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呆れるほどの蒼穹で

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 俺の眼前に広がる蒼穹――。


 体を起こすと、後頭部がズキンと痛む。

 そうか、俺はあの時、後ろから殴られたんだった。

 気を失っている間に、ボロボロの荷台に乗せられ、どこかへ運ばれているらしい。


 一体どこへ向かっている?

 ハンスはどうなった?

 俺は御者の後ろ姿に見覚えがあることに気付いた。


「ようやくお目覚めかな、ハニー?」

「フレディさん!?」

 騎士がどうして運び人なんて真似を?


 荷台は人家がなく緑もほとんど生えていない荒れ果てた地を行く。

「裁判はどうなったんですか? ハンスは無事なんですか? ここは一体どこなんですか?」

 矢継ぎ早に訊ねた。


「そう焦らないでよ。ゆっくり話す分だけの時間はあるから」

 フレデリクはまず、俺が置かれた状況を説明した。


「キミは流刑にされた。実に寛大な処置だよね。死刑にならなかったのは宰相が便宜を計ったんだ」

 そもそもオーケルマンに着せられた濡れ衣だ。

 刑が軽くなったからと感謝する気にはなれない。


「今向かっているのは、北の台地。ラムハリの早馬でなければ、オレとキミの旅はもっと長かったろうに、残念だね」

「俺は気を失っていたんですよね?」

 この辺りに響くのは俺たちの話し声と、小気味良い馬の足音だけだ。


「キミは丸2日起きなかったよ。受け入れがたい大きなショックに、防御反応を起こしたんだろうね」

 最後の光景を思い出し、顔をしかめた。

「お腹空いたでしょ。オレので良ければどうぞ。本当はダメなんだけど、誰も見てないよ」

 荷台の隅に置かれた布袋に食糧が入っているのだろう。


「ありがとうございます。でも今は食欲がありません……」

「食べられるうちに食べておいた方が良いと思うよ?」

 流刑ってことは、そこで誰にも知られず餓死しろってことか?

 いずれ許されるかもしれないと希望を抱きながら、決して来ない迎えを待って死ぬ……。

 飢える前に気が狂って死にそうだ。


「今ここで、逃げたらどうするんですか?」

 返事が来なかった。

 話上手なフレデリクが押し黙るとは思えないし、聞こえなかったか?

「フレディさん?」


「許さないよ」

 ……俺が妙な行動に出た瞬間、始末するのがこの人に与えられた役目なんだ。

 迷惑はかけちゃいけない。

 フレデリクだって気分の良い仕事じゃないはずだ。


「それより団長のことが気になってるんじゃないの?」

「……教えて欲しいです」

 俺とは別の地へ流刑か?

 王様が助けてくれて、王宮で普通に過ごしてるとか?


「死罪だよ――」

「え?」

 耳を疑った。

 認めたくなくて、フレデリクがいつもの調子で冗談だと笑ってくれるのを待った。


「死罪が妥当だってさ。姦通に反逆、王宮裁判の侮辱。罪名だけ並べれば大悪党だね。今回はご婦人方も擁護してくれなさそうだ」

「オーケルマンは嘘を吐いたんだ! 俺たちは何も――」

「分かってるよ。気取った貴族や裁判官には分からなかったってだけだね。分かっていたとしても、権力を持て余すとそうなっちゃうんだろうね」

 フレデリクは飄々と話すが、怒りが見え隠れしている。

 悔しいのは俺だけじゃない。
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