truth?

水瀬洸

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truth?

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 長谷川琴名が自分のデスクで資料を読んでいると、上司である今村秋人が解剖所見を持って部屋に戻って来た。ひとりひとりに書類を手渡す。もちろん、部下である琴名にも、だ。
「肺に水が入ってたんですか。やっぱり、自殺の線で決定ですかね」
「いや――」今村がポケットを探るが、目的のものは見つからなかったようで、一瞬、苦渋の表情を浮かべる。「ちょっと気になることがある」「気になること?」
 行き場を失った手を組むと、「鑑識行くぞ」と言って立ち上がった。
「え、鑑識ですか!?」
「なんだ、嫌なのか?」
「嫌っていうか……その……」
 琴名が視線を彷徨わせながら言葉に窮していると、今村は強引に部下の腕を掴む。「悪いが二人一組がワンセットなんでね。ついてきてもらう」
「ちょっ、せめて心の準備!」
 しかし、可愛い部下の抵抗など見知らぬ顔で、今村は鑑識課に向かう。
「せめてあの人がいませんように、せめてあの人がいませんように」
「連呼してると、逆にいてほしいような気持ちにならないか?」
「なりません!」
 ドアをノックして中に入る。なんとなく、照明が暗いように思えるのは刑事ドラマの見過ぎのせいか。中にいた数名のうち、小太りで妙に顔に脂を浮かせた男が声をあげる。
「琴名ちゃぁん! ボクに会いに来てくれたの?」
「仕事です」
「林、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
 林、と呼ばれた小太りな男は、「えー、琴名ちゃんがメイド服着てくれたら教えてもいいかなぁ?」と、身体をくねらせる。
「誰がですかっ、それより仕事してください!」
「ちぇ、いいもん、いつか絶対に着てもらうから。――で、なに?」
 さっと顔を『鑑識員』の表情に変える。こういう時、ああ、やり手なのだな、と琴名は思う。変な性癖はともかくとして。
「現場にあしあとが残ってただろ」
「ありましたねぇ」
「あれ、裸足か? 靴を履いていたのか?」
 ふむ、と、林は首を傾けると、机の上に乗っていた書類を今村に手渡す。「裸足ですよ、間違いなくね」
「そうか」
 ぺらぺらと書類をめくりつつ、さらに質問を重ねる。「現場に靴はなかったんだよな?」「なかったですね」
 それだけ聞くと、今村は「ありがとう」と言って、琴名をつれて部屋の外に出る。
「なんなんですか? 自殺じゃないんですか?」
「自殺なら、どこかに靴が残ってるはずだろう?」「それはそうですけど……。あ、一緒に湖の中に沈んじゃったとか」「それなら湖まで素足で歩いた意味がわからない」
 簡単に反論され、琴名が黙る。「……それじゃあ、コロシ、ですか?」「もう一回、身辺を当たるぞ」「それなら部長に報告を」「面倒くさい。お前がやってこい。こっちは車の手配をしておく」「嫌ですよ、部長、めちゃくちゃ怖いじゃないですか」「いいから行け。返事は『はい』か『YES』で答えろ」「それ一択ですよね」
 有無を言わさず庶務課に向かう今村の後ろ姿を眺めながら、琴名はどうやって部長に説明しようかと頭を悩ませるのだった。
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