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23.ハンバーグ、フライドポテト、揚げ物調理
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最近、台所へ通っている。
コルネロは腕の良い料理人だったので、料理の説明をするだけでいろいろな料理を作ってくれる。
今日はハンバーグを作ってもらうつもりで来た。
「パンと肉を細かく刻んで卵とタマネギと一緒に良く混ぜて焼く?豚肉とこっちの肉を混ぜる?そんな混ぜモンの肉でホントに良いんでやんすか?」
だが、コルネロは肉の焼き方に一家言あるらしく、僕の言うことに懐疑的で、『ハァ?』とか『何でやんすか?ソレ?』とかいちいち文句を言っていた。
しかしテレサに睨まれて渋々作ってくれる。
作ってる途中でもボクが、
「もうちょっと脂身入れて。」
とか、
「肉はもう少し細かく刻んで。」
とか、
「丸めた肉は手に叩きつけて。」
とか。
ボクが指示を出すとスッゴくイヤそうな顔をしていたけど、文句は言わずに従ってくれたので良しとしよう。
そして出来上がったパティをスキレットで焼いてもらう。
焼き上がりはちょっと焦げ気味だったけど立派なハンバーグが出来上がった。
スキレットに合う丁度良い大きさの蓋がなくて、時間をかけて焼いたので仕方ないかもしれない。
出来上がったハンバーグは初めて作った割に美味しかった。
「ちょっと焦げてるけど良い感じだね。」
テレサも一口食べてコクコクとボクに頷いている。
「へ、へぇ、こういう料理も有るンでやんすねぇ。」
コルネロはちょっと悔しそうな感じの顔をしている。
「こういう料理は無いの?」
「いや、無いというか、知らな……いや、肉をもっと細かくする料理はあるでやんす!」
ふむ、肉をもっと細かく刻む料理はあるのか。
テリーヌとかムースみたいな料理だろうか?
まあそっちは今度聞いてみよう。
それじゃあ今度は、
「それじゃあ、このハンバーグにパンの粉を付けて油で……ええっと、アゲル……フライにしてほしいんだ。」
えっと、今生では油で『揚げる』って何と言えば良いのだろう?
「アゲウ?フルァイ?なんでやんすか?ソレ?あ、イヤ、どうすれば良いでやんすか?」
コルネロはまた文句を言いかけたが、ボクの後ろのテレサを見て情けない顔をしている?
サッと振り返ってみたけどテレサは別に怒っている様子はなく、いつもの澄まし顔だ。
テレサが脅したのかと思ったけど、違うのか?
「えっと、なんて言えばいいんだろう?熱い油で『煮込む』みたいな?」
煮込むと言うとアヒージョみたいな料理になりそうだな。
大丈夫かな?
「油で煮込む?油をかけて『焼く』とか『炒める』というのではないんでやんすか?」
「うん、料理が全部油に浸かるくらいの油で『煮込む』んだ。」
ボクの言葉を聞いてコルネロが『ぬう』と唸った。
「でもそれだと、結構な量の油が必要でやんすけど……やってみるでやんす!」
コルネロはそそくさと準備を始める。
大きな鍋を持って来ようとしたので、もっと小さい鍋にするように指示する。
あんな寸胴みたいな鍋で揚げ物なんて作れないだろう。
「あ、鍋を火にかける前にハンバーグにパン粉を付けといてね。」
「付けるって、どうやるんでやんすか?」
「えっと、小麦粉と卵を混ぜたスープに漬けて『パン粉』をまぶす……かける。だったかな?」
「パンクォってのはなんでやすか?」
「すごくすごく細かく切ったパン。」
「なるほど。」
コルネロは凄い勢いでパンをきざむみ、次いで『どれどれ?』って感じで卵と小麦粉を混ぜ始めたが、小麦粉と卵だけだとかなり粘度が高くて、つなぎというよりパンとか出来そうだ。
コレ、揚げると『メンチカツパン』にならないかな?
いや、ハンバーグを入れずに揚げれば『揚げパン』もしくは『ドーナツ』でもいけるかもしれない。
「その生地、丸めて揚げ……いや、煮込んでみよう。あと、水でもっとシャバシャバに薄めた生地を使ってパン粉を付けたのを作ってよ。」
とは言ったものの、コルネロも知らない料理なので、逐一、アーだこーだと指示をしてなんとか丸い球状のドーナツ……サータアンダギーモドキ?、メンチカツモドキ、メンチカツパンモドキの形が出来た。
そして今、コルネロは少し大きめの手鍋に油を入れて火に掛けている。
初めにボクが『煮込む』と言ったせいか、コルネロは冷たい油の中にメンチカツモドキを漬けようとしたので慌てて止めた。
どうやら、本当に油で『揚げる』という調理方法をコルネロは知らないらしい。
「熱くなってから入れるって、どのくらい熱くなってからでやんすか?」
「うーん、水を入れたらパチパチいうくらい?」
レシピはわかっても、調理の仕方なんてボクにはわからない。
記憶を検索してもレシピ以外はよくわからなかったのだ。
それにしても、焚き火で油を温めるのは時間がかかるなぁ。
待っている間にジャガイモのような芋を細い短冊状に切ってもらう。
どうせならオヤツ代わりのフライドポテトも作ってもらおうと思ったのだ。
まずはシンプルなフライドポテトで『揚げる』っていう料理法を体験してもらえば、他の揚げ物の成功率が上がるかもしれない。
「味付けはどうするんでやんすか?」
「イモは塩振っとけば良いんじゃない?」
フライドポテトなら味付けは塩だけだから成功率が高いかもしれないしね。
「塩だけでやんすかぁ?」
コルネロはちょっと胡散臭そうな顔をしたがテレサの顔を見て黙る。
しばらくすると、手鍋の中の油の中に数滴垂らしておいた水がバチバチ弾け始める。
さっきコルネロが
「もうそろそろでやんすかね?」
とか言いながら数滴垂らしたのだ。
その時は油が温まっておらず大丈夫だったが、油が熱くなってくるとすごいバチバチいっている。
そのため、ボクは後ろへ下がらされてしまった。
大丈夫なのかと遠くから見ていたら、コルネロが短冊切りにしたイモを油の中へ投入する。
一気に『ジュバー』といった感じに油が弾ける。
「だ、大丈夫なの?」
「わからないでやんすが、なんとかなるんじゃないでやんすか?でもコレ、どのくらい煮込むんでやんすか?」
「さあ?火が通って黄色くなったら大丈夫なんじゃない?」
「いや、もうすでに黄色いでやんすよ?」
「え?もうちょっと時間がかかるんじゃない?」
あいにく、火から離れた場所にあるテーブル、そのテーブルの反対側に座らされたボクからは鍋の中は見えない。
「ふぅむ、どれどれ?」
コルネロはオタマのような道具で油の中からイモを拾い上げると、軽くフーフーしてから口に入れる。
「ふむ?」
そして小首を傾げて、もう一本食べる。
軽く塩を振ってまた口に入れる。
そんな行動を3~4回繰り返した後、
「カーっ!ご主人様!コイツァうめぇでやんす!」
と唸った。
味見かと思ったら結構ガッツリと堪能していたらしい。
「コルネロ?……ご主人様を差し置いて?」
「イヤイヤ、ご主人様!こいつぁイイ塩梅に煮えてやすよぉ!アハ、アハハハ。」
スィッっと目を細めるテレサ、それに気づいてごまかすコルネロ。
「おそらくっ!この音が軽くなった辺りがちょうどいい塩梅なんでやんすヨォ!ハッハッハ。」
そう言って皿に盛ったフライドポテトをボクの前に置く。
揚げたてのイモからフワッと美味しそうな香りが……。
「それじゃ、いただきま。」
「少々お待ちください。」
ボクは目の前のフライドポテトに手を伸ばしたが、テレサがサッと皿を遠ざけた。
「?」
「熱いのでコチラをお使いください。」
テレサはそう言ってボクの前にフォークを差し出した。
なるほど、揚げたてのイモは熱々だからね。
と、ボクがフォークを手に取って皿に向き合うと、テレサがフライドポテトを一つ摘んでかじっていた。
……おいおい、テレサ。
もしかしてお前も食いしん坊キャラなのか?
「テレサ?……。」
「はい?……ああ、美味しいです。」
いや、良いんだけどね。
今度こそと、ボクもフォークをイモに突き刺す。
そしてフォークに刺さった2本のフライドポテトを一気に口の中に入れる。
するとサクッという歯触りの後、口の中に油に揚げられたイモの香りと塩味、ちょっと遅れてイモの旨味が広がっていく。
うん、イケる。スゴく美味しい。
「美味しい~。」
ボクはヒョイヒョイと何度もフォークでイモを口に運ぶ。
これは止まらなくなっちゃうなぁ。
「ご主人様、コッチはどうするんでやすか?」
思わず夢中になってイモを食べていたボクの前に、コルネロが揚げたてのメンチカツの皿を置いた。
「あれ?もうできたの?」
今回はボクは何も指示してないのに?
「油の中に入れて煮込んでみて、なんとなくあの音がし始めたんで出してみたらいい感じっぽいでやんすよ?」
え?音?そんなのでわかるの?
「火は、通っていますね。」
テレサがナイフで半分に切って中を確かめたが、ちゃんと出来上がっているようだ。
「どれどれ?」
テレサが一口大に切り分けてくれたメンチカツにフォークを突き刺すと、顔の前に持ってきて眺めてみる。
一応衣となるパン粉はついているが、前世の記憶と違って、パンの衣は油の中で大分落ちてしまったのかパン粉の層は薄くなっていた。
それに、前世の記憶にあるメンチカツと違ってミンチ肉の肉が締まっているような……。
一口食べてみたが思った通り、肉が締まって硬くなっている感じがするし、それに牛肉っぽさが強い。
あれ?もしかしてメンチカツって牛肉入れないのかな?
「コレもうまいでやんすね~。」
ボクはちょっと微妙かなと思ったが、コルネロには良い感触だったようだ。
「う~ん、ボクはもうちょっとタマネギが多い方が良かったかな。ちょっと硬くなっちゃってるような気がするよ。」
「へぇ?そうでやすか?こっちの方が歯応えがあって良い感じじゃないでやんすか?」
なるほど、そういう好みもあるのか。
「私は先ほどのハムボァグのようにもう少し脂身が多い方が好みですね。」
テレサは先ほどのハンバーグがよほど気に入っていたのか、そのように答える。
「へえぇ。なるほど、こういう風に細かく刻めばそれぞれの好みに合わせられるんでやんすね。面白いでやんすね~。」
コルネロはそう言ってニヤリと笑うと、
「へい、次の煮物が出来やしたぜ。」
そう言って今度はかなり焦茶色になったメンチカツパンモドキを皿に置く。
「ム?コレはまた焦げてるね。」
皿に置かれたメンチカツパンモドキはどう見ても揚げ過ぎな色をしている。
「分厚すぎやしたね。それに、パンのせいで中のハムブァアグになかなか火が通りやせんでした。」
そう言いながらコルネロがメンチカツパンモドキをナイフで二つに割る。
と、表面は焦げてしまっているが、パンの中はまだ白くて生地はモッチリとしていて火が通りきっていない様子だ。
「う~ん。コレはパン生地で包む前にメンチカツを揚げておいた方が良いみたいだね。」
「そうでやすね。それじゃあ、コイツはこうやって。」
と、言いつつコルネロは手早くメンチカツパンモドキから衣になっているパンをナイフで剥がすと、再び卵に浸けてパン粉の衣を纏わせると再び油の中へ投入した。
「もう一度煮込んじまいやしょう。」
さっき初めて作った料理のはずなのに、もう手順を覚えたらしくササッと作り上げてしまう。
「ほぇ~、作り方、もう覚えたの?」
「へい?そりゃあ、一度作れば覚えるでやんしょう?」
コルネロは笑いながら油から揚げ終わった丸い揚げパン(サータアンダギー?)を取り出して皿の上に置く。
今度も結構焦茶色っぽいけど、先ほどのメンチカツパンモドキほどの『ダメっぽさ』ではなくて、なんとか食べられそうな感じではある。
「コルネロ、ハチミツはある?」
「へい?そっちの棚にありやすが、どうなさるんで?」
コルネロはメンチカツを揚げている鍋から目をはずし、チラッとコチラを見て問いかけてくる。
「コレでございますか?」
テレサがサッと棚のツボを取ってテーブルの上に置く。
行動が速いなぁ、テレサ、もしかしてハチミツの在処を知ってたのか?
「この揚げたパンにつけて食べるんだよ。」
ボクの言葉と同時にテレサが小皿の上にハチミツをトロリと垂らす。
またまた行動が速いなぁ、テレサ、もしかしてボクの言うことを読んでいたのか?
テレサってもしかして食いしん坊なのかな?とか考えながら、ボクは丸い揚げパンにフォークを突き刺して持ち上げると、テレサが小皿に取り分けてくれたハチミツに揚げパンを浸ける。
そしてその丸い揚げパンにかじりつく。
丸い揚げパンは表面がカリッと揚がっており、かじるとサクサクしているが中は適度に水分が残っていてホッコリしながらも結構歯応えのある生地になっていた。
狙っていたカステラの様なフワッとした生地ではなかったが、油で揚げて熱した事で小麦粉の甘さも出ているし、後付けしたハチミツも良いアクセントになっていてコレはこれで美味しいかもしれない。
「うんうん、なかなか良いんじゃない?」
ボクはそう言ってテレサにも一個あげると、テレサは少しハチミツを付けて食べ、気に入ったのか何度もハチミツを付けては口に運ぶ。
「フッ、ご主人様。コイツも、イケやすぜ。」
コルネロ、コイツはボクに勧められなくても勝手に食べてドヤ顔で自画自賛している。
「うんうん、それじゃあボクからコルネロに『作って』のお願いだよ。この揚げパンを使ったお菓子を作ってよ。例えば砂糖を溶かしてかけたり、生地にハチミツを練り込んだりして……。」
そこまで言ってある事を思いついた。
砂糖を溶かす?それってつまり……。
コルネロは腕の良い料理人だったので、料理の説明をするだけでいろいろな料理を作ってくれる。
今日はハンバーグを作ってもらうつもりで来た。
「パンと肉を細かく刻んで卵とタマネギと一緒に良く混ぜて焼く?豚肉とこっちの肉を混ぜる?そんな混ぜモンの肉でホントに良いんでやんすか?」
だが、コルネロは肉の焼き方に一家言あるらしく、僕の言うことに懐疑的で、『ハァ?』とか『何でやんすか?ソレ?』とかいちいち文句を言っていた。
しかしテレサに睨まれて渋々作ってくれる。
作ってる途中でもボクが、
「もうちょっと脂身入れて。」
とか、
「肉はもう少し細かく刻んで。」
とか、
「丸めた肉は手に叩きつけて。」
とか。
ボクが指示を出すとスッゴくイヤそうな顔をしていたけど、文句は言わずに従ってくれたので良しとしよう。
そして出来上がったパティをスキレットで焼いてもらう。
焼き上がりはちょっと焦げ気味だったけど立派なハンバーグが出来上がった。
スキレットに合う丁度良い大きさの蓋がなくて、時間をかけて焼いたので仕方ないかもしれない。
出来上がったハンバーグは初めて作った割に美味しかった。
「ちょっと焦げてるけど良い感じだね。」
テレサも一口食べてコクコクとボクに頷いている。
「へ、へぇ、こういう料理も有るンでやんすねぇ。」
コルネロはちょっと悔しそうな感じの顔をしている。
「こういう料理は無いの?」
「いや、無いというか、知らな……いや、肉をもっと細かくする料理はあるでやんす!」
ふむ、肉をもっと細かく刻む料理はあるのか。
テリーヌとかムースみたいな料理だろうか?
まあそっちは今度聞いてみよう。
それじゃあ今度は、
「それじゃあ、このハンバーグにパンの粉を付けて油で……ええっと、アゲル……フライにしてほしいんだ。」
えっと、今生では油で『揚げる』って何と言えば良いのだろう?
「アゲウ?フルァイ?なんでやんすか?ソレ?あ、イヤ、どうすれば良いでやんすか?」
コルネロはまた文句を言いかけたが、ボクの後ろのテレサを見て情けない顔をしている?
サッと振り返ってみたけどテレサは別に怒っている様子はなく、いつもの澄まし顔だ。
テレサが脅したのかと思ったけど、違うのか?
「えっと、なんて言えばいいんだろう?熱い油で『煮込む』みたいな?」
煮込むと言うとアヒージョみたいな料理になりそうだな。
大丈夫かな?
「油で煮込む?油をかけて『焼く』とか『炒める』というのではないんでやんすか?」
「うん、料理が全部油に浸かるくらいの油で『煮込む』んだ。」
ボクの言葉を聞いてコルネロが『ぬう』と唸った。
「でもそれだと、結構な量の油が必要でやんすけど……やってみるでやんす!」
コルネロはそそくさと準備を始める。
大きな鍋を持って来ようとしたので、もっと小さい鍋にするように指示する。
あんな寸胴みたいな鍋で揚げ物なんて作れないだろう。
「あ、鍋を火にかける前にハンバーグにパン粉を付けといてね。」
「付けるって、どうやるんでやんすか?」
「えっと、小麦粉と卵を混ぜたスープに漬けて『パン粉』をまぶす……かける。だったかな?」
「パンクォってのはなんでやすか?」
「すごくすごく細かく切ったパン。」
「なるほど。」
コルネロは凄い勢いでパンをきざむみ、次いで『どれどれ?』って感じで卵と小麦粉を混ぜ始めたが、小麦粉と卵だけだとかなり粘度が高くて、つなぎというよりパンとか出来そうだ。
コレ、揚げると『メンチカツパン』にならないかな?
いや、ハンバーグを入れずに揚げれば『揚げパン』もしくは『ドーナツ』でもいけるかもしれない。
「その生地、丸めて揚げ……いや、煮込んでみよう。あと、水でもっとシャバシャバに薄めた生地を使ってパン粉を付けたのを作ってよ。」
とは言ったものの、コルネロも知らない料理なので、逐一、アーだこーだと指示をしてなんとか丸い球状のドーナツ……サータアンダギーモドキ?、メンチカツモドキ、メンチカツパンモドキの形が出来た。
そして今、コルネロは少し大きめの手鍋に油を入れて火に掛けている。
初めにボクが『煮込む』と言ったせいか、コルネロは冷たい油の中にメンチカツモドキを漬けようとしたので慌てて止めた。
どうやら、本当に油で『揚げる』という調理方法をコルネロは知らないらしい。
「熱くなってから入れるって、どのくらい熱くなってからでやんすか?」
「うーん、水を入れたらパチパチいうくらい?」
レシピはわかっても、調理の仕方なんてボクにはわからない。
記憶を検索してもレシピ以外はよくわからなかったのだ。
それにしても、焚き火で油を温めるのは時間がかかるなぁ。
待っている間にジャガイモのような芋を細い短冊状に切ってもらう。
どうせならオヤツ代わりのフライドポテトも作ってもらおうと思ったのだ。
まずはシンプルなフライドポテトで『揚げる』っていう料理法を体験してもらえば、他の揚げ物の成功率が上がるかもしれない。
「味付けはどうするんでやんすか?」
「イモは塩振っとけば良いんじゃない?」
フライドポテトなら味付けは塩だけだから成功率が高いかもしれないしね。
「塩だけでやんすかぁ?」
コルネロはちょっと胡散臭そうな顔をしたがテレサの顔を見て黙る。
しばらくすると、手鍋の中の油の中に数滴垂らしておいた水がバチバチ弾け始める。
さっきコルネロが
「もうそろそろでやんすかね?」
とか言いながら数滴垂らしたのだ。
その時は油が温まっておらず大丈夫だったが、油が熱くなってくるとすごいバチバチいっている。
そのため、ボクは後ろへ下がらされてしまった。
大丈夫なのかと遠くから見ていたら、コルネロが短冊切りにしたイモを油の中へ投入する。
一気に『ジュバー』といった感じに油が弾ける。
「だ、大丈夫なの?」
「わからないでやんすが、なんとかなるんじゃないでやんすか?でもコレ、どのくらい煮込むんでやんすか?」
「さあ?火が通って黄色くなったら大丈夫なんじゃない?」
「いや、もうすでに黄色いでやんすよ?」
「え?もうちょっと時間がかかるんじゃない?」
あいにく、火から離れた場所にあるテーブル、そのテーブルの反対側に座らされたボクからは鍋の中は見えない。
「ふぅむ、どれどれ?」
コルネロはオタマのような道具で油の中からイモを拾い上げると、軽くフーフーしてから口に入れる。
「ふむ?」
そして小首を傾げて、もう一本食べる。
軽く塩を振ってまた口に入れる。
そんな行動を3~4回繰り返した後、
「カーっ!ご主人様!コイツァうめぇでやんす!」
と唸った。
味見かと思ったら結構ガッツリと堪能していたらしい。
「コルネロ?……ご主人様を差し置いて?」
「イヤイヤ、ご主人様!こいつぁイイ塩梅に煮えてやすよぉ!アハ、アハハハ。」
スィッっと目を細めるテレサ、それに気づいてごまかすコルネロ。
「おそらくっ!この音が軽くなった辺りがちょうどいい塩梅なんでやんすヨォ!ハッハッハ。」
そう言って皿に盛ったフライドポテトをボクの前に置く。
揚げたてのイモからフワッと美味しそうな香りが……。
「それじゃ、いただきま。」
「少々お待ちください。」
ボクは目の前のフライドポテトに手を伸ばしたが、テレサがサッと皿を遠ざけた。
「?」
「熱いのでコチラをお使いください。」
テレサはそう言ってボクの前にフォークを差し出した。
なるほど、揚げたてのイモは熱々だからね。
と、ボクがフォークを手に取って皿に向き合うと、テレサがフライドポテトを一つ摘んでかじっていた。
……おいおい、テレサ。
もしかしてお前も食いしん坊キャラなのか?
「テレサ?……。」
「はい?……ああ、美味しいです。」
いや、良いんだけどね。
今度こそと、ボクもフォークをイモに突き刺す。
そしてフォークに刺さった2本のフライドポテトを一気に口の中に入れる。
するとサクッという歯触りの後、口の中に油に揚げられたイモの香りと塩味、ちょっと遅れてイモの旨味が広がっていく。
うん、イケる。スゴく美味しい。
「美味しい~。」
ボクはヒョイヒョイと何度もフォークでイモを口に運ぶ。
これは止まらなくなっちゃうなぁ。
「ご主人様、コッチはどうするんでやすか?」
思わず夢中になってイモを食べていたボクの前に、コルネロが揚げたてのメンチカツの皿を置いた。
「あれ?もうできたの?」
今回はボクは何も指示してないのに?
「油の中に入れて煮込んでみて、なんとなくあの音がし始めたんで出してみたらいい感じっぽいでやんすよ?」
え?音?そんなのでわかるの?
「火は、通っていますね。」
テレサがナイフで半分に切って中を確かめたが、ちゃんと出来上がっているようだ。
「どれどれ?」
テレサが一口大に切り分けてくれたメンチカツにフォークを突き刺すと、顔の前に持ってきて眺めてみる。
一応衣となるパン粉はついているが、前世の記憶と違って、パンの衣は油の中で大分落ちてしまったのかパン粉の層は薄くなっていた。
それに、前世の記憶にあるメンチカツと違ってミンチ肉の肉が締まっているような……。
一口食べてみたが思った通り、肉が締まって硬くなっている感じがするし、それに牛肉っぽさが強い。
あれ?もしかしてメンチカツって牛肉入れないのかな?
「コレもうまいでやんすね~。」
ボクはちょっと微妙かなと思ったが、コルネロには良い感触だったようだ。
「う~ん、ボクはもうちょっとタマネギが多い方が良かったかな。ちょっと硬くなっちゃってるような気がするよ。」
「へぇ?そうでやすか?こっちの方が歯応えがあって良い感じじゃないでやんすか?」
なるほど、そういう好みもあるのか。
「私は先ほどのハムボァグのようにもう少し脂身が多い方が好みですね。」
テレサは先ほどのハンバーグがよほど気に入っていたのか、そのように答える。
「へえぇ。なるほど、こういう風に細かく刻めばそれぞれの好みに合わせられるんでやんすね。面白いでやんすね~。」
コルネロはそう言ってニヤリと笑うと、
「へい、次の煮物が出来やしたぜ。」
そう言って今度はかなり焦茶色になったメンチカツパンモドキを皿に置く。
「ム?コレはまた焦げてるね。」
皿に置かれたメンチカツパンモドキはどう見ても揚げ過ぎな色をしている。
「分厚すぎやしたね。それに、パンのせいで中のハムブァアグになかなか火が通りやせんでした。」
そう言いながらコルネロがメンチカツパンモドキをナイフで二つに割る。
と、表面は焦げてしまっているが、パンの中はまだ白くて生地はモッチリとしていて火が通りきっていない様子だ。
「う~ん。コレはパン生地で包む前にメンチカツを揚げておいた方が良いみたいだね。」
「そうでやすね。それじゃあ、コイツはこうやって。」
と、言いつつコルネロは手早くメンチカツパンモドキから衣になっているパンをナイフで剥がすと、再び卵に浸けてパン粉の衣を纏わせると再び油の中へ投入した。
「もう一度煮込んじまいやしょう。」
さっき初めて作った料理のはずなのに、もう手順を覚えたらしくササッと作り上げてしまう。
「ほぇ~、作り方、もう覚えたの?」
「へい?そりゃあ、一度作れば覚えるでやんしょう?」
コルネロは笑いながら油から揚げ終わった丸い揚げパン(サータアンダギー?)を取り出して皿の上に置く。
今度も結構焦茶色っぽいけど、先ほどのメンチカツパンモドキほどの『ダメっぽさ』ではなくて、なんとか食べられそうな感じではある。
「コルネロ、ハチミツはある?」
「へい?そっちの棚にありやすが、どうなさるんで?」
コルネロはメンチカツを揚げている鍋から目をはずし、チラッとコチラを見て問いかけてくる。
「コレでございますか?」
テレサがサッと棚のツボを取ってテーブルの上に置く。
行動が速いなぁ、テレサ、もしかしてハチミツの在処を知ってたのか?
「この揚げたパンにつけて食べるんだよ。」
ボクの言葉と同時にテレサが小皿の上にハチミツをトロリと垂らす。
またまた行動が速いなぁ、テレサ、もしかしてボクの言うことを読んでいたのか?
テレサってもしかして食いしん坊なのかな?とか考えながら、ボクは丸い揚げパンにフォークを突き刺して持ち上げると、テレサが小皿に取り分けてくれたハチミツに揚げパンを浸ける。
そしてその丸い揚げパンにかじりつく。
丸い揚げパンは表面がカリッと揚がっており、かじるとサクサクしているが中は適度に水分が残っていてホッコリしながらも結構歯応えのある生地になっていた。
狙っていたカステラの様なフワッとした生地ではなかったが、油で揚げて熱した事で小麦粉の甘さも出ているし、後付けしたハチミツも良いアクセントになっていてコレはこれで美味しいかもしれない。
「うんうん、なかなか良いんじゃない?」
ボクはそう言ってテレサにも一個あげると、テレサは少しハチミツを付けて食べ、気に入ったのか何度もハチミツを付けては口に運ぶ。
「フッ、ご主人様。コイツも、イケやすぜ。」
コルネロ、コイツはボクに勧められなくても勝手に食べてドヤ顔で自画自賛している。
「うんうん、それじゃあボクからコルネロに『作って』のお願いだよ。この揚げパンを使ったお菓子を作ってよ。例えば砂糖を溶かしてかけたり、生地にハチミツを練り込んだりして……。」
そこまで言ってある事を思いついた。
砂糖を溶かす?それってつまり……。
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その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
勇者な彼女がトイレから出てきません。
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彼女が家に来てトイレに入ったかと思ったら異世界で勇者をやってました。
彼女は異世界の勇者で、僕は彼女を召喚した神様で。
彼女は勇者であることに誇りを持っていました。強い心を持っていました。
異世界の危機にも、先頭に立って戦おうとしてくれました。
だけど、だけど……。とうとう、彼女は言いました。
泣きそうな声で、珠美さんは言いました。
「異世界の危機なんて……知らんちん」
俺この戦争が終わったら結婚するんだけど、思ってたより戦争が終わってくれない
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ガーランド帝国最強の戦士ギルフォードは、故郷で待つ幼馴染と結婚するために、軍から除隊することを決めた。
しかし、これまで国の最前線で戦い続け、英雄と称されたギルフォードが除隊するとなれば、他国が一斉に攻め込んでくるかもしれない。一騎当千の武力を持つギルフォードを、田舎で静かに暮らさせるなど認めるわけにはいかない。
そこで、軍の上層部は考えた。ギルフォードに最後の戦争に参加してもらう。そしてその最後の戦争で、他国を全て併呑してしまえ、と。
これは大陸史に残る、ガーランド帝国による大陸の統一を行った『十年戦役』において、歴史に名を刻んだ最強の英雄、ギルフォードの結婚までの苦難を描いた物語である。
俺この戦争が終わったら結婚するんだ。
だから早く戦争終わってくんねぇかな!?
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