上 下
17 / 77

いざパーティーへ!

しおりを挟む
 クロエが待つキャボット邸は一般居住ブロックとは離れた場所にある。

 いわゆるパラスリリーの中でも特に裕福な層が集まるブロックで、とりわけ豪奢なのがキャボット邸である。

 大きな正門は開け放たれて、パーティーのゲストたちを迎え入れる。
 手入れが行き届いた庭は端がどこにあるか、正門からは確認できない。

「わあ、豪邸ですね! 図書館より大きな建物があっただなんて!」

「こっちに来る用事なんてそうないからね。キャボット商会はパラスリリー随一の貿易業を営んでるから、羽振りが良いんだよ。研究所とは大違いだね」

 バツが悪そうなオリヴァーはいつもと違い正装に着替えている。


「サクラー! あなたも誘われてたのね! ドクター、この子借りるわよー!」

 アリアも招待状を受け取っていたようだ。
 オリヴァーにブンブンと手を振ると、私の手を掴んで玄関に向かう。

「初めてのパーティーだから緊張しちゃって……」

「大丈夫よ! 楽しい時間を過ごすことだけがルールなんだから。それに今のあたしたちはとっても可愛いわ!」

 アリアはシュッと香水を吹きかけた。

「これは『自分を解放する』おまじないよ! 今日は思い切り楽しみましょ」

 
 すでにパーティーは始まっており、広すぎる玄関を通ってパーティー会場である客間に入った。

「ねえ見て! これどこのグラスかしら? この前はなかったから今日のために新調したのね」

 アリアは目に見える全てに感激している。

 すっかり異世界での生活が日常として馴染んでいたが、この空間は非日常だ。

 高級そうな器に、有名な芸術家が描いたのだろう絵画もたくさん飾られている。

 この世界のありとあらゆるトレンドがここに集まっているのではないだろうか。
 
 
 フワフワした気持ちでいると、同年代と思しき女の子に声をかけられた。

「あなたがサクラさん?」

「はい、はじめまして。サクラです」

 周囲の女の子たちが視線を集める。

「あなたがあのサクラさんなのね!」

「いいなあ~。ドクターと一緒に住んでるんでしょう?」

「どこからいらしたの?」

「ねえ、ドクターの秘密とか教えてよぉー」

 女の子たちから質問攻めに合う。
 ほとんどがドクター関連だったけど……。

 でもパーティーの雰囲気に乗せられて普段よりおしゃべりになる。

 リチャードによって「グレイトノード」から来たことになっている私は、外の国をある程度知っている設定になっている。

(良かった。図書館で勉強してて)

 気付けば緊張はほぐれ、パーティーを存分に楽しむのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 一方、オリヴァーはクロエと庭園にいた。

「オリー、来てくれたのね。とっても嬉しいわ」

「アハハ…久しぶりだね」

 オリヴァーは煌びやかな宝石を身にまとうクロエを一瞥して苦笑いした。

「研究所の彼女、何てお名前だったかしら?」

「ああ、サクラだよ。彼女が花の管理をしてくれるから研究に集中できるんだ」

 にこやかにサクラを褒めるオリヴァーにクロエは表情を硬くする。

「……そう。今日はサクラさんの歓迎会も兼ねているのです。明日と明後日は今日呼べなかった人が来てくださるの。わたくし、オリーには明日も来て欲しいわ!」

「ハハッ、相変わらずクロエは派手なことが好きだなあ」

 
 クロエはわざとらしく腕を組んで不満を漏らす。

「リック兄様はどうして来てくださらないのかしら? 遣いの者まで送ってお誘いしましたのに」

「リチャードは責任感が強いからね。公私混同するわけにはいかないだろ?」

 オリヴァーは会話はするものの、クロエとあまり目を合わせないようにしている。

「ねぇ、オリー。今日は色んな方に先の貿易について聞かれたのよ。航海中の天候悪化やハリヤードの皇太子のことに、この宝石の話。オリーも聞きたい?」

 小首をかしげて上目遣いをするクロエ。

「ああ……僕は外のことには興味ないかな。クロエが無事に帰って来て嬉しいよ」

 期待外れの返事にクロエは顔を曇らせた。

「でしたらわたくしはオリーの話が聞きたいわ。わたくしがいない間の面白い話を教えてくださらない?」

「サクラが研究所に来て……、ああそうだ! この前サクラが薬を作ったんだよ! パラスリリーの人しか作れないって言われてるけど、そうじゃないかもしれない。最近はサクラが料理も準備してくれんだけど、僕の知らない料理もあって食事の時間も楽しいな。食事中の会話で、今まで気付かなかったことが見えてくることもある。きっとサクラは――」

 クロエは突然饒舌になるオリヴァーに驚いた。
 それと同時に今までとは違う人間の名前を出すオリヴァーを快く思わなかった。


「オリー」

 先ほどまでの優雅でどこか媚びたような声色から一変し、抑えのきいた声だった。

「その話はもういいわ。わたくし何だか頭が痛いので、ここで失礼します」

 立ち去ろうとするクロエをオリヴァーは心配する。

「大丈夫? 薬、作ろうか?」
 
「お気遣いありがとう、オリー。わたくしの薬は従者が管理しているから大丈夫。気になさらずパーティーを楽しんで」

 オリヴァーに背を向けたクロエの笑みは引き攣り始めていたが、ゲストたちは談笑に夢中で悟られることはなかった。
 
 
 そしてクロエは平常心を取り戻しゆっくりとした足取りで屋敷内に入るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新婚初夜で「おまえを愛することはない」と言い放たれた結果

アキヨシ
恋愛
タイトル通りテンプレの「おまえを愛することはない」と言われた花嫁が、言い返して大人しくしていなかったら……という発想の元書きました。 全編会話のみで構成しております。読み難かったらごめんなさい。 ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みくださいませ。 ※R15は微妙なラインですが念のため。 ※【小説家になろう】様にも投稿しています。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

処理中です...