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研究者を支える森②
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「遊びに行ったんじゃないんだからねー! そんなことより! せっかく来たんだし花も見て回りたいな~」
これ以上アリアのペースに乗せられると、薬作りに支障が出る。
オリヴァーとの思い出は大事に蓋をして、薬作りのことだけを考えることにした。
「そうねぇ~。あっ、あの大きな木はルストレグローよ。葉っぱから採れる精油はとても爽やかで、甘ったるくて重すぎる香水に混ぜると子供も好きな香りになるわ」
ルストレグローの葉は表面に光沢があって、1枚1枚が分厚い。
「おじさんたちの毛生え薬にもなるの」
すれ違うパラスリリーの中年男性から爽やかな香りがするのは、これが原因か。
「それからねー、その薄紫の花は研究所の花畑にはないはず」
アリアが指した花は図書館の本で見覚えがある。
「本で見たことある! ピレンでしょ? 花びらが横方向の力には強くて絶対にちぎれないけど、縦方向に加えられると弱い」
知識を使える時が来てワクワクしてきた。
アリアはそんな私を先生のように褒めてくれる。
「そうそう。よく勉強してるじゃない! ピレンの精油は青色で、澄んでいるほど効果が高い、質の良い薬になるの。ストレスで体に痒みが出る人に使うことが多いわ」
その後もアリア先生の講座は続き、私は良い生徒としてグングン教えを吸収していった。
「珍しいっていえばこのくらいかなー。サクラ、あたしちょっと研究に使えそうな花を持ち帰りたいからちょっと採ってくる」
「うん、分かった。私もここら辺をブラブラしとくね」
1人で森の中を体験するのもいいことだ。
爽やかな空気と柔らかい日差しが降り注ぐ森は、警戒心を鈍らせる。
「あんまり奥に行っちゃだめよー」
アリアの助言すら耳に入らず、奥へ奥へと進んでいった。
森の奥には池があった。
空のような淡い水色が、キラキラと光を反射している。
(サイダーみたいで綺麗)
池の水を手で掬いたくなり、そろーりと近づく。
その瞬間!
水面から腕が伸びる!!
「!!!!」
透き通るような白肌と細い指に手首。
女性の腕のようだ。
――森の奥にある池も危ないなー。
オリヴァーの言葉は冗談ではなかった。
「…………!!」
腕は逃げようとする私の足首を掴んだ。
アリアに助けを呼びたいのに声が出ない。
誰かに後ろから口を押さえられているような感覚。
昔見た心霊番組を思い出す。
湖から無数の手が出て、男性が引きずり込まれるものだ。
彼はその後どうなったのだろう。
水死体で見つかったのだろうか。
だがここは湖ではなく池だ。
引きずり込まれても溺死するほどの深さはない。
こんなことを考えている間にも、腕はグイグイと私を池へと誘う。
全身で抵抗しているのに細腕一本振りほどくことができない。
私が非力なのか。
否、腕の主の力が異常に強いのだ。
上半身の力で何とか這い蹲るが、ズルズルと引きずられ、ついに足先が池に触れた。
そこからは抵抗虚しく、ボチャンと音を立てて池に引き込まれた。
池であるはずなのに、体は深く深く沈んだ。
これ以上アリアのペースに乗せられると、薬作りに支障が出る。
オリヴァーとの思い出は大事に蓋をして、薬作りのことだけを考えることにした。
「そうねぇ~。あっ、あの大きな木はルストレグローよ。葉っぱから採れる精油はとても爽やかで、甘ったるくて重すぎる香水に混ぜると子供も好きな香りになるわ」
ルストレグローの葉は表面に光沢があって、1枚1枚が分厚い。
「おじさんたちの毛生え薬にもなるの」
すれ違うパラスリリーの中年男性から爽やかな香りがするのは、これが原因か。
「それからねー、その薄紫の花は研究所の花畑にはないはず」
アリアが指した花は図書館の本で見覚えがある。
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知識を使える時が来てワクワクしてきた。
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「そうそう。よく勉強してるじゃない! ピレンの精油は青色で、澄んでいるほど効果が高い、質の良い薬になるの。ストレスで体に痒みが出る人に使うことが多いわ」
その後もアリア先生の講座は続き、私は良い生徒としてグングン教えを吸収していった。
「珍しいっていえばこのくらいかなー。サクラ、あたしちょっと研究に使えそうな花を持ち帰りたいからちょっと採ってくる」
「うん、分かった。私もここら辺をブラブラしとくね」
1人で森の中を体験するのもいいことだ。
爽やかな空気と柔らかい日差しが降り注ぐ森は、警戒心を鈍らせる。
「あんまり奥に行っちゃだめよー」
アリアの助言すら耳に入らず、奥へ奥へと進んでいった。
森の奥には池があった。
空のような淡い水色が、キラキラと光を反射している。
(サイダーみたいで綺麗)
池の水を手で掬いたくなり、そろーりと近づく。
その瞬間!
水面から腕が伸びる!!
「!!!!」
透き通るような白肌と細い指に手首。
女性の腕のようだ。
――森の奥にある池も危ないなー。
オリヴァーの言葉は冗談ではなかった。
「…………!!」
腕は逃げようとする私の足首を掴んだ。
アリアに助けを呼びたいのに声が出ない。
誰かに後ろから口を押さえられているような感覚。
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彼はその後どうなったのだろう。
水死体で見つかったのだろうか。
だがここは湖ではなく池だ。
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こんなことを考えている間にも、腕はグイグイと私を池へと誘う。
全身で抵抗しているのに細腕一本振りほどくことができない。
私が非力なのか。
否、腕の主の力が異常に強いのだ。
上半身の力で何とか這い蹲るが、ズルズルと引きずられ、ついに足先が池に触れた。
そこからは抵抗虚しく、ボチャンと音を立てて池に引き込まれた。
池であるはずなのに、体は深く深く沈んだ。
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