上 下
5 / 54

5.ボクという存在

しおりを挟む
ボクがボクという自覚を覚えてから三日が経った。

今のボクの状況はいったいどういう状況なんだろう?

ここでのボクの生活は、朝食を食べて夕方までメリアに甘えたりかまってもらったりしてダラダラと過ごして、夜寝て、翌朝起きて朝食を食べてメリアに甘えてというニートもビックリのダメ人間生活である。

とりあえず、なにか調べようとか学ぼうとかしようにも、先ず言葉が通じない。

身振り手振りを駆使すればなんとなくメリアには伝わっているようだが、メリアの言っていることはさっぱりわからない。

前世の異世界モノだったら言葉なんて簡単に通じてたのに……。

いや、正確には、言っていることの意味はなんとなくわかる。
だけど、言葉はさっぱりわからない。

未だにメリアのしゃべっている言葉のどれが名詞なのか動詞なのかすらわからない。

同音異句とか有るのか、違う単語なのに同じ意味の様に感じる単語が複数種類あったりする。

子供なんだからもっとやさしく言葉を教えてよとか思ったりするが、メリアたちはボクに言葉を教えようとして話しているわけではない。
そもそも5歳くらいになっても母国語の聞き取りさえできていない自分の能力の方が問題なんだろう。

それに、これまで3日間過ごしているがボクはまだ自分の親らしき大人に出会っていない。

記憶を辿ってみても、親と接した記憶をほぼ見つけることができなかった。

母親に関しては、良く見えなかったけれど心地よい感じの良い匂いがするきれいな女性がおっぱいをくれていたような記憶が朧気ながらある。

だが、父親、お父さんに関しては全く分からない。

男の人の顔を何人か覚えているのでそのうちの誰かだろうか?

おそらく部屋の様子やボクの今の生活から考えても裕福な親であることは間違いないだろう。

思い出せる記憶のほとんどには別の女性が居て、その後からはずっとメリアがいて、メリアは頭を撫でてくれたり膝の上で寝かしつけてくれたり、ボクを甘やかしてくれていた。

そりゃあ、これだけ甘やかしてくれれば大好きにもなるってもんだね。

でも、覚醒したボクとしてはメリアに甘やかされて『おバカ』になるつもりはない。

前世のことは全然思い出せないけど、なんとなく『ひとかどの人物にならなければいけない』という気がする。

少なくとも、これまでみたいにボクがボクとして自覚が無かったときはともかく、今のボクのように自覚が芽生えた後では、単純に甘やかされているばかりではいられない。

十代前半くらいの少女に、
「よくできました。」
と、褒められて嬉しくてハシャぐ様な状況は、ボクのプライドが許さない。

などと、今日一日お漏らしをしなかったことを褒められ、褒められている嬉しさにハシャぎたくて仕方がなくなっている自分と戦いながら考えてみる。

身体は子供でも頭脳は大人なんだから落ち着こうと努力をしてはいるのだ。

だが、ダメだ、褒められて嬉しくてメリアに抱き着きたくなってしまう。

この三日間で分かったのは、ボクはボクという意識が目覚めるまでの間赤ん坊のような状態だったらしい。

立ち上がって歩くようになっても、言葉がしゃべれず話ができない。

放っておかれても気にせず一人でボーっとしている。

そして、オシッコなどを自分でできない。

そういう状況だったみたいだ。

みたいだというか、記憶にもある。
認めたくないだけだ。

この三日間はちゃんとオシッコする前に言えるようになったし、オネショもしていない。

それだけでもメリアやメイドたちには嬉しいことらしく。
言葉はわからないけどみんなスゴイスゴイと褒めてくれている、……多分。

そんなに褒められることなんだろうか?

ボクぐらいの年ならできていてもおかしくないんじゃなかろうか?

でも、そもそもボクは今何歳なんだろう?

自分の手を眺めてみるが、そもそも手の大きさで年齢が分かるはずもない。

メリアと比べて……とか思ったが、前世の記憶基準で見てメリアの年齢は10代前半くらいだと思うのだが、そんなメリアの身体がとても大きく見える。

いや、メリアが巨大な訳じゃないだろうからボクの身体が小さいのだろう。

つまり十代前半の女子であるメリアよりもずっと身体が小さくて、言葉が話せなくてもオネショしててもおかしくない年齢。

2~3歳くらい?

いやいや、足腰しっかり立ってられるし、さすがに2~3歳って事は無いだろう。
だから4~5歳くらいだろうか?

大した差じゃないかな?

いや、子供の1~2歳って大きいのかな?

よくわからないな。

前世の転生者たちはどうだったんだっけ?

……ダメだ。

前世の記憶を検索してみたけどみんな『あれから〇〇年』とかって一気に時間が過ぎちゃってる。

これじゃあ、ヒントにならない。

……あれ?もしかして今のボクの状況って……『あれから〇〇年』の『〇〇年』って期間なんじゃないのか?

語られていなかったけど、言語インストールされなかった転生者の人達ってこういう状況を乗り越えて大成していったのでは?

だとするとボクも言葉が分からないこの状況を自力で乗り越えていかないといけない。
これは俄然やる気が出てきたぞ。

ようし、明日から言語習得に向けて頑張っていくぞ!
と、メイドが持ってきてくれたオマル椅子に座りながら心に誓うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...