上 下
68 / 77

ハーフハーフバースデー②

しおりを挟む
 葉っぱと豆ばかりだが、たくさんの料理が並んでいる。

 この中から好きな物を食べて良いって言われると、好物じゃなくても食指が動くものだ。


 ナタリーは俺とアリスを食べ盛りの子供のように扱う。

「アンタたちはいっぱい食べないといけないからね!」

「そうだぞ! 次の赤ん坊はお前らの血を引くかもしれねぇんだ!!」

 俺たちは世にも珍しい男女の友情を成立させた若者だ。

 だが、若者同士をすぐにくっつけたがるお節介なオッサンオバハンたちには、そう見えないらしい。


「ちょっと!! 違うって言ってるでしょ!!」

 アリスがムキになって反論するから、それが可愛くてわざとやってるオッサンもいるだろうな。

「お前がいちいち突っかかるから――」

「うるさい! アンタは黙ってて!!」


「まあまあ、そんなに喧嘩しないで。仲が良ければどっちでも良いじゃない」

 ナタリーが大皿をドンッと俺たちの前に置いた。

「作って食べて寝て、起きたらまた作って食べる。これもペトロネッラ様のご加護のおかげだよ。肉はないけど、野菜ならたくさんあるよ。ちゃんと野菜を食べってね!」


「あらやだ、アタシ、ちょっと若者ぶっちゃったかしら~」

「あなたは、まだまだ若いんだから大丈夫よっ!!」


「ふふ、ナタリーさんって面白ろ……、っ! アンタどうしたの!?」

 俺は泣いていた。

「……ごめん。……不意を突かれたっていうか、……ハハハ……こんな楽しい日に泣くとか、意味分かんないよな」


 ナタリーたちは俺の異変に気付くと、すぐに愉快な談笑を止めて心配し始めた。

 それは遠くの大人たちにも伝播し、場の空気が静まり返り、イヴの笑い声だけが響いている。


 あのつまらないダジャレは本当に流行ってたんだな。

 あの時ハンスは俺のために先回りして守ってくれてたんだな。

 冤罪が判明した後も、俺を心配して来てくれた。

 俺はそういうのを全然知らずに、ハンスとの時間を楽しんでただけだった。


 いつになったら迎えに来るんだよ?

 今、何をしてるんだ?

 やっぱり俺は何も知らなくて、もう星に想いを託すだけじゃ気持ちが溢れてしまう。

 
「大丈夫かい? アタシが変なことを言っちゃったからかね~」

 ナタリーは自分のせいで泣かしたと罪悪感を抱いている。

 違うよ、俺は独占欲とか執着とか、己の中のドロドロした部分に負けてしまったんだ。


「皆、少し話したいことがあるんだ」



 俺は全てを話した。

 元々王宮にいた人間で、皆に嫌われたくなくて隠してたこと。

 王宮では宰相付きの男娼マヤであったこと。

 ソール騎士団長ハンス・ユーホルトと恋に落ちたこと。

 宰相に見つかり、身に覚えのない罪まで着せられ重罪人になったこと。

 俺はハンスの迎えを待っていること。


 話し終えると鼻をすする音がした。

「ジューンがあたしたちとは違う身分だってのは何となく分かってたんだけど、大変だったのねぇ」

 ブルーノは腕を組みふんぞり返っている。

「泣いたって腹の足しにはなりゃしねぇ。ここで泣いていいのは赤子だけだ。とっとと涙を拭けバカ野郎」

「そう言うけど、あんただってこの間泣いてたじゃねぇか。『ジューンが元々何をしてようが、家族なんだから気にすんな』って言ってやりゃあいいのに」

「うるせぇ! 俺はそんなこと一言も言ってねぇぞ!」


 少しずつ場の雰囲気が軽くなった。

 俺も話せて良かったと思う。

 皆の話を聞くばかりで、自分の過去は話せていなかった。

 ようやく対等な関係になれたような気がして、胸のつっかえが取れた。


 アリスは

「ナタリーさん、さっきのスープ残ってる? ジューンはもっと栄養が必要みたいだから飲ませてあげてよ」

 と俺のサプライズな行動に、ほんのちょっとの意地悪で返した。

「まだ残ってるかもしれないから見てくるわねー」

 ナタリーは律儀にもアリスのお願いに応えた。


「アンタは私たちと一緒だよ。ここにいるみーんな罪人で、元の身分とか関係ないの。だから胸張りなよ!」

 アリスに背中をバンと叩かれ、グフっと空気が漏れた。

「止めろって。さっきのスープが出るだろ!」

「ふふ、あともう1杯飲めるんだから、感謝しなさいよ」


 ハンスを想って欠けてしまった部分はハンスにしか戻せない。

 だが、欠けた部分の周りは家族によってどんどん温かくなってくる。

 真ん中は冷たくてそれを自覚するたびに苦しくなるけど、傍に感じる温もりが俺を微睡みの中へと誘う。

 俺は今まで人との繋がりをぞんざいにしてきたのかもしれない。

 アレもコレも大切だって、今更気付いたんだから。



 ワイワイと騒がしさを取り戻した中。

「きゃあーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 とナタリーの叫び声が響いた――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

捨てられ子供は愛される

やらぎはら響
BL
奴隷のリッカはある日富豪のセルフィルトに出会い買われた。 リッカの愛され生活が始まる。 タイトルを【奴隷の子供は愛される】から改題しました。

獣人彼氏のことを童貞だと思って誘おうとしたら、酷い目にあった話

のらねことすていぬ
BL
異世界トリップして、住人の9割が獣人の世界に住み始めたアラサーのアオ。この世界で仕事も恋人もできて問題ない生活を送っている……ように見えたが、一つ不満があった。それは恋人である豹の獣人、ハンスが彼と最後までセックスしないことだった。彼が童貞なのでは?と思い誘ってみることにしたが……。獣人×日本人。♡喘ぎご注意ください。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

国王様は新米騎士を溺愛する

あいえだ
BL
俺はリアン18歳。記憶によると大貴族に再婚した母親の連れ子だった俺は5歳で母に死なれて家を追い出された。その後複雑な生い立ちを経て、たまたま適当に受けた騎士試験に受かってしまう。死んだ母親は貴族でなく実は前国王と結婚していたらしく、俺は国王の弟だったというのだ。そして、国王陛下の俺への寵愛がとまらなくて? R18です。性描写に★をつけてますので苦手な方は回避願います。 ジュリアン編は「騎士団長は天使の俺と恋をする」とのコラボになっています。

処理中です...