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20.探検
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探検に出ることにした。
といっても、前回一人で『脱走』したことでメリアやメイドたちにすごく心配されたので、今回の探検には隊員としてテレサを連れていくことにした。
というか、メリアに強く要望された。
部屋の外に出て探検したいと言ったら、始めはメリアが付いて来ると言っていたが、明らかに体育会系ではない彼女ではボクが逃げた時、追いかけて捕まえるということができないと思ったのだろう。
結局テレサがお目付け役についてくることになった。
おそらく、本質はボクが逃げた時の捕獲要員としてであろう。
いや、別にもう逃げるつもりはないんだけど、以前部屋から脱走した事で警戒されているらしい。
当日は朝起きてすぐに出かけようとしたが、なんだかんだとメリアに絆されて午後からになった。
昼食を終えると早速リビングから飛び出した。
前回の様に部屋を出て広い廊下を左方向に向かって進むと大広間に降りる階段があり、その先に大広間を見下ろせるテラスのような場所がある。
前回見たときは高さから3階くらいだと思ったが、実際には2階だった。
ただし1階分の高さがすごく高い。
もっとも、2階の天井についてもすごく高いのだが。
上から見下ろすと幾何学模様に装飾され、ピカピカに磨き上げられた大広間の床が見える。
大理石かなとも思ったが、幾何学模様の装飾になっているからタイルなのかもしれない。
なんにせよ、50メートル、30メートルくらいの部屋の床がすべて美しい幾何学模様で装飾されているのだ。
美しいとか考えるより先に『いくらかかってるんだろう?』と、費用のことが頭をよぎるあたりボクは貧乏性なんだろうな。
テレサに、
「ここは何をするところなの?」
と聞くと、
「人が大勢集まるときに使います。」
とのこと。
自宅に体育館クラスの集会用のホールがあるって……どんな金持ちだよ。
どうやら両親が貴族だということは間違いなさそうだ。
だけど、もちろん今は誰もいない。
一階に降りて声を出すと、だだっ広い空間にボクの声が木霊する。
「うあー!」
大きな声を出すと反響して面白い。
これは音響も考慮して建築されているのだろうか?
そんなことを考えながら広間の奥を見ると一段高くなって豪奢な椅子が置かれている場所のそのまた奥に、巨大な人型の像が鎮座していた。
金色に近い光沢の鎧を纏った見上げるほど巨大な鎧の騎士像である。
「おおぉ~ぅ。」
ほぇ~と見上げていると、
「レグノー、ラグナ、レン、ユグレスです。」
テレサの誇らしげな声が響く。
知らない単語が並んでる。
彼女の信仰する神様かな?
左手で盾を支え、右手に槍のような棒を持ち、誇らしげに胸を逸らして立っている様子から見て、この神像は戦神とかなのだろう。
上部の頭の方は暗くて見えない。
カッコいいデザインだけれどボクは宗教に興味は無いので、どうでも良かった。
一応、手を叩いて手を合わせ、挨拶の代わりに拝んでおく。
そんなことより、探検だ。
「タッタラタァーッタ、タッタラタァーッタ、タァッタラ~。」
歌を歌いながらゴキゲンな感じに広間を抜ける。
庭に通じていると思われる掃き出しの戸を開けようとしたが、開かない。
振り返ってテレサを見ると、
「今日は天気が悪いので、外に出るのはやめておきましょう。」
う~ん、外には出れないらしい。
それじゃあ仕方ない。
「タッタラタァーッタ、タッタラタァーッタ、タァッタラ~。」
庭方向はあきらめて大広間の正面ドアと思われるドアのハンドルに手をかける。
開かない。
振り返ってテレサを見る。
「そちらは玄関に通じております。本日、来客の予定がございませんので戸締りをいたしております。」
こっちもダメらしい。
「タッタラタァーッタ、タッタラタァーッタ、タァッタラ~。」
仕方ないので、もう一方の大広間を横切ったところにあるドアのハンドルに手をかけてゆっくり押してみる。
「おっ!?」
今度は、ドアが動いたのでドアを開けることができそうだ。
こっちはボクの部屋がある建物とは大広間を挟んで反対側になる。
というか、そこで思い至ったのだが、ボクの部屋があるのは2階だ。
だからボクの部屋の下の階、1階にも部屋があるはずだ。
何も考えずに自分の部屋の階下をすっ飛ばしてこっちに来てしまった。
そのことに気付いて振り返る。
大広間を挟んで反対側、ボクの部屋の1階にあたる壁にもドアがあった。
急いでそちらに戻る。
その後をテレサは何も言わずに静かについてくる。
先ほどのドアとは反対側のドアにたどり着くと、金色のハンドルを持ってドアを開ける。
こちらのドアにもカギはかかっておらず、押すとドアは音も無く開いた。
「タッタラ~。」
少し押し開いたドアから覗いて向こう側の様子を確認する。
誰もいない。
当たり前かもしれないが、ドアの向こうの豪華な装飾が施された廊下には誰もおらず、薄暗い廊下が伸びているだけだった。
廊下には両側にドアがあり、突き当りの大きなガラスレンガの壁から日の光が指している。
それにしても、この建物は開く窓が無くてところどころにこういった分厚いガラスのレンガのようなもので組み上げた壁がある。
その分厚いガラスを通して明かり取りをしているようだ。
分厚くてちょっと角が丸まったガラスのレンガを通して外を見ても、見える景色は歪んでいて外の様子はわからない。
もっと薄いガラスで作った窓を多く設置すれば風景も楽しめて明るくなるだろうに、不思議な建築様式だなぁ。
ボクは廊下に出てすぐ右のドアを開けてみる。
この部屋にも南側と思われる壁にガラスのレンガで作られた明り取りの窓のようなものがあった。
中はソファのような長椅子や、いくつかのスツールのような椅子、それぞれに付随するように丸テーブルが置かれた応接室のような作りの部屋だった。
どの調度品も豪華だが、誰もいない部屋の中はどこか殺風景の様に思えた。
ついで向かい側、北側のドアを開けてみる。
こちら側のドアのハンドルは装飾の少ないシンプルなものだ。
そしてこちらの部屋の中は向かいの部屋とは一転して質素な作りの部屋で、窓がないため薄暗い部屋だった。
「そちらは使用人の部屋ですので、ご主人様は入らない方が良いと思います。」
テレサが相変わらず無表情な顔で進言してくる。
なるほど、右側の南側の明るい部屋は貴族の主人たちがくつろぐ部屋で、北側の薄暗い部屋は従者や召使が待機する部屋なのか。
「ここは全部こういう部屋なの?」
この廊下には、同じようなドアが他に三対ある。
「そうですね。少し違いますが、同じような作りをしています。」
ふむ、どうやらこの棟は大広間でパーティなどを催しているときの休憩室とか準備室のようなものらしい。
正直、ガッカリである。
もっと騎士鎧の置物であるとか剣とか武具であるとか、男の子心をくすぐるようなものがあるかと思って楽しみにしていたのに。
「ちぇ~。」
期待外れだったので、少し不貞腐れながら一応廊下の奥まで来てみた。
廊下の突き当りはブロックのようなキューブ状のガラスの壁で、両脇方向は両扉のドアになっている。
右側の扉の向こうはやっぱり応接室のような家具が並んでいるだけであった。
つまらない。
ここまで来たのに、何も変わったものが無い。
ちょっと不貞腐れ気味になりながら左側のドアを開ける。
そこはこれまでの部屋と同じく使用人の部屋のようだった。
ただ、さっきまでの使用人の部屋と違うのは、奥にドアがありそのドアが開いていてそこから知らない男の人がひょっこりと顔を出していたということだった。
癖のある黒い髪に眼はちょっと垂れていて愛嬌のある顔だった。
「「あ。」」
男の人とボクの目が合って、声がハモる。
と、男の人は慌ててドアを閉める。
あれ?逃げた?
と、思ったら、テレサが流れるような素早い動きでドアの前に移動してドアを開け、
「コルネロ。無礼ですよ。ご挨拶をしなさい。」
怒鳴っているわけじゃないけど、明らかに叱責している声で、ドアの向こうに引っ込んだ男の人を叱りつける。
ああ、あの男の人は逃げたわけじゃなくて、いや逃げたことには変わりないんだろうけど、いきなり偉い人に出会ってしまったんで咄嗟に引っ込んじゃったんだね。
「すみません。」
と、さっきの男の人がテレサに謝っている。
そりゃ、ボクだってテレサにさっきの声色で何か言われたらコワイ。
でもそんなことより謝っている男の人の言葉遣いが気になった。
なんだかメリアやテレサが謝る言葉を使う時よりも発音が崩れていて品がないような気がする。
さしずめメリアやテレサが丁寧な『すみません』って感じだとすると、この男の人の『すみません』は『すいやせん』って感じでちょっと崩れた感じがするのだ。
なるほど、この世界でもこういう風にしゃべり方の特徴で育ちの良さ悪さが出たりするんだね。
そういう意味ではこの男の人はあまり育ちが良くない方なのだろう。
などと考えていると、男性が部屋に入ってきてボクの前に両ひざをついて跪くと両手を胸の前でクロスさせ、頭を床に押し付けるようにして土下座し、
「はじめやして、コークスで働いておりやす。コルネロです。」
と言って、後はよくわからない言葉とか文法で話し始めた。
わ、わからん。
以前、ローラントさんが来た時もそうだったけど、どうも、この世界の男性はよくわからない言葉で話しかけてくる。
そういえば、ローラントさんも初めの名乗りはわかったけど、そのあと続いた言葉がさっぱりわからなかった。
一体、どういうことだろう?
いや意味はなんとなくわかったから、やっぱり難しい言葉遣いということなんだろう。
なんてことを考えながら目の前の男性を見ると、テレサが怖いのか頭を下げたまま畏まっている。
そんな様子を見ると、言っていることが分からないってことだけで、『何言ってんの?』って言うのはちょっと可哀そうな気がするので、分かったような顔をする。
とりあえず、この男性が『コルネロ』という名前なのはわかった。
下男とかの人だろうか?
「許す。」
そう男の人、コルネロに声をかける。
すると広い肩幅を縮ませながら土下座しているコルネロが上目遣いで恐る恐るテレサの顔を見る。
うん?……。
ボクも思わずテレサの顔を見る。
ああ、なるほど。
たぶんこの男性にとってはボクよりテレサの方が怖いんだろうな。
うなずいたテレサを見て、コルネロはホッとした顔をした。
「でも、ちょっと手伝ってほしいんだ。」
続けたボクの言葉に男だけではなく、テレサも不思議そうな顔をする。
ボクは不思議そうな顔をするコルネロではなく、その背後、開けっ放しになったドアの向こうの部屋の中に見えたモノに目が向いていた。
といっても、前回一人で『脱走』したことでメリアやメイドたちにすごく心配されたので、今回の探検には隊員としてテレサを連れていくことにした。
というか、メリアに強く要望された。
部屋の外に出て探検したいと言ったら、始めはメリアが付いて来ると言っていたが、明らかに体育会系ではない彼女ではボクが逃げた時、追いかけて捕まえるということができないと思ったのだろう。
結局テレサがお目付け役についてくることになった。
おそらく、本質はボクが逃げた時の捕獲要員としてであろう。
いや、別にもう逃げるつもりはないんだけど、以前部屋から脱走した事で警戒されているらしい。
当日は朝起きてすぐに出かけようとしたが、なんだかんだとメリアに絆されて午後からになった。
昼食を終えると早速リビングから飛び出した。
前回の様に部屋を出て広い廊下を左方向に向かって進むと大広間に降りる階段があり、その先に大広間を見下ろせるテラスのような場所がある。
前回見たときは高さから3階くらいだと思ったが、実際には2階だった。
ただし1階分の高さがすごく高い。
もっとも、2階の天井についてもすごく高いのだが。
上から見下ろすと幾何学模様に装飾され、ピカピカに磨き上げられた大広間の床が見える。
大理石かなとも思ったが、幾何学模様の装飾になっているからタイルなのかもしれない。
なんにせよ、50メートル、30メートルくらいの部屋の床がすべて美しい幾何学模様で装飾されているのだ。
美しいとか考えるより先に『いくらかかってるんだろう?』と、費用のことが頭をよぎるあたりボクは貧乏性なんだろうな。
テレサに、
「ここは何をするところなの?」
と聞くと、
「人が大勢集まるときに使います。」
とのこと。
自宅に体育館クラスの集会用のホールがあるって……どんな金持ちだよ。
どうやら両親が貴族だということは間違いなさそうだ。
だけど、もちろん今は誰もいない。
一階に降りて声を出すと、だだっ広い空間にボクの声が木霊する。
「うあー!」
大きな声を出すと反響して面白い。
これは音響も考慮して建築されているのだろうか?
そんなことを考えながら広間の奥を見ると一段高くなって豪奢な椅子が置かれている場所のそのまた奥に、巨大な人型の像が鎮座していた。
金色に近い光沢の鎧を纏った見上げるほど巨大な鎧の騎士像である。
「おおぉ~ぅ。」
ほぇ~と見上げていると、
「レグノー、ラグナ、レン、ユグレスです。」
テレサの誇らしげな声が響く。
知らない単語が並んでる。
彼女の信仰する神様かな?
左手で盾を支え、右手に槍のような棒を持ち、誇らしげに胸を逸らして立っている様子から見て、この神像は戦神とかなのだろう。
上部の頭の方は暗くて見えない。
カッコいいデザインだけれどボクは宗教に興味は無いので、どうでも良かった。
一応、手を叩いて手を合わせ、挨拶の代わりに拝んでおく。
そんなことより、探検だ。
「タッタラタァーッタ、タッタラタァーッタ、タァッタラ~。」
歌を歌いながらゴキゲンな感じに広間を抜ける。
庭に通じていると思われる掃き出しの戸を開けようとしたが、開かない。
振り返ってテレサを見ると、
「今日は天気が悪いので、外に出るのはやめておきましょう。」
う~ん、外には出れないらしい。
それじゃあ仕方ない。
「タッタラタァーッタ、タッタラタァーッタ、タァッタラ~。」
庭方向はあきらめて大広間の正面ドアと思われるドアのハンドルに手をかける。
開かない。
振り返ってテレサを見る。
「そちらは玄関に通じております。本日、来客の予定がございませんので戸締りをいたしております。」
こっちもダメらしい。
「タッタラタァーッタ、タッタラタァーッタ、タァッタラ~。」
仕方ないので、もう一方の大広間を横切ったところにあるドアのハンドルに手をかけてゆっくり押してみる。
「おっ!?」
今度は、ドアが動いたのでドアを開けることができそうだ。
こっちはボクの部屋がある建物とは大広間を挟んで反対側になる。
というか、そこで思い至ったのだが、ボクの部屋があるのは2階だ。
だからボクの部屋の下の階、1階にも部屋があるはずだ。
何も考えずに自分の部屋の階下をすっ飛ばしてこっちに来てしまった。
そのことに気付いて振り返る。
大広間を挟んで反対側、ボクの部屋の1階にあたる壁にもドアがあった。
急いでそちらに戻る。
その後をテレサは何も言わずに静かについてくる。
先ほどのドアとは反対側のドアにたどり着くと、金色のハンドルを持ってドアを開ける。
こちらのドアにもカギはかかっておらず、押すとドアは音も無く開いた。
「タッタラ~。」
少し押し開いたドアから覗いて向こう側の様子を確認する。
誰もいない。
当たり前かもしれないが、ドアの向こうの豪華な装飾が施された廊下には誰もおらず、薄暗い廊下が伸びているだけだった。
廊下には両側にドアがあり、突き当りの大きなガラスレンガの壁から日の光が指している。
それにしても、この建物は開く窓が無くてところどころにこういった分厚いガラスのレンガのようなもので組み上げた壁がある。
その分厚いガラスを通して明かり取りをしているようだ。
分厚くてちょっと角が丸まったガラスのレンガを通して外を見ても、見える景色は歪んでいて外の様子はわからない。
もっと薄いガラスで作った窓を多く設置すれば風景も楽しめて明るくなるだろうに、不思議な建築様式だなぁ。
ボクは廊下に出てすぐ右のドアを開けてみる。
この部屋にも南側と思われる壁にガラスのレンガで作られた明り取りの窓のようなものがあった。
中はソファのような長椅子や、いくつかのスツールのような椅子、それぞれに付随するように丸テーブルが置かれた応接室のような作りの部屋だった。
どの調度品も豪華だが、誰もいない部屋の中はどこか殺風景の様に思えた。
ついで向かい側、北側のドアを開けてみる。
こちら側のドアのハンドルは装飾の少ないシンプルなものだ。
そしてこちらの部屋の中は向かいの部屋とは一転して質素な作りの部屋で、窓がないため薄暗い部屋だった。
「そちらは使用人の部屋ですので、ご主人様は入らない方が良いと思います。」
テレサが相変わらず無表情な顔で進言してくる。
なるほど、右側の南側の明るい部屋は貴族の主人たちがくつろぐ部屋で、北側の薄暗い部屋は従者や召使が待機する部屋なのか。
「ここは全部こういう部屋なの?」
この廊下には、同じようなドアが他に三対ある。
「そうですね。少し違いますが、同じような作りをしています。」
ふむ、どうやらこの棟は大広間でパーティなどを催しているときの休憩室とか準備室のようなものらしい。
正直、ガッカリである。
もっと騎士鎧の置物であるとか剣とか武具であるとか、男の子心をくすぐるようなものがあるかと思って楽しみにしていたのに。
「ちぇ~。」
期待外れだったので、少し不貞腐れながら一応廊下の奥まで来てみた。
廊下の突き当りはブロックのようなキューブ状のガラスの壁で、両脇方向は両扉のドアになっている。
右側の扉の向こうはやっぱり応接室のような家具が並んでいるだけであった。
つまらない。
ここまで来たのに、何も変わったものが無い。
ちょっと不貞腐れ気味になりながら左側のドアを開ける。
そこはこれまでの部屋と同じく使用人の部屋のようだった。
ただ、さっきまでの使用人の部屋と違うのは、奥にドアがありそのドアが開いていてそこから知らない男の人がひょっこりと顔を出していたということだった。
癖のある黒い髪に眼はちょっと垂れていて愛嬌のある顔だった。
「「あ。」」
男の人とボクの目が合って、声がハモる。
と、男の人は慌ててドアを閉める。
あれ?逃げた?
と、思ったら、テレサが流れるような素早い動きでドアの前に移動してドアを開け、
「コルネロ。無礼ですよ。ご挨拶をしなさい。」
怒鳴っているわけじゃないけど、明らかに叱責している声で、ドアの向こうに引っ込んだ男の人を叱りつける。
ああ、あの男の人は逃げたわけじゃなくて、いや逃げたことには変わりないんだろうけど、いきなり偉い人に出会ってしまったんで咄嗟に引っ込んじゃったんだね。
「すみません。」
と、さっきの男の人がテレサに謝っている。
そりゃ、ボクだってテレサにさっきの声色で何か言われたらコワイ。
でもそんなことより謝っている男の人の言葉遣いが気になった。
なんだかメリアやテレサが謝る言葉を使う時よりも発音が崩れていて品がないような気がする。
さしずめメリアやテレサが丁寧な『すみません』って感じだとすると、この男の人の『すみません』は『すいやせん』って感じでちょっと崩れた感じがするのだ。
なるほど、この世界でもこういう風にしゃべり方の特徴で育ちの良さ悪さが出たりするんだね。
そういう意味ではこの男の人はあまり育ちが良くない方なのだろう。
などと考えていると、男性が部屋に入ってきてボクの前に両ひざをついて跪くと両手を胸の前でクロスさせ、頭を床に押し付けるようにして土下座し、
「はじめやして、コークスで働いておりやす。コルネロです。」
と言って、後はよくわからない言葉とか文法で話し始めた。
わ、わからん。
以前、ローラントさんが来た時もそうだったけど、どうも、この世界の男性はよくわからない言葉で話しかけてくる。
そういえば、ローラントさんも初めの名乗りはわかったけど、そのあと続いた言葉がさっぱりわからなかった。
一体、どういうことだろう?
いや意味はなんとなくわかったから、やっぱり難しい言葉遣いということなんだろう。
なんてことを考えながら目の前の男性を見ると、テレサが怖いのか頭を下げたまま畏まっている。
そんな様子を見ると、言っていることが分からないってことだけで、『何言ってんの?』って言うのはちょっと可哀そうな気がするので、分かったような顔をする。
とりあえず、この男性が『コルネロ』という名前なのはわかった。
下男とかの人だろうか?
「許す。」
そう男の人、コルネロに声をかける。
すると広い肩幅を縮ませながら土下座しているコルネロが上目遣いで恐る恐るテレサの顔を見る。
うん?……。
ボクも思わずテレサの顔を見る。
ああ、なるほど。
たぶんこの男性にとってはボクよりテレサの方が怖いんだろうな。
うなずいたテレサを見て、コルネロはホッとした顔をした。
「でも、ちょっと手伝ってほしいんだ。」
続けたボクの言葉に男だけではなく、テレサも不思議そうな顔をする。
ボクは不思議そうな顔をするコルネロではなく、その背後、開けっ放しになったドアの向こうの部屋の中に見えたモノに目が向いていた。
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