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19.昼食会

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ボクの一言で始まりはコケちゃった雰囲気だったけれど、料理が運ばれてきたら和やかな雰囲気になった。

今日の会食のメンバーはエリス嬢がゲストで、ボクがホストだからボクのおすすめ料理が出される。

貴族の食事だから、前菜は……と言いたいところだけれど、この世界では前菜とか主菜とかの区別がない。

普段ボクが食べている時はメリアが準備してくれるため、野菜と肉を交互に切り分けてくれているが、普通の宴の場合は一気にドカッと盛ってそれを取り分けて食べるのが一般的らしい。

ということで目の前、テーブル上の皿には大きな肉のブロックがドーンと置かれている。
羊の頬肉とのことだが、形からはどの部位なのかわからない。

メリアが羊の頬肉を切ってボクの元に持ってきてくれる。
それをボクがナイフで切り分けて、それをメリアがエリス嬢の給仕に渡す。

なんでこんなに回りくどいことをするのか?

おそらく、宴の主催者から客人に振る舞う体とするために、最初の一皿はこのような儀式?を行うのだろう。

二皿目以降は自由に切り分けて食べて良いらしい。
らしいというのは、昨日メリアから教えてもらったばかりで今日が初めての実践だから。

切り分けた肉がエリス嬢の前に届くと、ボクはワインの入った金色の杯を手に取る。

「貴方との食事に喜びを。」
と言って、杯を掲げる。

「喜びに感謝を。」
エリス嬢も同じように杯を掲げて応じる。

そして一皿目の儀式が終わると、やっと落ち着いて食べることができる。

ボクはホッとして金色の杯に入っているワインで喉を潤す。
正直、5歳位の子供に薄めているとはいえワインを飲ませるのはいかがなものかと思うが、食事の時の飲み物はワインが基本なので仕方がない。

「ご主人様はとても宴がお上手でいらっしゃるのですね。マナーも完全で美しいです。」

うん?ご主人様?
エリス嬢もボクのことをそう呼ぶのか?

それともエリス嬢の『ご主人様』は宴の主催者という意味かな?
完全に美しいということは、褒めてくれているということだろうな。

全然慣れているはずがないんだけど、
「ありがとう。君と会えて嬉しいよ。」
昨日、メリアから教えてもらった通りに答える。

ボクの言葉って合ってる?

なんか、ちょっと意味が合っていないような気がしてるんだけど……。

エリス嬢は、
「まあ。」
と喜んだ感じの表情をして、ボクが切り分けた羊の頬肉を右手の三本の指でつかむと優雅に口に運ぶ。

そして、
「たいへん美味しいです。」
とニッコリと笑って言った。

なんというか、ドレスを着ていかにも盛装という感じなんだけど、やっぱり手づかみが基本なんだなぁ。

いや、手食文化を馬鹿にするつもりはないんだけど、やっぱり手食が苦手なボクは先日作ってもらった二股フォークで食べている。

一応、エリス嬢の前にも二股フォークは用意しているけれど、全く気にしていない様子だ。
普段、食事で使っていないから気にも留めないということだろうな。

ボクも普段の食事で手食をして慣れていけば、気にせず普通に食べられる様になるのだろうか?

そんなことを思いながら食事をしていると、メリアがボクとエリス嬢の前に魚のムニエルと付け合わせのフライドポテトモドキを盛った皿を置く。
この魚のムニエルは魚の切り身に小麦粉をまぶしてバターで焼いたもので、実はボクがリクエストして作ってもらったものである。

何しろ、毎日毎日、塩焼きの焼肉、ハーブで味付けした焼肉、香辛料で味付けした焼肉、甘辛いタレをつけて焼いた焼肉と焼肉ばっかりだったので、魚が食べたいとメリアに頼んだのだ。

しかし、料理人は魚の料理は焼き魚しか知らないということだったので、わざわざ小麦粉をつけてスキレットで焼く作り方をメリア経由で料理人に伝えて作ってもらった。

でも、料理人の腕が良いのか、初めて魚のムニエルを作ったというのが信じられないくらい美味しい料理が出来上がって来たので、週に1~2回は食べている。

フライドポテトモドキについては、魚と一緒に炒めて作ってもらった。
正確には炒めているので、フライドポテトではなくフライドポテトモドキである。

こちらも初めて作ったらしいが、初めて作ったなんて信じられないくらい絶妙な塩加減と、微妙に効いているハーブと香辛料の香りが良いハーモニーを奏でる逸品となっていた。

「美味しいです。」

エリス嬢は食べたことが無いであろう魚のムニエルの味を気に入ってくれたようだ。

「料理を作る人が頑張ってくれました。」
ここは料理人を褒めるところだろう。

前世だったらこのあたりでシェフが登場して、料理の説明とご挨拶とかになるのかな?
まあ、ボクも料理人には会ったことはないからどんな人なのか知らないんだけどね。

「ご主人様は、良い料理人を掴んでいるんですね。うらやましいです。」

またご主人様って言ってるな、それに『料理人を掴んでいる』とか言ってるし。
まあ、単純にボクの翻訳がおかしいだけなのかもしれないけど、単語的には『掴んでいる』と言っているけれど、意味的には『雇っている』という意味なのかもしれない。
言葉にはその言語独特の言い回しってものがあるからなぁ。

「私、このような料理は初めて食べましたし、ご主人様の使っている道具も使ったことがない道具ですね。」
エリス嬢はそう言って自分の手元の二本刃のフォークに触れる。

全く気に留めていないのかと思ってたけど、どうやらボクが使っていることには気づいていたらしい。

「フォークといいます。熱い焼けたての肉が食べたくて作ってもらいました。」

ボクは、衛生的でないとか手が汚れるのが嫌だっていう手食へのネガティブな本音を隠してグルメっぽい言い分を話して聞かせる。

「まあ、これを使えば熱い焼きたてのお肉が食べられるということですか?」

「もちろん!手で掴めないような熱々の肉をハフハフ言いながら食べられますよ。」

エリス嬢はボクの言った『ハフハフ』という言葉にクスリと笑う。

ボクはメリアに目配せして、
「メリア、焼きたての肉を持ってきてよ。」
メリアは、ボクのリクエストに優雅に会釈すると、後ろにいたメイドに命じてすぐにジュージューと音のする分厚い肉の乗ったスキレットを持ってこさせる。

おお~!準備が良いなぁ。
まるで用意していたかのようだ。

そのスキレットをボクとエリス嬢の間の席に置く。
そして、メリアがナイフとフォークを使って分厚い肉を切り分けてくれる。
熱々のそれを銀の皿に盛り、それぞれボクとエリス嬢の前にコトリと置いた。
肉はまだ素手では触れないほど熱々だ。

ボクはその肉に二股フォークを突き刺して口元へ運ぶ。
口の中に入れると、思った通り熱々なのでハフハフしながら咀嚼すると、肉の脂がジュワッと口の中いっぱいにあふれだしてくる。

そんなボクの食べる様子を見ていたエリス嬢も手元のフォークを手に取って、肉に突き刺して口に運ぶと、美味しさに我慢ができないという顔でハフハフと食べていた。

よほど美味しかったのだろう、女の子だけど200グラム以上はあったステーキをぺろりと食べてしまった。

羊のホホ肉、魚のムニエル、フライドポテトモドキ、ステーキと食べたので二人してお腹いっぱいである。

正直、食べすぎた。
料理の量と配分を間違えた。

動くのが億劫になったので食後のお茶を頼み、ついでにメリアにリバーシを持ってきてもらう。

リバーシなら動き回らずに遊べるし、ルールも単純。
他の人にルールを教えるのも簡単だ。

エリス嬢は運ばれてきたリバーシの板とコマを見て、
「ご主人様、この赤と青のメダルは何ですか?」
エリス嬢は表裏が赤青になっているリバーシのコマを不思議そうに摘まむ。

「遊び道具だよ。簡単な遊びの道具なんだ。」

ボクはそう言って以前メリアにしたようにリバーシのルールを説明する。
今回のルールは隣接するマスにだけコマを指せる一番基本的なルールだ。

ルールの説明をしながら一戦、それから数戦したが、エリス嬢は負けず嫌いの性格のようで何度も再戦することになり、気が付いたら夕方になっていた。

ちなみに勝率は7対3くらいでボクの勝ちである。
しかし、エリス嬢も後半には油断ならないほどに強くなってきていたので、5分になるまでそんなに時間はかからないだろう。

負け越したことを悔しがっていた。
その姿はいかにも歳近い子供のようでボクも楽しくて、帰り際にリバーシを作って贈ると約束した。

エリスの訪問は昼食だけの予定だったのに、夕方まで居たので下の階にはすでにお迎えの人が来ていた。
ローラントさんが心配してお迎えを寄越したらしい。

この世界には電話とかメールが無いので、予定に無い行動をしても連絡できなくて不便だね。

エリスは、また近いうちに遊びに来ると言い残して帰っていった。
来たときはお澄ましさんっぽい雰囲気だったが、帰るときは仲の良い友達みたいになっていた。
初めてのお友達だろうか。

楽しかったな。
初めてのお友達ができた日はスッキリとした気持ちで、とてもぐっすりと眠ることができたのだった。
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