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18.エリスが挨拶に来た

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ローラントさんとの面談の後、数日してエリスティア・ローラントさんから面会の申し込みがあった。

誰だろう?と思ったら、先日面談したローラントさんの娘さんらしい。

メリアに娘さんからの面会の理由を尋ねたら、何かゴニョゴニョとよく分からないことを言っていた。
なんだろう?彼女のこんな態度は初めてだな。

とにかく、2日後の昼食を一緒に食べることになった。

面会の前日はメリアにマナーとか挨拶について教えてもらって過ごした。
マナーと言っても、ボクは目の前のお皿に盛り付けられた料理以外に手を伸ばさないってだけなんだけどね。

当日、約束の時間に現れたのはボクと同じくらいか少し年上の少女だった。

少し赤っぽい金髪で、ウェーブのかかった髪を複雑な編み込みで後ろに流して宝石の付いた髪留めで長い髪をまとめている。

意志の強そうなはっきりした眉と、エメラルドグリーンの瞳が印象的な美少女である。

加えて、とても立ち居振る舞いがキレイでいかにもお嬢様って感じがする。

ところで、こういう時、相手の名前はどのように表現すべきだろうか?

なんだか『ちゃん』付けで呼ぶのはおかしい気がするし、かといって『さん』付けもおかしい気がする。

とりあえず貴族とかお金持ちのお嬢様ってことで『嬢』って呼称するとしよう。

エリスティア嬢はボクの前に来て手を胸の前でクロスさせると、跪いて向上を述べてボクに挨拶を行った。

正直、最初の一言と途中のいくつかの単語しか意味が分からなかった。

だけど、う~ん、シッカリした子だなぁ。
感心するだけじゃなく『お前もシッカリしろよ』って突っ込まれそうだけど、仕方ないじゃないか、言葉がわからないんだから。

事前にメリアから聞いていたように、右手を自分の胸に当て左手を腰の後ろに回すと、
「ようこそ、エリスティア・ローラント。貴方に会えて嬉しい。」
と返しておく。

エリスティア嬢はニッコリ笑ってくれた。

うん、とりあえず『ありがとう』って言っていたのはわかった。

ローラントさんもそうだけど、畏まっている相手の言葉が解りにくいのでよくわからない言い回しの時は敬語の言葉が入っているのかもしれない。

エリスティア嬢はローラントさんほど意味がわからない感じではないので、少し優しい敬語ということだろうか。
少なくとも気を使ってくれていることだけは分かった。

メリアといい、エリスティア嬢といい、メイドたちといい、みんなボクを甘やかしているなぁ。

自分で言うのもなんだけど、こんなに甘やかしたら、ロクな大人にならないぞ。

そんなことを考えながら、エリスティア嬢と一緒にテーブルに着く。

「エリスティアはいつも何をしているの?」

もっぱら、気になっていた事『他の子は普段何をしているんだろう?』を聞いてみた。

ボクは普段この部屋から出ることがないので、思案というか、メリアやメイドたちの言葉遣いを聞いて単語や文法なんかを考えたりして過ごしている。

まあ、先日のローラントさんとの会話では初めてのボス戦のような感じに全く歯が立たなかったんだけど。

しかし最近、ある程度の言葉が分かるようになってきたので、この部屋に閉じこもっていることに非常に退屈を感じているのだ。

エリスティア嬢は、
「わたくしのことはどうぞエリスとお呼びください。」
と、前振りしたうえで、
「お父さんが、ラフをしなさいというので、ラフをしています。」
初っ端から、知らない単語が来た。

「ラフって何?」
思わず、何も気にせずに聞いてしまった。

「まだダンスなどですね。ダンスは楽しくて大好きです。」

エリス嬢が待っていましたとばかりに嬉しそうに話す。
多分、『ラフ』の内容について聞かれたと思ったんだろうな。

ゴメンね。ボクは『ラフ』って単語の意味がわかんないんだ。

「『ラフ』って言葉、どういう意味なの?」

ボクが首を傾げて尋ねると、
「え?」
エリス嬢が固まる。

おや?どうやら知らないとおかしいような、常識的な単語だったらしい。

「え、えっと、ラフっていうのは、その……。」

さっきまでのお澄ましさんっポイ感じが吹っ飛んで、しどろもどろになるエリス嬢。

アタフタしている様子はカワイイけど、そんなに慌てなくても良いのに。

それとも、そんなに予想外の質問だったのだろうか?

「ラフというのは、他の人からラフしてもらうなどとか言ったりしまして……。」

何とか説明しようとしてくれてるけど、『ラフ』が何かわからなければ、何してもらうのかはわからない。

「例えば、私がご主人様にお話をしてご主人様にいろいろラフをしていますよね。」

エリス嬢の言葉に首を傾げていると、メリアがエリス嬢に同調して説明をしてくれる。

うん?ボクが話を聞いてラフしている?

ボクはメリアの話を聞いて言語を分析しているけど、『分析』じゃないよね?

あれ?ボクは自分で知ろうと分析しているけど、他の人からしたら『教えてる』かな?

『してもらう』ってことは『教えてもらう』ってことかな?

『教えてもらうこと』つまり『習い事』ということかな。

「つまり、文字をラフしてもらっているとか?」

「そうです!文字もラフしていますし、ダンスもラフしています!そういうことなんです!」

意味が伝わったと感じたのだろう、エリス嬢の表情が明るくなる。

意味が伝わったのがよほど嬉しかったのか、習い事の内容をエリス嬢が力説してくれる。

ゴメンね。変なこと聞いて慌てさせちゃって。

慌てていたエリス嬢がホッとした様子になったので、思わず心の中で謝りました。

う~ん、これじゃあスゴくアホの子っぽいな。

聞かないと言葉の意味は分からないんだけど、分からないことを正直に聞くのも考えものかもしれないなぁ。
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