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衝撃④
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突然の意思表明に沈黙が流れ、オリヴァーがポツリと言い放った。
「駄目だ。僕は許さない」
今まで希望することは何でも受け入れてくれたオリヴァーらしからぬ反応だ。
「お願いします」
深く考え込むリチャードとは対照的に、オリヴァーは目すら合わせようとしない。
「駄目だ」
話し合いの意思を見せず、ただ反対を続ける。
ピリッとした空気を察してか、リチャードが説得に入る。
「サクラ、航海はお前が思っているほど楽ではないし、命を落とす危険がある。その上、お前が足手まといになったらウォルトンを連行できないばかりか、俺の部下まで危険に晒される。そうなったら俺が容赦しない」
あえて使われた強い言葉は、考え直すようにとリチャードからの説得だろう。
オリヴァーはそんなリチャードすらも咎めるような目線を向け、いつになく苛立っているようだ。
「危険は承知です。ここほど平和な国はないでしょう。でも、私は自分の目で確かめたい。自分を殺そうとした人がどんな想いで毒を作ったのか。それには彼が暮らす場所に行ってみないと分からないじゃないですか!」
ここでハッタリをかましてみる。
「お言葉ですが、私は2人より過酷な世界を知ってるんですよ! 私がどこから来たか忘れちゃったんですか?」
ただの社畜が、あたかも地獄を見てきた兵士のようにアピールする。
ウォルトン連行に関して何ができるかと問われれば、返す言葉がない。
しかし私の強硬な態度はリチャードの説得には成功した。
「本当に大丈夫なんだな? 任務を完了し、お前も無事に帰って来られるんだな?」
念押しするリチャードに「うんうん」と頷く。
オリヴァーはすっかり懐柔されてしまったリチャードを睨んだ。
「駄目だリチャード!! 僕たちの手の届かない範囲に行かせて、誰が守るんだよ!!」
リチャードは部下を軽く見る発言に少しムッとしたが、冷静さを失っているオリヴァーを許し諭すように語りかける。
「お前の気持ちも分かるが、サクラのことはサクラが決めるべきだ。たとえ俺たちが止めても、こいつはナリスバーグに行くだろう」
長い沈黙の後、オリヴァーはようやく口を開いた。
「……そうだね。サクラの勝手にすればいい。僕は認めないってだけだよ」
そう言い捨てたオリヴァーは自室へと帰ってしまった。
「ほっとけ。あいつの心もあいつが決めることだ。明後日、夜更けに出航しろ。いいか、このことは誰にも口外してはならないし、船着場には一人で来い」
リチャードが帰った後、一人ぼっちになって胸にモヤモヤが広がる。
(3日間看病してくれたのに怒らせっちゃたな。でもあんなに反対するなんて、どうして分かってくれないんだろう)
オリヴァーと初めて喧嘩した日の夜は、自分の弱さを痛感させるのだった。
「駄目だ。僕は許さない」
今まで希望することは何でも受け入れてくれたオリヴァーらしからぬ反応だ。
「お願いします」
深く考え込むリチャードとは対照的に、オリヴァーは目すら合わせようとしない。
「駄目だ」
話し合いの意思を見せず、ただ反対を続ける。
ピリッとした空気を察してか、リチャードが説得に入る。
「サクラ、航海はお前が思っているほど楽ではないし、命を落とす危険がある。その上、お前が足手まといになったらウォルトンを連行できないばかりか、俺の部下まで危険に晒される。そうなったら俺が容赦しない」
あえて使われた強い言葉は、考え直すようにとリチャードからの説得だろう。
オリヴァーはそんなリチャードすらも咎めるような目線を向け、いつになく苛立っているようだ。
「危険は承知です。ここほど平和な国はないでしょう。でも、私は自分の目で確かめたい。自分を殺そうとした人がどんな想いで毒を作ったのか。それには彼が暮らす場所に行ってみないと分からないじゃないですか!」
ここでハッタリをかましてみる。
「お言葉ですが、私は2人より過酷な世界を知ってるんですよ! 私がどこから来たか忘れちゃったんですか?」
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しかし私の強硬な態度はリチャードの説得には成功した。
「本当に大丈夫なんだな? 任務を完了し、お前も無事に帰って来られるんだな?」
念押しするリチャードに「うんうん」と頷く。
オリヴァーはすっかり懐柔されてしまったリチャードを睨んだ。
「駄目だリチャード!! 僕たちの手の届かない範囲に行かせて、誰が守るんだよ!!」
リチャードは部下を軽く見る発言に少しムッとしたが、冷静さを失っているオリヴァーを許し諭すように語りかける。
「お前の気持ちも分かるが、サクラのことはサクラが決めるべきだ。たとえ俺たちが止めても、こいつはナリスバーグに行くだろう」
長い沈黙の後、オリヴァーはようやく口を開いた。
「……そうだね。サクラの勝手にすればいい。僕は認めないってだけだよ」
そう言い捨てたオリヴァーは自室へと帰ってしまった。
「ほっとけ。あいつの心もあいつが決めることだ。明後日、夜更けに出航しろ。いいか、このことは誰にも口外してはならないし、船着場には一人で来い」
リチャードが帰った後、一人ぼっちになって胸にモヤモヤが広がる。
(3日間看病してくれたのに怒らせっちゃたな。でもあんなに反対するなんて、どうして分かってくれないんだろう)
オリヴァーと初めて喧嘩した日の夜は、自分の弱さを痛感させるのだった。
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