15 / 77
招待状
しおりを挟む
リチャードは薬を作ることができない。
幼い頃は他の人と同じように作っていたらしい。
「リチャードは自警団の仕事を背負い過ぎたんだよ」
と教えてくれたのはオリヴァー。
パラスリリーの平和を守るのは自警団の仕事だが、その中でも人に言えないような辛い仕事を担っているのがリチャードらしい。
「どんな人にも邪な心は芽生える。パラスリリーも決して事件や犯罪とは無縁なわけじゃないんだよ」
元の世界よりずっと美しいと思えた世界だが、私は何も知らないのかもしれない。
「罪を犯してしまった人を放置すると、皆の心が荒む。でも大々的に処罰するのはもっと心に悪影響を及ぼす」
今も昔も洋の東西を問わず、処刑は庶民の娯楽だ。
道行く人間が悪人だと知った瞬間に石を投げたくなる。
異世界でもそれは変わらず、パラスリリーの人々は心の豊かさを保つために罪という意識からなるべく遠いところで生活している。
(でも、それって臭い物に蓋をしているだけなんじゃ……)
「だから僕がリチャードの薬を作るんだ」
幼馴染の絆というやつだろう。
今日はリチャードが薬をもらいに来る日だ。
ワーカホリックの朝は早く、いつも私がまだ研究所でのんびりしている時に訪れる。
やり方には共感できない部分もあるが、リチャードの犠牲があってこそ保たれた今の平和があるわけで。
だから私はリチャードが来ると、普段言えない分の「ありがとう」を伝える。
少し照れてぶっきらぼうに
「お前は小難しいことは考えずに、早く一人前になれ!」
と喝を入れるリチャードはお兄ちゃんみたいだ、
あの日屯所で会った時よりも砕けた態度と口調になったのは、仲良くなったからと勝手に解釈している。
しかし今日はなかなか来ない。
「リチャードさん遅いですね」
「寝坊するようなヤツじゃないんだけど……」
いよいよ心配し始めた時、研究所の扉が開いた。
「すまない。遅れた」
「珍しいね。顔色が悪いようだし、ゆっくり休める薬を増やそうか?」
謝罪はしているものの、リチャードは苛立ちを隠しきれない。
「クロエだ! あいつを何とかしろオリヴァー」
クロエとは「クロエ嬢」という愛称で親しまれている素敵な女性だ。
この前マーケットで少しだけ会話したが、上品な雰囲気が印象に残っている。
「クロエがどうかしたの?」
「あいつがパーティーに参加しろってうるさいんだよ! 俺は絶対に行かないからな! そもそも自警団の長が休暇でもないのに酒の席に出るなど…………」
堰を切ったようにクドクドと話し出す。
残念ながらリチャードの怒りは私に響かなかった。
(お金持ちはこんな何でもない日にもパーティーするんだぁ~)
マーケットで会ったクロエは一段と煌びやかで、いかにもお金持ちだった。
テレビでしか知らないセレブの生活をこんな近くで見られるのは、やっぱり平和な国だからだ。
まだ話し足りないリチャードだが、オリヴァーも私も明後日の方を見ている。
幼い頃は他の人と同じように作っていたらしい。
「リチャードは自警団の仕事を背負い過ぎたんだよ」
と教えてくれたのはオリヴァー。
パラスリリーの平和を守るのは自警団の仕事だが、その中でも人に言えないような辛い仕事を担っているのがリチャードらしい。
「どんな人にも邪な心は芽生える。パラスリリーも決して事件や犯罪とは無縁なわけじゃないんだよ」
元の世界よりずっと美しいと思えた世界だが、私は何も知らないのかもしれない。
「罪を犯してしまった人を放置すると、皆の心が荒む。でも大々的に処罰するのはもっと心に悪影響を及ぼす」
今も昔も洋の東西を問わず、処刑は庶民の娯楽だ。
道行く人間が悪人だと知った瞬間に石を投げたくなる。
異世界でもそれは変わらず、パラスリリーの人々は心の豊かさを保つために罪という意識からなるべく遠いところで生活している。
(でも、それって臭い物に蓋をしているだけなんじゃ……)
「だから僕がリチャードの薬を作るんだ」
幼馴染の絆というやつだろう。
今日はリチャードが薬をもらいに来る日だ。
ワーカホリックの朝は早く、いつも私がまだ研究所でのんびりしている時に訪れる。
やり方には共感できない部分もあるが、リチャードの犠牲があってこそ保たれた今の平和があるわけで。
だから私はリチャードが来ると、普段言えない分の「ありがとう」を伝える。
少し照れてぶっきらぼうに
「お前は小難しいことは考えずに、早く一人前になれ!」
と喝を入れるリチャードはお兄ちゃんみたいだ、
あの日屯所で会った時よりも砕けた態度と口調になったのは、仲良くなったからと勝手に解釈している。
しかし今日はなかなか来ない。
「リチャードさん遅いですね」
「寝坊するようなヤツじゃないんだけど……」
いよいよ心配し始めた時、研究所の扉が開いた。
「すまない。遅れた」
「珍しいね。顔色が悪いようだし、ゆっくり休める薬を増やそうか?」
謝罪はしているものの、リチャードは苛立ちを隠しきれない。
「クロエだ! あいつを何とかしろオリヴァー」
クロエとは「クロエ嬢」という愛称で親しまれている素敵な女性だ。
この前マーケットで少しだけ会話したが、上品な雰囲気が印象に残っている。
「クロエがどうかしたの?」
「あいつがパーティーに参加しろってうるさいんだよ! 俺は絶対に行かないからな! そもそも自警団の長が休暇でもないのに酒の席に出るなど…………」
堰を切ったようにクドクドと話し出す。
残念ながらリチャードの怒りは私に響かなかった。
(お金持ちはこんな何でもない日にもパーティーするんだぁ~)
マーケットで会ったクロエは一段と煌びやかで、いかにもお金持ちだった。
テレビでしか知らないセレブの生活をこんな近くで見られるのは、やっぱり平和な国だからだ。
まだ話し足りないリチャードだが、オリヴァーも私も明後日の方を見ている。
0
お気に入りに追加
156
あなたにおすすめの小説
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
あいつは悪魔王子!~悪魔王子召喚!?追いかけ鬼をやっつけろ!~
とらんぽりんまる
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞、奨励賞受賞】ありがとうございました!
主人公の光は、小学校五年生の女の子。
光は魔術や不思議な事が大好きで友達と魔術クラブを作って活動していたが、ある日メンバーの三人がクラブをやめると言い出した。
その日はちょうど、召喚魔法をするのに一番の日だったのに!
一人で裏山に登り、光は召喚魔法を発動!
でも、なんにも出て来ない……その時、子ども達の間で噂になってる『追いかけ鬼』に襲われた!
それを助けてくれたのは、まさかの悪魔王子!?
人間界へ遊びに来たという悪魔王子は、人間のフリをして光の家から小学校へ!?
追いかけ鬼に命を狙われた光はどうなる!?
※稚拙ながら挿絵あり〼
【完結】アシュリンと魔法の絵本
秋月一花
児童書・童話
田舎でくらしていたアシュリンは、家の掃除の手伝いをしている最中、なにかに呼ばれた気がして、使い魔の黒猫ノワールと一緒に地下へ向かう。
地下にはいろいろなものが置いてあり、アシュリンのもとにビュンっとなにかが飛んできた。
ぶつかることはなく、おそるおそる目を開けるとそこには本がぷかぷかと浮いていた。
「ほ、本がかってにうごいてるー!」
『ああ、やっと私のご主人さまにあえた! さぁあぁ、私とともに旅立とうではありませんか!』
と、アシュリンを旅に誘う。
どういうこと? とノワールに聞くと「説明するから、家族のもとにいこうか」と彼女をリビングにつれていった。
魔法の絵本を手に入れたアシュリンは、フォーサイス家の掟で旅立つことに。
アシュリンの夢と希望の冒険が、いま始まる!
※ほのぼの~ほんわかしたファンタジーです。
※この小説は7万字完結予定の中編です。
※表紙はあさぎ かな先生にいただいたファンアートです。
リュッ君と僕と
時波ハルカ
児童書・童話
“僕”が目を覚ますと、
そこは見覚えのない、寂れた神社だった。
ボロボロの大きな鳥居のふもとに寝かされていた“僕”は、
自分の名前も、ママとパパの名前も、住んでいたところも、
すっかり忘れてしまっていた。
迷子になった“僕”が泣きながら参道を歩いていると、
崩れかけた拝殿のほうから突然、“僕”に呼びかける声がした。
その声のほうを振り向くと…。
見知らぬ何処かに迷い込んだ、まだ小さな男の子が、
不思議な相方と一緒に協力して、
小さな冒険をするお話です。
【完結】お試しダンジョンの管理人~イケメンたちとお仕事がんばってます!~
みなづきよつば
児童書・童話
異世界ファンタジーやモンスター、バトルが好きな人必見!
イケメンとのお仕事や、甘酸っぱい青春のやりとりが好きな方、集まれ〜!
十三歳の女の子が主人公です。
第1回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。
投票よろしくお願いします!
《あらすじ》
とある事情により、寝泊まりできて、働ける場所を探していた十三歳の少女、エート。
エートは、路地裏の掲示板で「ダンジョン・マンション 住み込み管理人募集中 面接アリ」というあやしげなチラシを発見する。
建物の管理人の募集だと思い、面接へと向かうエート。
しかし、管理とは実は「お試しダンジョン」の管理のことで……!?
冒険者がホンモノのダンジョンへ行く前に、練習でおとずれる「お試しダンジョン」。
そこでの管理人としてのお仕事は、モンスターとのつきあいや、ダンジョン内のお掃除、はては、ゴーレムづくりまで!?
おれ様イケメン管理人、ヴァンと一緒に、エートがダンジョンを駆けまわる!
アナタも、ダンジョン・マンションの管理人になってみませんか?
***
ご意見・ご感想お待ちしてます!
2023/05/24
野いちごさんへも投稿し始めました。
2023/07/31
第2部を削除し、第1回きずな児童書大賞にエントリーしました。
詳しくは近況ボードをご覧ください。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる