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11.ある日の朝に

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朝、ふと目が覚めた。

いつもは日が高く昇ってから目覚めて、朝食か昼食かわからない時間に食事をすることが多いのだが、今日はなぜか日が昇りかけている時間帯に目が覚めたのだ。

昨日は眠るまでメリアに寝物語を語ってもらっていたからだろうか、とてもぐっすりと眠った気がする。

ボクはつくづくメリアが大好きだなと思う。

全く姿を見ない両親に変わって献身的にボクの面倒を見てくれているからだろうか、メリアがいるととても安心するのだ。

半分くらいはお母さんみたいに感じているのかもしれない。

もちろん、メリアは十代前半くらいの年頃なのでボクのお母さんなわけはない。

しかし、ボクにとってはそれほど信頼し安心できる存在だということなのだ。

と、ここまでは目覚めて一番に思いついたメリアへの愛情の再確認とまだ気づいていないメイドたちがボクの起床に気付くまでの退屈を紛らわすための思考である。

まあ、退屈を紛らわせるといっても考えている間なんて5歩も歩けるくらいの時間でしかないのだけれど。

この体は考えるのが早いなぁ。

というか、子供時代ってどうしてこうも時間が過ぎ去るのを遅く感じるのだろうか。

何か考えながらいつも通りにメイドが入ってくるのを待とうかと思ったが、すぐに考えることにも飽きてしまった。

ホントはメイドが起こしに来るまで寝ているべきなんだろうけど、お子様なボクにはメイドが来るまでじっと待っているなんて退屈なことはできない。

コソコソとベッドの上から抜け出してベッドの横に置いてあったサンダルを履く。

メイドたちはボクが起きたことにまだ気づいていないようで、メイドの詰めている隣室は静かなままだ。

ボクは静かに歩いて窓辺に行くと窓から外を覗いてみる。

窓からは外の様子は良く見えなかった。

大きな窓ガラスなのだが、すごく分厚くて少し黄色い色の入ったガラスで、陽光は入ってくるが外を見通せるほど透明ではない。

なんでこんなに分厚いんだろう?
まさか防弾ガラス?

まあ、そんな訳ないだろう。

実はこれまでの一か月くらいの日々、ボクはこの寝室と隣の部屋にしか行っていない。

なにしろ、トイレはメイドたちが持ってくるし、お風呂というか毎日身体を拭いてくれたり、2~3日に一度の割合でお湯とタライが運ばれてきてメイドたちが軽く体を洗ってくれるのだ。

なんか強制的にダメ人間レールに乗せられているような気がするほどの待遇の良さである。

正直このまま流されると間違いなくダメになる。

しかし、こちとら前世の記憶のおかげで、曖昧ながらもここが異世界だってことが理解できるほどの知識、精神レベルがあるのだ。

そう簡単に堕ちてたまるモノか。

そこで、自分なりのルールを決めた。

朝は10時くらい?に起床。

昼食後のお昼寝は1時間くらい。

午後からはリビングを走って10周する。

メリアに甘えるのは1日3時間。

夜眠る前には、メリアにお話をしてもらって言葉を覚えながらアタマを撫でてもらって就寝する。

……並べてみたら、なんだか甘々な気もするな。

でも、リビングを10周は結構きついのだ。

ボクが生活している部屋は、寝室が10メートル四方くらいあり、リビングに至っては、端から端まで30メートルくらいはありそうだ。

おそらく、マンションのフロア丸ごとぶち抜いて一つの部屋にした感じで、まさに金持ちの部屋というか大広間というか、天井も高くてちょっとした運動施設並みの広さである。

一部屋をわざわざこんな広い部屋にする必要あるのだろうか?

その大きな部屋の中に暖炉が6ヵ所、お茶を飲むためのテーブルが日の当たる南側と朝日の昇る東側に1か所ずつ、大きなソファセットが2セット、長さ5メートルくらいのダイニングテーブルが一つ。

家具はあまり多くはないが、どれも金色の飾りが入った豪華なモノばかりである。

なぜ、子供の部屋にこんな豪華な家具を置く必要があるんだろうね。

壊しちゃったらどうするんだろう?
さっぱり理解できない。

とにかくやたらと広くて高価な調度品や美しい絵画によって飾られた部屋、ここには常時メリアと2人のメイドが常駐している。

部屋の中は熱くも寒くもなく、ちょうどいい温度で湿度も整えられているのか乾燥している感じもしない。

普通に考えればとても快適で理想的な環境である。

ただ、一つ不満というか寂しく思えるのは、この部屋には家族のぬくもりというものがないということ。

メリアは大好きだしメイドたちも良くしてくれる。

だけど、お子さまのボクは時々とても寂しくて、寒いような気持ちになることがある。

そんな時はメリアに抱き着いて昼寝をするのだ。

メリアが席をはずそうとしても離れず、ギュッと抱き着くのだ。

他人であるメリアが、その時、どんな顔でどのように感じて、どんな思いを持っているのかはわからない。

もしかすると、鬱陶しいと感じているのかもしれない。

しかし、ギュッとしたい時のボクの心には余裕がない。

前世の事を知っているボクは、精神的にもっと大人で分別が付くはずなのだが、そういう寂しい時には全く歯止めが利かない。

これはお子さまボディによる弊害なのかもしれない。

身体の年齢に精神が引き摺られているような気がする。

今のボクには寂しい時に、寂しさに耐えて乗り越えるだけの精神的な強さが無いのだ。

と、話が外れて少々暗い話となってしまったが、要は今のボクの生活がとても閉鎖的であるということが言いたいだけだ。

外出することはなく、会うのはメリアとメイドたちだけ。

窓から外を見ようとしても、腰高の窓には分厚く透明度の低いガラスブロックがはまっていて外の様子は窺えない。

わかるのはせいぜい明るいか暗いかどうかということくらい。

もちろん、ボク自身が望んで今の生活を送っているわけじゃない。

そもそも、ボクという自我が目覚めて一月くらいしか経っていないのだから、どうしてこの状況になっているのかもよくわからない。

そして、メリアたちに聞きたくてもまだあまり言葉が通じない。

難儀なことである。

ボクはメイドたちに気づかれないように寝室の中を歩き回る。

金銀の金具で装飾されたキャビネット。

机上が鏡のようになっている鏡台のような机。

脚の部分が優雅な曲線になっている椅子。

どれも高級そうな印象を受ける。

とはいえ、前世ではこういう高級な品物を使っていた記憶が無くて、これらがどのくらいのお値打ちなのかはさっぱりわからない。

しかし、とても子供の部屋に置くような家具じゃないだろうって突っ込みたくなるくらいには『お高いモノ』なんだろうってことはわかっているつもりだ。

ホントに壊しちゃったらどうすんだろうか。

そういえば先日、花瓶台の上の高そうな花瓶を倒してしまったことがあったが、メイドの子がすごく必死な様子で落ちないように慌てて抑えてくれた。

おそらく、あれもおそらくお高いものなんだろう。

子供部屋にまでそんな高価なものを配置しているような両親なのに、この一ヶ月、一度も顔を見ていない。

まあ、自我が目覚めたばかりで記憶も朧げな今のボクには、どの人が両親なのか見分けがつかないかもしれないんだけどね。

それとも、もしかしてボクはネグレクトされているのだろうか?

……子供ながらにとてもシリアスなことを考えてしまった。

まあおそらく推測だけど、ボクの両親はスゴイお金持ちか高位の貴族なんじゃないかな。

子供は自分たちが面倒を見なくてもメイドたちが面倒を見てくれる。
そう考えているのかもしれない。

でも、そうだとしたらボクは寂しいな。

おそらく、前世なら考えもしなかったんだろうけど、いくら贅沢な生活が出来ていても紛らわせない寂しさってあるもんだ。

あんまり放っておかれるとグレちゃうぞ。

ボクが起きたことに気付いたのか、部屋に入ってくるメイドたちを横目に見ながらニヒルに笑ってみた。
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