上 下
3 / 53

3.目覚めた朝に

しおりを挟む
翌朝、ベッドのカーテンが開けられ、明るい日差しが目に入ってきて目が覚めた。
メリアが天蓋付きベッドのカーテンを開けて回っているのだ。

ノソノソと布団から起き出すとメリアが気付いて前にやってきた。
彼女はスカートの裾をつまんで持ち上げると朝の挨拶をしている。

その後ろでは他のメイドがタライを置くための台を運んできて、その台の上にタライを置き、ヤカンのような水差しから水を注いでいる。
いつも、そのタライの水で手と顔を洗うのだ。

メリアが促すように歩み寄ってきたので、準備ができたということだと判断して立ち上がり、タライへと歩み寄る。

タライに両手を入れて手を洗うと、おもむろに顔を近づけて顔を洗う。

おそらく少しお湯を入れているのであろうタライの水は、冷たくなく心地よい温度のお湯だった。

顔を洗い終わってタオルを渡してくれるように手をのばしたが、一向にタオルが渡されない。

あれ?いつもはメイドたちが洗ってくれて顔をフキフキしてくれるほど準備が良いのだが、どうしたのだろう?

奇妙に感じて片目を開けると、メリアが驚いたような顔をしているのが目に入った。

驚いているメリアの後ろで同じ様に驚いた顔でタオルを掲げているメイドに、手を向ける。

タオルを掲げていたメイドはハッとして慌ててタオルを渡してくれた。

いつもは水を嫌がって ゴネててもテキパキと顔を洗って拭いてくれるのに、珍しいこともあるものだ。

って、あれ?
昨日の朝の記憶がある。

ということは、昨日の時点でボクはボクだったのか?

でも、ボクは昨日の時点でボクだったという印象がない。
なんだか昨日のボクはボクになる前のボクだったような……。

……何言ってるんだろうボクは?

ボクはボクだろうに。
うーん、どういうことなのかワケが分からないな。

まあ良いかな?
いやいや、そこはしっかりしとかないと。

前世では……何してたんだっけ?

おや?
なんだか、前世の記憶が……あいまいだ。
よく思い出せない。

これはショック症状か何かだろうか?
トラックとかに轢かれて頭を打った……とか?

などとタオルというには薄い布で顔を拭きながら考えたが結論には至らなかった。

まあ考え込んでも仕方がないか。

タオルを返すとメイドは恭しく受け取って部屋から出ていく。

ふと見ると、いつの間にかメリアの横には何枚かの衣服をトレイに乗せたメイドがいた。
着替えさせてくれるらしい。

昨日まではメリアがパジャマを脱がしてくれてシャツと上着、ズボンを着せてくれたが、着替えくらい自分でできる。
なにしろ、もう……、何歳だっけ?

忘れたが、前世でも……、何歳だっけ?

……ダメだ、思い出せない。

そんなことを考えながら、寝間着を脱ぐ。

おっと忘れていた、寝間着の下は素っ裸だったんだ。
メリアやメイドは見慣れているとはいえ、ボクが恥ずかしい。

トレイの上のパンツをとると、慌てて足を通す。

メリアが慌てて手を伸ばしてくるが、手を出して止める。
下を隠したら少し気持ちが落ち着いたので、上半身用の貫頭衣を取って頭からかぶる。

この貫頭衣は、頭からかぶって首を出した後、わきにあるひもを締めてサイズを調整するのだが、左右のバランスが難しい。
片側を締めすぎると、布がどちらかに偏ってしまうのだ。

何度か失敗していると、メリアが手伝ってくれた。
毎日やってくれていたためメリアは手馴れていて、一回でぴったりに合わせてくれた。

ありがとうって、伝えたかったのだが、言葉がわからないので、微笑んで返す。
伝わっただろうか?

にっこり笑ってくれた。
伝わったようだ。

続いてズボンを履こうと手を伸ばしたが、メリアがそれを止める。

彼女は、ボクの前に来ると、しゃがんでボクのパンツを下げた。

え?なんで?
今履いたばっかじゃないか!
アタマが真っ白になった。

でも、なんだかこれまでの生活の記憶を思い出してきた。
いつも朝は顔を洗って、それから……。

トイレだ!

蘇った記憶にアタマからサーっと血の気が引いていく。

青くなったであろうボクのことはお構いなしで、いつも通りメイドたちがオマルを持ってきた。
オマルといっても、座面に穴の開いた木の椅子である。
下には陶器でできた壺がセットされていて、椅子に座って壺の中に用をたすのだ。
メイドたちの目の前で。

何かのプレイか冗談みたいな状況だが、記憶によると、それで間違いない。

昨日も何度かの小と、一回の大をしたのだ。
メイドたちの目の前で。

どうして昨日は平気だったんだろう?

そして、どうして今日はこんなに恥ずかしいんだろう?

それでも朝の尿意には勝てず、ボクはメイドたちの前でおまるに座って用を足したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...