健康で文化的な異世界生活

三郎吉央

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15.お高そうな遊戯盤と変わりゆくリバーシ

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数日後、木製のような軽い材質で作られたコマと、同じく木製と思しき板の表面に細かい装飾が施された盤が届いた。

インクの黒と薄茶色っぽかったコマの色は鮮やかな青と明るめの赤色に塗られている。

盤の方も木製っぽい板に少し白っぽいクリアカラーの様な色が塗られていて、光の加減でパール塗料の様に色が変化する。

う~む、お高そうである。

メリアに聞いたら、
「黒と茶色では地味でしたので。」
と言っていたから色のチョイスはメリアの好きな色だったっぽい。

そんなお高そうな盤で昼食後にメリアやマルカ達とリバーシをするのが日課になっている。

メリアとマルカは強すぎてまったく相手にならないが、テレサともう一人のメイドにはまだ勝てる。

もっとも、もう一人のメイドもそろそろコツを掴んで来ているので勝てなくなる日も遠く無さそうだけど……。

真っ正直に狙い目ド直球で攻めてくるテレサにはまだ勝てそう!
などと思っていたらある日テレサが妙な形の盤を持ってきた。

「この盤でお願いします。」

『師匠!お願いします!』って副音声が入っているような感じでお願いされたが、なんだ?この盤、四角形じゃないぞ?

普通のリバーシの盤って正方形だが、テレサが持ってきた盤は正方形の盤を角の部分で対角線上に切り取ったような直角二等辺三角形の形をしている。
わざわざ作ったのか?コレ。

「お願いします。」

「テレサ、あなた……。」

メリアがちょっと憮然とした顔をしていたが、
「良いよ。良いよ。」
と、ボクが軽い感じで了承するとそれ以上何も言わなかった。

それから真剣な様子のテレサと三戦してボクが三勝した。
テレサは結構ショックを受けたらしくガックリと肩を落としていた。

おそらくボクが角を取って勝つ事が多いので角の数を減らせば勝てるんじゃないかと思ったんじゃなかろうか?
ふふふ、その程度の思考ではボクには勝てないのだよ。

と、ボクが良い気分になっていると、テレサは本気で落ち込んでいるようで、いつも無表情な彼女にしては珍しくちょっと涙目で眉根を寄せている。

う~ん、こういう顔を見ちゃうとなあ。

テレサは最初からリバーシが一番弱くて、おそらくまだ一度も勝ったことがない。
一人だけまったく勝てないなんて、そりゃ惨めな気持ちになるだろう。

「テレサ?」

「はい。」

「テレサはボクがこう置くと、いつもこう置くよね?」

「はい。」

テレサはいつもボクがコマを置いた場所のすぐ近くでコマを裏返せる場所ばかりに自分のコマを置いていく。

たぶんボクが進む方向に先回りしてボクの色が拡がるのを防ごうとしているんだろう。

だけど、それはボクのコマの置き方に注目しすぎるあまり、ボクが他のコマと連動できる形に誘導していることに気付けていない。

きっと不器用な彼女は、ボクが少しずつ方向を変えたりして自分に有利になるように立ち回っていることにも気づいていない。
おそらくテレサはボクがコマを置く一ヶ所一点にのみ注目していて、盤全体の様子が見えていないのだろう。

「テレサはボクの置く場所だけを見ていて他のコマとを見ていないから、一気にたくさん取られちゃうんだ。もっと全部を見てないといけないよ。」

「......はい。」

そう言ったボクの言葉にテレサはなんだか余計にシュンとしてしまった。

う~ん、どうやら本人もその点はわかっているというところだろうか。

「とは言っても出来ないものは出来ないよね。」

それならば、
「それじゃあ良い方法を教えてあげる。」
そう言いながらボクはまた盤の上のコマをゲーム開始時の状態に並べ直す。

「ボクがココに置くでしょ?」

「はい、ではココに。」

「ちょっと待って!テレサ!ステイ、ステイだよ!……そうだな、テレサはそことは別の場所に置いてよ。」

「?……はい。」

即座にボクが置いたコマの横に自分のコマを置こうとするテレサを止めて、別の場所に置かせる。

テレサが渋々別のところに置くと、
「じゃあ、ボクがココに置く、テレサはどこに置く?」

「では私はココに。」

「それじゃあ、ボクはココ。」

「私はココに……あれ?」

テレサはまたボクのコマの進行方向を止めるような配置でコマを置いていたが、今度はテレサの番が回ってきた時、テレサは角を取る事が出来たのだ。

「ど、どうして……?」

テレサは不思議そうに首を捻っている。

「ふふふぅん、すごいでしょ!テレサのコマの置き方を一つズラせばこうなると思ったんだ。」

テレサのコマの置き方は読みやすい。

こっちがコマを置くとそこに注意が向くし、そっちで配置を伸ばしていけばそれを防ごうと先に先に置こうとする。

たぶんそのまま行けばどこまでも進み続けるかもしれない。
しかし、リバーシの盤では必ず端が存在するのでそこで止まってしまう。

その時、先をボクのコマで塞いで、後は伸びている部分を取っていけば結構簡単に勝てる。

そういう特徴があるのがわかっているから、今回は敢えて一手待たせてボクがテレサの先を押さえる動きをしてみた。
そうしたら案の定、さっきとは反対にテレサは角を取れて優位な配置になることが出来たのだ。

「テレサはボクの先へ先へって先回りしようとしすぎて、無理にコマを置いちゃってたんだ。でも先回りするんじゃなくて、ちょっと待って追いかけるようにしたらボクの方は追いかけられて追い詰められちゃった。焦って先手を取らなくても後ろから着いていって自分のやりやすいようになれば良いんだよ。」

「こんなふうになるとは……。」
テレサはまだ不思議そうに目をパチパチさせている。

「一手待って、後から追いかけてまた先を取る。そういう風にテレサは自分の得意な形になるようにコマを置いていくことから始めたら良いよ。それが『ウス』だよ。」

「一手待って得意な形……。」

考え込むテレサ。
う~ん?不器用そうなテレサにはやっぱり難しかったかな?

さっきテレサに角を取らせた流れは自分でも上手くいきすぎたと思うくらい上手くいったから簡単だと思ったんだけど、そんなに考え込むほど難しかっただろうか?

「それにしても、リバーシの盤をこんな形にしちゃうなんて、テレサは面白いね」

「はい……?」

テレサはキョトンとしているけど、四角い盤で勝てないなら、
『三角なら勝てるんじゃないか?』
なんて考えて盤の形を変えて持ってくるなんて面白いことを考えたもんだ。

そう思ってクスクスと笑うと、テレサはますます『なんで笑うんだろう?』と首を傾げた。

「さあさ、もう良いでしょう?お茶が冷めてしまっていますよ。」
そんなことを言っていると、メリアが新しいお茶を淹れてくれた。
ちゃんとミルクも入ってミルクティーになっている。

「あ、今日はクッキーか。」

「どうぞお召し上がりください。」

「いただきまあす。」

ボクはそう言ってちょっと塩っぱいクッキーをハチミツを浸けてから口いっぱいに頬張ったのだった。
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