしたらボクに遠慮して……。
「失礼致します。」
「へ?」
すぐ後ろで声が聞こえたと思ったら、ボクの足は床から離れていた。
なんだ?スゴい既視感が……。
というか、十メートル以上離れていたはずなのに、一瞬で捕まってしまった。
こ、これは、いかん!
追いかけっこは逃げきれない!
三パターン試して分かったこと。
一人にはなれない。
まともに逃げたのでは逃げきれない。
これは、どうしたものか。
テレサに持ち上げられ、足をぶらぶらさせながらちょっと考える。
まともにやって逃げきれないなら、
「よし!こんどはかくれんぼだ!」
「カクレンボ?」
「知らないの?」
「すみません。」
追いかけっこだとか、かくれんぼなんて、どこの子供でもやるもんだと思っていたけど、そうでもないのかな?
ボクがかくれんぼについて説明すると、
「了解しました。隠れたご主人様を探すのですね。」
「うん、それじゃあ、いっぱい待って。」
そう言ってボクが走り出すと、テレサがボクの方を見ながら、
「いーち、にーい。」
と数え始めたので、
「見ちゃダメー!見てたら探す意味ないでしょー!」
と、ボクがツッコむ。
「おお、なるほど。」
テレサは珍しく、ちょっと驚いた顔をすると、目を閉じて手で自分の目を覆い隠した。
よーし!今のうちに、どこかへ隠れる……んじゃなく!
今のうちに庭へと……。
「ん?」
見ると庭へと通じるドアの横で、水と杯を片付け終わったのだろう、レーネが『何しているんだろう』って感じの顔をしてこっちを見ている。
「しまった!もう一人いたのか!」
気持ちはピンチの時のヒーローの気分である。
仕方ない!大広間の神像のところまで撤退だ!
と、回れ右して大広間の奥へと方向を変更する。
「ユーグェン、ダリェヌーク。数え終わりました。」
その時、遠くでテレサの数え終わりの声が聞こえ、
「失礼致します。」
という声がほぼ同時に真後ろから聞こえて、またしてもボクはテレサに持ち上げられて足をブラブラさせていたのだった。
なんだかスゴい既視感、いや、この状況はさっきと全く同じではないか……。
もうどうにでもしてくれという感じで足をブラブラしていると、
「ご主人様はもしかして、お庭を見ていますか?」
テレサが後ろから小さな声で語りかけてきた。
「……気づいてたの?」
「三度とも庭へのドアを意識しているご様子で走っていかれましたので、何かあるのかなと。」
オウ……、そういえば、確かに庭を意識するあまり同じような行動をとってしまった。
「……外に出たい。」
だって、いくら広いって言っても何ヵ月も屋内から出ないって健康に良くないじゃない。
腕とか足とか細いし、肌だってなんだか不健康に生っ白い。
「外に出たい。」
もう一度言うと、
「わかりました。私からもお願いしてみましょう。」
と、言ってくれた。
「テレサ?どうかしたのですか?」
ボクとテレサがボソボソと内緒話をしていると怪訝そうな表情でレーネが近寄ってきた。
そして、
「外に出たいっ!」
レーネはボクの突然の大声に目を丸くして驚いた顔に変わる。
「え?えっと……?」
「外に出たい!」
もう一度はっきりと言う。
テレサの追放騒動の時に感じたのだが、ボクが強く言えば多分叶えられる。
だけど、あくまでも強く言ったときだけだ。
だから敢えてここは強めに言っておこう。
「わ、わかりました。メリア様にご相談させて頂きますので。」
「外に出たい!」
もう一押ししておく。
「わ、わかりましたので!」
「ご主人様、今日はもう時間が遅うございます。私とレーネも応援させて頂きますので、これよりメリア様にお願いして、明日にでも庭にお出になられてはいかがでしょう?」
「テレサ、あなた何を言って……。」
何言ってんのって感じで慌てているレーネと、シレっと冷静な様子のテレサ。
普段はレーネがテレサの補佐って感じだけど、案外レーネの方がお目付け役とかお姉さんっぽい立場なのかもしれない。
そんなやり取りをしつつ、
「早く、はやくっ。」
って感じで二人を急かして、そのノリでメリアを説得。
翌日、庭へと外出?する約束を取り付けることに成功したのだった。
フッフッフ、手段はともかく、終わりよければ全て良しだ。
そう!言うなれば『計画通り』だ!
翌日。
今日は庭に出る日だ。
早く外に行きたくて朝起きてからソワソワしたり、メリア達に、
「早く外に行こう!」
って急かしたりしていたが、なかなかメリアの許可が出なくてお昼前くらいになってしまった。
「それでは参りましょう。」
先に外に行って戻ってきたレーネとなにか話して、ようやっとメリアの許可が出た。
メリアの言葉を聞くとボクはテレサを連れて早速庭へと向かう。
廊下を過ぎて階段を降りて大広間を抜けて。
あ、一応大広間の神像には挨拶の柏手を打っておく。
記念日だしね。
よおし!やることはやった!
それじゃあ行こうか!
ボクはそう意気込んで大広間の出口から外に出る。
扉の向こうは外かな?と思って大広間を出たのだが、扉の向こうはまたもやホールのようになっていてまたもや自動車が走れそうな広い廊下が伸びていた。
うお!まだ続くのか?
いや、これくらいで負けるか!
と、一人盛り上がりながら廊下を走り抜けると、次の扉を開く。
と、今度こそ館の外、玄関の外だった。
「……。」
開けられた扉。
そこから館の中とは違う空気が流れ込んでくる。
静寂だった館の中と違って、遠くから鳥のさえずりが聞こえてきていた。
たった一枚の扉を開けただけだ。
今向こう側との間には一条の敷居があるだけなのだ。
だけど、その向こう側はコッチとは違う。
そんな感じがする。
たった一歩踏み出せば外に出ることができる。
たった一歩。
この一歩は庭へと出るだけのただの一歩だ。
だけど物心ついてから数か月、館から出ることなく贅沢な貴族的引きこもり生活を送ってきたボクにとっては、まだ見ぬ新しい世界へと踏み出す大きな一歩なんだ。
そう思ってジーンとしていると、
「庭に出ないんですかぁ?」
と、レーネが軽い口調で不思議そうに聞いてきた。
いや、軽いなレーネ。
余韻を楽しんでるんだからさ、気を遣おうよ、レーネ。
メリアやマルカ達だって静かに……。
おや?メリアやマルカ達はまだ大広間から出てきたところだった。
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