異世界では香りに包まれて幸せに暮らします

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招待状

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 リチャードは薬を作ることができない。

 幼い頃は他の人と同じように作っていたらしい。

「リチャードは自警団の仕事を背負い過ぎたんだよ」

 と教えてくれたのはオリヴァー。

 パラスリリーの平和を守るのは自警団の仕事だが、その中でも人に言えないような辛い仕事を担っているのがリチャードらしい。

「どんな人にも邪な心は芽生える。パラスリリーも決して事件や犯罪とは無縁なわけじゃないんだよ」

 元の世界よりずっと美しいと思えた世界だが、私は何も知らないのかもしれない。

「罪を犯してしまった人を放置すると、皆の心が荒む。でも大々的に処罰するのはもっと心に悪影響を及ぼす」

 今も昔も洋の東西を問わず、処刑は庶民の娯楽だ。
 道行く人間が悪人だと知った瞬間に石を投げたくなる。

 異世界でもそれは変わらず、パラスリリーの人々は心の豊かさを保つために罪という意識からなるべく遠いところで生活している。

(でも、それって臭い物に蓋をしているだけなんじゃ……)

「だから僕がリチャードの薬を作るんだ」

 幼馴染の絆というやつだろう。

 

 今日はリチャードが薬をもらいに来る日だ。

 ワーカホリックの朝は早く、いつも私がまだ研究所でのんびりしている時に訪れる。

 やり方には共感できない部分もあるが、リチャードの犠牲があってこそ保たれた今の平和があるわけで。

 だから私はリチャードが来ると、普段言えない分の「ありがとう」を伝える。

 少し照れてぶっきらぼうに

「お前は小難しいことは考えずに、早く一人前になれ!」

 と喝を入れるリチャードはお兄ちゃんみたいだ、

 あの日屯所で会った時よりも砕けた態度と口調になったのは、仲良くなったからと勝手に解釈している。



 しかし今日はなかなか来ない。

「リチャードさん遅いですね」

「寝坊するようなヤツじゃないんだけど……」

 いよいよ心配し始めた時、研究所の扉が開いた。

「すまない。遅れた」

「珍しいね。顔色が悪いようだし、ゆっくり休める薬を増やそうか?」

 謝罪はしているものの、リチャードは苛立ちを隠しきれない。

「クロエだ! あいつを何とかしろオリヴァー」

 クロエとは「クロエ嬢」という愛称で親しまれている素敵な女性だ。

 この前マーケットで少しだけ会話したが、上品な雰囲気が印象に残っている。

「クロエがどうかしたの?」

「あいつがパーティーに参加しろってうるさいんだよ! 俺は絶対に行かないからな! そもそも自警団の長が休暇でもないのに酒の席に出るなど…………」

 堰を切ったようにクドクドと話し出す。
 
 残念ながらリチャードの怒りは私に響かなかった。

(お金持ちはこんな何でもない日にもパーティーするんだぁ~)

 
 マーケットで会ったクロエは一段と煌びやかで、いかにもお金持ちだった。

 テレビでしか知らないセレブの生活をこんな近くで見られるのは、やっぱり平和な国だからだ。

 まだ話し足りないリチャードだが、オリヴァーも私も明後日の方を見ている。
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