ロッコ

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9.病気の国

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 ロッコは機械だって動物だって、言葉を使わなくなって、幸福を感じてしまうことを知りました。

 残りの幸せが2つしかない彼にとって、生きているものは危険でした。


 ロッコはあることを思いつきました。

 生きることの反対は死です。

 いつも死に直面した国ならば、住人たちはロッコの平凡な毎日を邪魔しないのではないか、と。


 まず最初に訪れたのは、争いが絶えない国でした。

 いつもどこかの国と戦争をしていて、住人たち同士もいがみ合っていました。

 ロッコはしばらく身を置きましたが、すぐに出発しなければなりませんでした。

 寝床にと用意した場所は、すぐに侵略者によって破壊されるからです。

 この国で頭上の数字を減らす出来事は全くありませんでしたが、ロッコにとっては不幸な国でした。


 住人たちが絶望し、ロッコの安全を確保できる国を探しました。

 そうやってたどり着いたのが、病気の国です。


 病気の国は、かつて長寿の国でした。

 人間は長生きすると、心を穏やかに落ち着かせるか、子供のように振舞うか、に分かれます。



 ある住人は自分は長生きしたのだから皆に敬われて当然だ、と言いふらしていました。

 幼い子供の姿をした神様は

「なら私はお前より敬われるべきだ」

 と言いました。

 この子供が神様だとは思っていないので、いつものように言い負かしてやろうと考えました。


 住人はこのように立派なあごひげを持った人物は皆に畏れられて当然だ、と踏ん反り返りました。

 神様は

「なるほど。確かに私にはあごひげがない。だが、赤子を年寄りに変えてお前に負けないあごひげをたくわえさせることができる」

 と言って、国中に疫病をばら撒きました。

 この神様は人間に疫病をもたらすとして畏れられていた神様だったのです。


 疫病にかかった住人たちは、子供から年寄りまで、髪を真っ白にし体中の皮膚はしわくちゃに、長く伸び切った眉毛と髭は、曲がった腰のせいで地面に着いていました。

 住人たちはハリのないしゃがれ声で神様に赦しを乞いましたが、元には戻りませんでした。


 それからというもの、長寿の国では長生きするものがほとんどいなくなってしまいました。

 流行病はこの国から発生するので、世界中から研究者が集まり調査しています。

 いつしかこの国にはたくさんの研究施設や医療機関が作られ、不治の病にかかった人が訪れるようになりました。

 現在、長寿の国は病気の国と呼ばれ、かつての面影を失いました。


 長旅で空腹のロッコは、療養所の前に座り込みました。

 ロッコを最初に見つけたのは施設長でした。


「こんなところで、具合が悪いのかい?」

「お腹が空いて……」

 施設長は大変うぬぼれ屋で、患者が健康になるには、自分が善人であればいいと考えていました。

 
 施設長は善人であることの証明に、ロッコを療養所の中に入れ、食事を与えました。

 そして簡単な手伝いをすることを条件に、ロッコが療養所で生活することを許可しました。


 簡単な手伝いとは、患者とお話しをすることです。

 ロッコは旅の経験上、それはあまり良くない条件だと思いました。

 療養所を飛び出し、どこか1人でまったり過ごせる場所を探しました。


 数十分後、ロッコは療養所に戻って来ていました。

 乱立する研究所は、大事な情報を盗まれるのを嫌って部外者の立ち入りに厳しく、ロッコはバレないように入っても警報音によってすぐにつまみ出されてしまいました。

 この国でロッコを受け入れてくれるのは、療養所だけのようです。


 ロッコは療養所で手伝いをすることになりました。

 この療養所には30人ほどの患者がいます。

 広い部屋に均等にベッドが置かれ、患者同士を隔てるものは何もありません。




 重い感染症を患っている人は入れません。

 ここにいるのは、病気が進行し先が長くない人たちです。

 減っては増え減っては増えを繰り返す患者数は、施設長が付けている日誌から読み取ることができます。

 施設長は患者たちが集められた部屋を、「ゆりかごの部屋」と呼んでいます。

 明日を生き抜くことよりも、健康な体を持って生まれ変わることを望んでいました。




 ロッコのこれまでの旅はたくさんの刺激と後悔に満ちていました。

 きっと疲れていたのでしょう。

 ロッコはゆりかごの部屋に入った途端、浅ましい考えが浮かびました。

 ここにいる人たちよりずっと自分は幸せ者だと――。


 ついにロッコの頭上の数字は2から1になりました。 
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