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呆れるほどの蒼穹で②

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「オレはこの美しさに見合う、浪漫を授けられた男なんだよ」

 ハンスの死罪を告げられ、どんより重くなった雰囲気の中、フレデリクは突飛なことを言った。

 盛り上げようとしてくれたんだろうか。

 そういう気分になるのは、途方もなく先のように思える。


 俺は

「はい、そうだと思ってました」

 と適当に返事した。

 ごめん、こんな気分では気の利いた返しは思いつかないんだ。


「フフ、キミはオレのことをよく知ってるね。偉い偉い。そんなキミにもっといいことを教えてあげようか?」

「は、はい」

 俺に口八丁は通用しないぞ!


「キミは本来、死罪となるはずだったんだよ。それを減刑したのは宰相の計らい」

 それはさっきも聞いたな。


「オレたちは死んだらどこに行くと思う? 死んで帰って来られた人はいないから、正解は誰にも分からない。多くの人は、見てきたわけでもないのに、どこにも行かないって答える。次の命の番が回ってくるまで、何でもない存在になるってね」

 ラムハリ王国あるいはこの世界で、死後の話はそのように捉えられているんだな。

 俺も異世界には来たけど、ここは死後の世界とは違うらしいから答えは想像するしかない。


「オレはね、愛し合った恋人たちは来世で再会して、もっと情熱的な恋仲になると思ってる」

 そう言って口説くフレデリクと、うっとり見つめる女性が目に浮かぶ。

 まあ、人によってはロマンチストに映るかな……。


「でも宰相は違うみたいだ。彼はルトスター学を修めたらしいから、オレみたいな考えは理解できないだろうね」

 聞き覚えのない言葉だ。

「ルトスター学?」


「ルトスター学では、前世で関わりのあった人間と来世で再会するには、条件を満たさなきゃいけない。愛し合っているだけじゃ不十分ってこと。この世で愛ほど尊く難しいものはないのに、おかしいよね?」

 そもそも俺は前世とか来世とか、あまり深く考えたことがない。

 存在する前提で話が進んでいるのは、この世界の人にとっては当たり前の概念なんだろう。


「前世の恋人と再会したければ、同じ日に命を絶つ必要があるんだよ。ルトスター学をかじった女性は、すぐに心中を持ちかけるから困ったものだねぇ」

 モテる男ならではの苦労だな。

 どうして俺にこんな話を?

 モテ自慢したいわけじゃなさそうだし……。


 あっ、そういうことか!

「オーケルマンがハンスを死罪にして、俺をあえて流刑にしたのって……」

「そう。実に宰相らしい陰湿な策略だよね。キミたちを処刑するだけじゃ物足りないってさ。来世ですら結ばれることがないよう、全ての可能性を潰してる」

 俺が今、生きてるのはオーケルマンの底意地の悪さあってこそだったのか。


「フレディさん、俺はハンスに会いたいんだ。例え来世で会えなくても、どっかで会えるだろ? 幽霊でも魂でも良い。俺も同じ形になって、空の上から地の底まで探すよ」

 ひょっとしたらハンスは、俺が元いた世界に飛ばされてるってこともある。

 場所なんてどうでもいい。

 会って謝りたいんだ。


「あー、大事なことを言い忘れてたんだけど……、団長はまだ生きてるよ」

「えっ!?」

 いきなり立ち上がったから、荷台がぐらついた。


「まあまあ、落ち着いて。馬がびっくりするから座ってね」

「すみませんっ!」

 座って空を見上げた。

 今、ハンスは生きてるって言ったよな?

 目覚めた時と何一つ変わらないが、この青が希望に思えてくる。


「さっきも言ったでしょ? 宰相は全ての可能性を潰してる。団長の処刑執行がキミの耳に届いたら、今みたいに後を追いかけたくなるよね?」

 実際にそうだったから、否定できない。

「だから処刑執行の日はまだ決まってない。宰相のことだから、じっくり団長をいたぶるのが先だよ」


 生きてるなら尚更、今すぐ会いに行くべきだ!

 フレデリクたちにも協力してもらえば、きっと王国から出られる!

 王国の手が及ばない国まで逃げれば、誰にも邪魔されない。


「フレディさん! 俺――」

「ダメだよ」

 フレディは待ってましたとばかりに言葉を遮った。
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