60 / 77
呆れるほどの蒼穹で
しおりを挟む
俺の眼前に広がる蒼穹――。
体を起こすと、後頭部がズキンと痛む。
そうか、俺はあの時、後ろから殴られたんだった。
気を失っている間に、ボロボロの荷台に乗せられ、どこかへ運ばれているらしい。
一体どこへ向かっている?
ハンスはどうなった?
俺は御者の後ろ姿に見覚えがあることに気付いた。
「ようやくお目覚めかな、ハニー?」
「フレディさん!?」
騎士がどうして運び人なんて真似を?
荷台は人家がなく緑もほとんど生えていない荒れ果てた地を行く。
「裁判はどうなったんですか? ハンスは無事なんですか? ここは一体どこなんですか?」
矢継ぎ早に訊ねた。
「そう焦らないでよ。ゆっくり話す分だけの時間はあるから」
フレデリクはまず、俺が置かれた状況を説明した。
「キミは流刑にされた。実に寛大な処置だよね。死刑にならなかったのは宰相が便宜を計ったんだ」
そもそもオーケルマンに着せられた濡れ衣だ。
刑が軽くなったからと感謝する気にはなれない。
「今向かっているのは、北の台地。ラムハリの早馬でなければ、オレとキミの旅はもっと長かったろうに、残念だね」
「俺は気を失っていたんですよね?」
この辺りに響くのは俺たちの話し声と、小気味良い馬の足音だけだ。
「キミは丸2日起きなかったよ。受け入れがたい大きなショックに、防御反応を起こしたんだろうね」
最後の光景を思い出し、顔をしかめた。
「お腹空いたでしょ。オレので良ければどうぞ。本当はダメなんだけど、誰も見てないよ」
荷台の隅に置かれた布袋に食糧が入っているのだろう。
「ありがとうございます。でも今は食欲がありません……」
「食べられるうちに食べておいた方が良いと思うよ?」
流刑ってことは、そこで誰にも知られず餓死しろってことか?
いずれ許されるかもしれないと希望を抱きながら、決して来ない迎えを待って死ぬ……。
飢える前に気が狂って死にそうだ。
「今ここで、逃げたらどうするんですか?」
返事が来なかった。
話上手なフレデリクが押し黙るとは思えないし、聞こえなかったか?
「フレディさん?」
「許さないよ」
……俺が妙な行動に出た瞬間、始末するのがこの人に与えられた役目なんだ。
迷惑はかけちゃいけない。
フレデリクだって気分の良い仕事じゃないはずだ。
「それより団長のことが気になってるんじゃないの?」
「……教えて欲しいです」
俺とは別の地へ流刑か?
王様が助けてくれて、王宮で普通に過ごしてるとか?
「死罪だよ――」
「え?」
耳を疑った。
認めたくなくて、フレデリクがいつもの調子で冗談だと笑ってくれるのを待った。
「死罪が妥当だってさ。姦通に反逆、王宮裁判の侮辱。罪名だけ並べれば大悪党だね。今回はご婦人方も擁護してくれなさそうだ」
「オーケルマンは嘘を吐いたんだ! 俺たちは何も――」
「分かってるよ。気取った貴族や裁判官には分からなかったってだけだね。分かっていたとしても、権力を持て余すとそうなっちゃうんだろうね」
フレデリクは飄々と話すが、怒りが見え隠れしている。
悔しいのは俺だけじゃない。
体を起こすと、後頭部がズキンと痛む。
そうか、俺はあの時、後ろから殴られたんだった。
気を失っている間に、ボロボロの荷台に乗せられ、どこかへ運ばれているらしい。
一体どこへ向かっている?
ハンスはどうなった?
俺は御者の後ろ姿に見覚えがあることに気付いた。
「ようやくお目覚めかな、ハニー?」
「フレディさん!?」
騎士がどうして運び人なんて真似を?
荷台は人家がなく緑もほとんど生えていない荒れ果てた地を行く。
「裁判はどうなったんですか? ハンスは無事なんですか? ここは一体どこなんですか?」
矢継ぎ早に訊ねた。
「そう焦らないでよ。ゆっくり話す分だけの時間はあるから」
フレデリクはまず、俺が置かれた状況を説明した。
「キミは流刑にされた。実に寛大な処置だよね。死刑にならなかったのは宰相が便宜を計ったんだ」
そもそもオーケルマンに着せられた濡れ衣だ。
刑が軽くなったからと感謝する気にはなれない。
「今向かっているのは、北の台地。ラムハリの早馬でなければ、オレとキミの旅はもっと長かったろうに、残念だね」
「俺は気を失っていたんですよね?」
この辺りに響くのは俺たちの話し声と、小気味良い馬の足音だけだ。
「キミは丸2日起きなかったよ。受け入れがたい大きなショックに、防御反応を起こしたんだろうね」
最後の光景を思い出し、顔をしかめた。
「お腹空いたでしょ。オレので良ければどうぞ。本当はダメなんだけど、誰も見てないよ」
荷台の隅に置かれた布袋に食糧が入っているのだろう。
「ありがとうございます。でも今は食欲がありません……」
「食べられるうちに食べておいた方が良いと思うよ?」
流刑ってことは、そこで誰にも知られず餓死しろってことか?
いずれ許されるかもしれないと希望を抱きながら、決して来ない迎えを待って死ぬ……。
飢える前に気が狂って死にそうだ。
「今ここで、逃げたらどうするんですか?」
返事が来なかった。
話上手なフレデリクが押し黙るとは思えないし、聞こえなかったか?
「フレディさん?」
「許さないよ」
……俺が妙な行動に出た瞬間、始末するのがこの人に与えられた役目なんだ。
迷惑はかけちゃいけない。
フレデリクだって気分の良い仕事じゃないはずだ。
「それより団長のことが気になってるんじゃないの?」
「……教えて欲しいです」
俺とは別の地へ流刑か?
王様が助けてくれて、王宮で普通に過ごしてるとか?
「死罪だよ――」
「え?」
耳を疑った。
認めたくなくて、フレデリクがいつもの調子で冗談だと笑ってくれるのを待った。
「死罪が妥当だってさ。姦通に反逆、王宮裁判の侮辱。罪名だけ並べれば大悪党だね。今回はご婦人方も擁護してくれなさそうだ」
「オーケルマンは嘘を吐いたんだ! 俺たちは何も――」
「分かってるよ。気取った貴族や裁判官には分からなかったってだけだね。分かっていたとしても、権力を持て余すとそうなっちゃうんだろうね」
フレデリクは飄々と話すが、怒りが見え隠れしている。
悔しいのは俺だけじゃない。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる