健康で文化的な異世界生活

三郎吉央

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7.ご主人様なボク

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この部屋ではボクはご主人様だ。

ボクのことはみんな『ご主人様』と呼んでいる。多分。

『アゥス(神様)ナァァ(近い人)』と言ってるからおそらくそうだろう。

時々、『オゥアウスナァァ』とか少し長い言葉の『ご主人様』になったり、なんか短い言葉の『ご主人様』などバリエーションがあるけど、どれも意味は『ご主人様』なんじゃないかと思ってる。

この部屋では誰もがボクを見て、誰もがボクに傅いている。

朝、ボクが目を覚ましたらメイドたちが靴を持ってきてくれる。
ベッドから起き上がったら着替えと洗面器を持ったメイドたちが入ってきて、ボクが顔を洗うと流れるように寝間着を脱がして着替えさせてくれる。

ああ、これが貴族なのか。

と、最初は喜んでいたのだが何から何までとなると次第に鬱陶しくなってきた。

着替えくらい自分でできる。
そう思って不機嫌そうに服を手に取ると、メイドたちはすごく畏まって引き下がる。

そんな中、メリアだけは時々『いけません!』的に叱ってくれる。

叱られることを『叱ってくれる』なんていうのもおかしな表現だけど、他のメイドたちが暖簾に腕押しな状況で手ごたえがないのに対して、メリアは家族のようにしっかりと受け止めてくれている感じがして居心地が良いのだ。

もちろんメリアは兄弟でも親戚でもないのだろう。

思い出せる記憶の中でメリアとの一番古い記憶は、どこかの広い庭の東屋のような建物でお母さんじゃないけど面倒を見てくれていた女性達と一緒にいるときに会ったときのものだ。

その時一緒にいた女性はそれまでボクの面倒を見てくれていた人で、他にも誰だかわからないキレイな服を着た人が何人もいた。
そこにメリアがやって来て紹介されたような感じだった。

メリアは乳母とかいうには若すぎるから、やはり一緒に育っていく『仮のお姉ちゃん』という位置づけなんだろう。

その時の彼女はもっと質素な服装で少し自信が無いような俯き気味の表情をしていた。

何があったのか、どういう状況だったのかはわからない。

でも、その時の彼女は何か打ちひしがれていたのだろうということだけはわかった。

もっとも、その時のボクは何かをするとか自分で動こうとかいう気持ちが起こらない状態だった。

無気力。

今から思うと無気力な状態だったと思う。

その時の様子は全部覚えている。

だけど、その意味はいまだに分からない。

もっと言葉の勉強が必要だね。

少なくとも今のボクは悲しそうなメリアを見たくはないし、そんな表情をしているなら笑わせてあげたい。

ということで、どんどんメリアに話しかけていこう。

あれやこれやと色々指さしたり触ったりして。

時々やらかしてメリアに叱られることもあるけど、そんな関係が心地よいと思うほどに、ボクはメリアが好きになってる。

さあて、今日も元気に『これは何?』を始めるかな。
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