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決戦間近

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 衝撃的な処刑を終え、俺たちは各自部屋で休むことにした。

 俺は精神的には落ち着いたものの、肉体的な疲労がどっと押し寄せていた。
 

 久しぶりの部屋。

 俺にこの部屋を与えた人間がいなくなったのに使い続けても良いだろうか?

 新王による統治が整い次第、部屋もグレードダウンか?

 

 しばらく仮眠を取り、ノックの音で目を覚ました。


「どうぞ」

 入ってきたのはジュンだった。


「ジュン! 久しぶりだな! 元気にしてたか?」

「はい!マヤっ、えっと……」

 そうか、もう俺はマヤじゃなくなったんだ。


「えーっと、実は俺も純なんだよね……。良い名前だと思って……ハハハ」

 どんだけ自分の名前が好きなんだ俺は!!

「えへへ、純様と同じ名前で光栄ですよ!」

 様を付けられるとくすぐったい気持ちになる。


「王宮を追い出されてジュンに会えなくなるところだったよ。俺の立場は変わるみたいだけど、これからもよろしくな!」

「純様がどこにお仕えしても、私はお話ができればそれで良いです」

 久しぶりのジュンで疲れが一気に消し飛んだ。


「すっかり知れ渡ったことだと思うけど、実は――」

 俺は北の台地での平穏な生活を話した。

 そのお礼に、ジュンは俺がいない間の王宮を教えてくれた。


 宰相は捕まるわ、王様は変わるわで、王宮内は一時パニックになったらしい。

 それを周辺国に悟られぬよう、平静を装えと指示されたのが最も困ったそうだ。

 指示を出した大臣たちの顔面蒼白っぷりを見てみたかったなー。


「そういえば、ハンスからハンカチを返してもらった?」

 ジュンの顔がハッとした。

 まだ返ってきてないみたいだ。

 血が付いてたから、洗ってから返すのか。


「ハンスは必ず返すって言ってたけど、それは後日になるかな」

「もちろん、ユーホルト様のことですから、心配していません。それより私がここへ来たのは、ユーホルト様からの伝言を預かっているからです。純様との再会を懐かしんで、忘れていました!」

 ハンスから伝言?

 部屋に戻る時に言い忘れたことでもあったのか?


「ハンスは何て?」

「純様に『約束を覚えているか?』と」

 約束――。

 ずっと前、まだ罪人として裁判にかけられるより前にした約束だ。


「……純様? お顔が赤いですよ? 医師をお呼びしますか?」

「へっ!? ああ、これは大丈夫。別に俺は元気だから……」

 今夜ってことだよな?

 そう思うと、心臓がバクバクする。

 一度は腹を括ったが、またふりだしに戻ったようだ。


「では、私はまだ仕事が残っていますので」


 ジュンが帰り、独りとなった部屋で、俺は何度も深呼吸した。

 ハンスは今、何を思ってるんだろう。

 こんなことを考えるのは、遠い北の台地にいるからだと思っていた。

 だが、すぐ会える距離にいても同じみたいだ。

 気付かないうちに、ハンスは俺の人生の中心にいるんだ。
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